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なにこれ

「た、戦うって……わたし無理……」


「アリスもです………そもそも、どんな理由だとしてもスティアちゃんに刃を向けるなんて出来ないです……」


 2人でオドオドしていると、スティアが叫ぶ。


「アリス!あんた仮にも探偵でしょ?あたしがなんでこんなことしてるか想像できないの?わからない?」


 彼女の作りだしたアルケミストワールド……その謎の空間の中、スティアは続ける。


「わかんないわよね。まあいいわ。どうせあんたは勝てないし。」


「……あれ、戦うのってわたし?」


 『あんた』……それは明らかにわたしに向けられた言葉だった。つまり一体一?え、無理。せめてドレッド・ブレードがあるアリスならまだしも……


「そうよ、あんたよ。ていうかあんたじゃないと成り立たないのよこの戦い。」


「?」


 わたしじゃないとダメ……?


「そうよ、アリスじゃだめよ。当たり前じゃない。」


「なんで?」


「なんでって……そんなの決まってるわ!『あんたとあたし、どっちがアリスのこと好きか』で競うからよ!!!」













「は?」


「へ?」


 何言ってんのこの子?大丈夫?


「アリスから聞いてるでしょ?あたしはアリスと同じ街に住んでて、よく色んなもの作ってあげてたわ。」


「うん、ドレッド・ブレードとか。」


「そうよ!アリスはいつも『自分にはもったいないから』なんて言ってたけど、そんなこと関係ないのよ!あたしはアリスのことが好き、だから作ってあげてたの!だから本当はアイリーン家になんて言われても、街から出ていって欲しくなんてなかったわ。でも、止めてもダメだった……だからせめて、ドレッド・ブレードを作ってあげたわ。その剣はあたしの錬金術の全てを……あと愛とか込めて創ったわ。」


「お、重い……」


「悠久の時を封じると言われる時の水晶と、アダマンタイトで作った、永遠に動き続ける歯車『永久機構』と、ミスリル鉱石とオリハルコンを混ぜ合わせて作った賢者の石を調合して作った最強の武器がドレッド・ブレード!もうひとつ同じもの作れなんて言われても、無理だわ。それにアリスのその薬もよ。アリスのためにオリジナルのレシピ考えて作ったのよ、他でもなく、アリスだけのために。」


「それについては本当に助かってます。ありがとです。」


 アリスは頭を下げる。いやぁなんか……うん。



「なのに……なのにどうしてよ。」


「な、なんですか……」


 スティアは今度はわたしをゆびさす。


「それなのに、ルナ……こんなやつと一緒にいたなんて。」


 スティアはそれ以上何も言わない。でも、わたしもわかった。スティアはあれだ、『めんどくさい女の子』だ。


「………それで、どうやって戦うの?」


「単純よ。どっちの言葉より深く、アリスの心に刺さるか…つまり、」


「……アリスを『おとした』方の勝ち?」


「そうよ、バカの癖にわかってるじゃない。」


 しょーもない………適当にやって終わらせようかな……何も命かけてる訳じゃな…


「言っとくけど、あんたが負けたら殺すわよ。」


「エグい!」


「当たり前じゃない。魔王様から直接あんたらを殺すように頼まれてんだから。でも、もしアリスがあんたを選んだら殺さないであげるわ。ま、無理でしょうけど。……それと、」


 スティアはアリスに近づき言う。


「へんな贔屓なしよ?わかってるわよね?」


「は、はい……平気です。……ごめんなさいルナちゃん……」


「あはは………なにこれ……」


―――――――――――


「じゃ、あたしからよ。」


 相変わらずよくわかんない景色が広がるアルケミストワールドで、スティアはアリスの正面に立つ。わたしはその横から2人を眺める体勢になる。


「き、緊張します……」


「なんて言っても、あたしが今更アリスに言うこともないのよね。あたしはあんたのためにならなんだってしてもいいと思ってるし、なんでも捧げるわ。お金でも錬金術でも地位も……それでも足りないくらい、あんたの事………」


「ねえ、なんでスティアはそんなにアリスのこと……」


「外野は黙ってて!今はあたしとアリスが喋ってんのよ!」


「そうですよルナちゃん!」


 なんかアリスにも怒られた。やっぱりこの2人息合ってる感じするなぁ。


「あんたがアイリーン家から追い出されたとか、探偵としてダメダメだとか、あたしには関係ないわ。そんなこと関係なく、愛してる。ただそれだけなのよ。一生をかけても尽きないくらい、好きなんだから………」


 お、重すぎる………怖いって。


「す、スティアちゃん………」


 アリスも恥ずかしそうに目を背けている。うーん。


「レズレインボー王国じゃん……」


「は?なんか言った?」


「あ、気にしないで。」


「そう……ま、あたしはこれで終わり。もう十分よ。」


 そう言ってスティアは引き下がり、わたしに前に出るように促す。


「せいぜいやってみてよ。数日しか一緒にいないあんたじゃ無理だろうけど。」


「あ、まだ数日しかたってなかったっけ。なんか1週間くらいたってる気がしてた。」


「不思議ですね、アリスもです。」


「………ふん。」


 ……さて、どうしよう。正直いってわたしはアリスのことなんてまだまだよく知らないし、スティアみたいな深い愛もないし。だからといってアリスのこと嫌いとかそんなことは全然ないし、そもそも何としても勝たないと死ぬ。



 ああ、でも………思い返す………スティアの言葉は確かに深い愛もあるし、アリスのことをよく考えてるってわかる。でも、足りない。そんな長い言葉でも、足りないものがある。いや、むしろ……この一言………これだ。これはたぶん、()()()()()()()()()()()


