運命革命の刻
「おっとっと……お話ししようと思いましたけど、意外と歩きにくいですね…」
「うわ、危な………うん、そうだね。」
確かに、登りの道とはかなり変わって、岩がゴロゴロしてたり、いきなり急になったりで歩きにくい。
そのせいで、女神の話が全然できない。まあ、今急いで聞かなくても後でゆっくり聞けばいいかな……。
「でも……危険な生き物はいなそうで良かったです。」
「そうだね……おっとっと。」
木がすくなくなって視界が開けたと思ったら、今度は道が狭くなり崖になっていた。崖じゃない斜面側張り付くようにしてゆっくり歩いていく。
「ふぅ……下りも意外と疲れます。」
「そうだね…………ん?」
崖地帯が終わり、また視界の良くない登山道になった………その道の先の方、誰かいる。
「おや……アリス達以外にも人がいるなんて……」
ここまで誰ともすれ違って来なかったけど、ここで良かったかな。さっきの崖地帯だったら1人分のスペースしか無かったし。
「………変な格好。」
少しずつこちらに向かって歩いてくるその人は、ローブのようなものを纏っていて、顔が見えない。あんな格好で山歩いたら木に引っかかって大変なことになりそうだけど…。
「結構下りましたね。もう少しで終わり……っ!」
「えっ、なに……!?」
ローブを纏った人とすれ違おうとした瞬間、体が動かなくなる。………いや、正確には『足』が動かない。体や目線は動く。
「……ルナとアリス………か。」
「えっ」
「アリス達の名前……」
ローブの人は、わたしたちの前に出てきて名前を呼ぶ。その声は男のようにも女のようにも子供のようにも大人のようにも聞こえる、変な声。
「愚かにも魔王を倒す為の補助道具……『神器』を集めるもの共。」
「神器?」
「なるほど……それらの道具は神器と呼ばれるものなんですか………そんなことを知ってるあなたは何者です?」
「ワレこそが……汝らの目指す『魔王』………これなるは仮初の姿。真なるワレは彼の地なり。」
ローブの人は抑揚のない妙な声で喋る。
「あなたが魔王?」
「……変な冗談です。流石のアリスも騙されません。」
無視していく………ことは出来ない。何故か動けないし。
「ならばこれならどうだ?」
自称魔王は手をふりかざす。すると、辺りに突風が吹き、みるみるうちに周りの木々や草が枯れ、干からびていく。
「なっ……」
「なんですかこれ……こんな魔法、見たことないです……」
「魔法………そのようなつまらん術などではない。選ばれし者……ワレにしか出来ぬ秘術。森羅万象全ての生命はワレの糧となるためにある。ワレの前には人も動物もモンスターも等しく無力。」
そう喋ってるうちにもその範囲は広がっていく。木が枯れたせいで、日が差し込みあたりの雰囲気に合わず明るくなる。
「なに……命を吸う……?」
「き、きいたことないですそんなの………」
「忠告だ。汝らがここで引き返すなら全てはなかったことになろう。だが……歩みを止めないと言うなら汝らに待つのは絶対的な死のみ………愚かな結末にならぬよう、よく考えるがいい。」
「あっ」
それだけ言うと、自称魔王はパッと消えた。後には枯れ果てた空間だけが残る。そして、足も動く。
「…………」
「ルナちゃん………今のは……」
「わかんない………でも、怖かった。」
「はい……アリスもです。」
率直にいえば、それしかない。怖い、ただただ恐怖。見たこともない、感じたこともないもの。
「……引き返します?」
「まさか、わたしはこんな事じゃ止まらないよ!絶対……えっと、なんだっけな…………あ、『神器』か。それ見つけるから!」
「それならアリスも一緒に行きますよ!さあ、早く山をおりましょう!」
―――――――――――――――
「おー!平地!」
意外と長かったような、でもやっぱり短いような道を歩き終わり、またまた草原に出る。少しだけ日が傾き始めている草原もまた、綺麗!
「暗くなる前に降りれて良かったです。さて、どこに向かいましょうか?南……はどっちかわかりません。」
「わたしもわかんない!適当!」
歩いてればいつかどこか着く!なんとかなるなる!
「まあ、そうですね。一応気をつけて行きますよ。魔王?に目つけられたかもしれないので。」
アリスは帽子を少し深く被って言う。
「そうだね、魔王のしきゃくがいるかもしれない!」
「確かにそうです。もしあれが本当に魔王だとすれば刺客くらいいてもおかしくないです。」
「ん?」
「なんですか?」
「ん、なんでもない。」
―――――――――――――
「あ、誰かいる。こんにちわー!」
広い平原、その中に誰か佇んていた。わたしの声が聞こえなかったのか、向こう側を向いたまま動かない。
「いや不用意ですよ……」
「あ、確かに……」
魔王のしきゃくの可能性も無くはない。
なんて言いつつ、近づいて見ると、どうやら女の子っぽい。
風の吹く草原に立っていて、変な形の杖を持つその子のピンク色の長い髪は綺麗に靡いている。ドレスのような派手な服とスカートもヒラヒラとしていて綺麗。顔は見えないけど、多分かわいいと思う。
「あれ……?」
アリスはその子をマジマジと見て首を傾げる。
「どうしたの?」
「あー!!」
けど、わたしの質問には答えずアリスは叫びながら走り出した。
「す、スティアちゃん!!なんで!!?」
スティア……錬金術師の子だっけ?ドレッド・ブレードを作った子。
「ん……アリス……久しぶりね。」
名前を呼ばれ振り返る辺り、ほんとに本人っぽい。アリスのことも知ってそうだし。
「ど、どうしたんですか!?街のお店は……?」
「街の錬金術師スティアはもう居ないわ………」
「はい?」
「今のあたしは……魔王軍四天王が1人、『破滅の錬金術師スティア』よ!」
スティアと呼ばれる少女は持っていた杖の先っぽをアリスに向けてそう宣言した。
「ひえ〜」
だけど、アリスはそんなスティアに対しておどけたリアクションをとる。
「な、なによそのふざけたリアクション!」
「だって……スティアちゃんがそんなことするなんて思えません。おふざけでアリスのことおちょくってます?そもそも魔王軍とか四天王とか初めて聞きましたし。」
「違うわよ!本気よ!アリス、それからあんた……ルナ!あんたもよ!」
スティアは叫びながらわたし達を指さす。
「なんのはなし?」
「魔王様の忠告を無視したってことはそういうことよね?ここで死ぬ覚悟………あるんでしょ?」
「あれ、スティアちゃん本気です?」
「当たり前よ!」
「うわっ危な!?」
スティアはわたしの足元にナイフを投げてきた。やけに鋭にそれは、地面に深く突き刺さる。
「そんなぁ……どうしてスティアちゃんがそんなことしてるんですか?アリスのことやこの世界のこと嫌いになっちゃいました?」
「理由……そうね、あたしに勝てたら教えてあげるわよ。……ま、そんなこと世界がひっくりかえってもありえないけど。さあ……はじめるわよ!」
スティアが杖を振ると、あたりの景色が歪み、変な空間が出来上がった。
「な、なにこれ……」
「魔王様から貰った力……あたしの世界をつくる力!この空間『アルケミストワールド』なら大体のことはあたしの思うがまま………さあ、戦いの時間よ!」
刺客と刺客はどちらでもいいみたいです。