「………アリス」


 せっかくだし、アリスの側まで行く。


「は、はい………」


「わたしは、アリスのことよくわかんないけど……一緒にいて欲しい。今のわたしにはアリスが『必要』。だから、最後まで一緒に歩いていて欲しい………どう?」


「る、ルナちゃん……!」


 大丈夫、これで伝わったはず……そう信じて、わたしは引き下がり、スティアに告げる。


「わたしはもういいよ。あとは……アリスに判断してもらおう。」


「もう終わり?舐められてるわね……いいわ。じゃあアリス、ジャッジお願い。」


 まるで勝利を確信しているかのような態度のスティア。果たしてどうかな、わたしも自信あるよ。だって………


「はい!アリスは………ルナちゃんがいいです!ごめんなさい、スティアちゃん………」


 嬉しそうに、そして申し訳なさそうにアリスはそう告げた。


「やったぁ!」


 ただ、スティアが黙っているわけない。長い髪をゆらし、激しい剣幕で抗議してくる。


「は、はぁ!?ルナの方がいい!?なんでよ!なんであんな……あんな空っぽで短い言葉で………」


「はい………でも、いいんです。贔屓でも何でもなく、アリスはルナちゃんの言葉が嬉しかったからです。アリスのことを『必要』と言ってくれた………そんなルナちゃんが、素敵です。」


「な………」


 その驚いた顔……わかってなかった証拠だよ。


「スティア……あなたの言葉は確かに……まあちょっと重すぎだけど、愛はあったよ……。でも違うよ。それはスティアの『エゴ』。アリスことを考えてるようで考えてない。相手に寄り添って、尊重……」


「うるさい!うるさいうるさい!!あんたみたいなバカに何かわかる!!もういい!!あたしが1番なの!!もう1回あたしの番!」


 スティアはわたしをさえぎって叫ぶ。


「は!?ちょ、ルール!ルール違反!!もう勝負ついてるから!」


「知らないわよ!このアルケミストワールドはあたしの世界!あたしがルールなんだから!!」


 喚き散らしながら、スティアは杖を投げ捨てて天に手を掲げる。


「あたしがルール!……さあ君臨しなさい!あたしの魂!不死鳥フェニックス!」


 そう叫ぶと同時に、スティアの上空に燃え盛る大きい鳥が現れる。


「ちょ、何!?モンスター使役できるの!?ずるでしょ!」


「ルナちゃん!違います!あれは恐らく幻影……この世界だからこそできることです!」


「そうよ!さあみなさいアリス!これかあたしの『愛』なんだから!」


 そうしてスティアは攻撃を…………するわけでなく、不死鳥を使ってなにかしている。なにこれ?翼を広げたり炎をまい散らせたりしてる。


「………?」


「スティアちゃん………?」


「行くわよ……!」


 何かの決意を決めたような顔をして、スティアは嘘みたいに高く飛び上がる。流石自分の世界……。

 そして、空中で不死鳥と混じり合い、まるで燃え盛る鎧のように不死鳥を身に纏う。


「『炎舞・太陽の禁術』よ!」


 そしてアリスの前にはおり立ったスティアは、なにか綺麗な石をアリスに差し出す。


「これは………賢者の石ですか?」


「そうよ、あんたにあげる。どうかしら?今、この一瞬で作ったのよ。わかるかしら、今のあたしにはこんなことも出来るのよ。普通の錬金術師が一生かかっても出来ないよう事よ。」


「スティアちゃん……嬉しいです……」


 あ、あれ………?なんかちょっと揺らいでない?不味い……どうしたら……


「あ……」


「なによ、どうしたのよ。」


 もしかしたらわたしもできるんじゃない?今の。


「アリス!見てて!わたしもやるから!!」


「え?」


「何馬鹿なことを…」


「……なんでもいいから出てきて!わたしのたましい〜!!」


 真似をして叫んでみる。…………すると


「あ!!出た!!すごい!!」


 わたしの背後に大きい一角の馬……『ユニコーン』の幻影が出現した。


「な、あんた一体……」


「スティアが炎で太陽………それなら!」


 試しに地面を強く蹴ってみると、馬鹿みたいに高くとべた。なにこれ楽しい。


ルナのように輝いて……そして狂宴ルナティックみたいに激しく……あとはついでに冷たく……」




「べつにユニコーンとはなんの関係もないけど!『月下狂想・風雪乱舞』!」


 2秒で考えた技名、かっこいい!


 気合いを入れたわたしの叫びに呼応するかのように、幻影のユニコーンが激しく嘶く。そして、わたしの体をその角で貫く…もちろん、幻影だから痛くない。


 そしてそのまま落下を始めるわたしの体は、もはや『ユニコーンと一体化』している感覚になる。(別にしてないけど)


 あとは、アリスの前に降り立ち………


「アリス……何度でも言うから……。わたしには、アリスが必要。……あとこれあげる。」


 賢者の石なんてないから、とあるものをアリスの手に握らせる。


「なんですかこれ?」


「セミのぬけがら」


「いらないです………」


 そう言って、アリスはその場でにぎりつぶす。


「あぁ………」


「それで終わり?」


 後ろからスティアが威圧するように言ってくる。


「うん、終わり。なんか出てきて楽しかった!」


 気がつくと、ユニコーンも不死鳥も消えていた。なんだったんだろうあれ。


「随分余裕じゃない。さ、アリス。改めて判定お願い。」


 …………いや、だからなにこれ?わたしは何をしてるんだろう?


なにこれ

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