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マナの山

「なんでこの山ってマナの山って言うのかな?」


 まだまだ険しくも危険でも無い山道歩きながら、暇だからアリスにきいてみた。


「マナというのは自然界に存在する栄養などの総称のようなものです。この山には栄養が沢山ある……その程度の理由じゃないでしょうか。しかし、その栄養が必ずしも人にとって有益とは限りません。」


「?」


「この山はどうやら人間にとってはあまり関係の無い栄養で溢れているようです。逆に危険な生き物や虫にとっては格好の餌場……かも知れません。だから危険な山なのですかね?」


「そうなことわかるんだ。」


「アリスも一応探偵です。ものを見る目だけはその辺の人には負けない自信がありますよ!」


 前を歩くアリスはこちらを振り返り、笑顔で言う。


「……前見て。」


「いたっ!」


 後ろを向いていたアリスは、倒れかけていた木にそのままぶつかった。………もしかしてわたしよりマヌケかも。


―――――――――――――――


「あぁ〜……疲れた……」


「はい〜……アリスも疲れましたよ………」


 歩いても歩いても景色が変わらず、傾斜は少しずつ厳しくなっていく。まだまだ日は高いからそんなに長い時間歩いてないと思うけど、めちゃくちゃ疲れたよ。


「ちょっと休も………」


「賛成です……」



 ちょうど近くに大きい岩があったから、2人でそこに並んで座る。木々の隙間からの木漏れ日で辺りは明るく、いい雰囲気、


「ふぅ〜……」


「まだまだ山頂も遠そうです……」


「そうだ………うわっ!?やだ!」


 岩に手をつこうとした時、嫌いないきものがそこにいて思わず立ち上がる。


「ルナちゃん?……あ、これは………」


 そこに居たのはカタツムリ。それも普通のと少し違う。


「これ、あれですね。『鋼鉄カタツムリ』の幼体です。大きさは今は普通のカタツムリですけど、最後はすごい大きくなるんですよね。在来種のモンスターです。」


「し、知ってるよ………」


「ルナちゃん、カタツムリ嫌いですか?」


「嫌い!ヤダ!!軟体動物気持ち悪い!!」


 そんなわたしに対して、アリスは鋼鉄カタツムリの殻を持ってひょいと持ち上げる。


「なんか意外です……ルナちゃんならカタツムリとか食べてそうなのに。」


「わたしのことなんだと思ってるの!?あ、そのままこっち来ないでね………」


「でも、こんな小さくてもモンスターです。大きくなる前に……えい!」


 何をするかと思えば、アリスは鋼鉄カタツムリを岩にたたきつけて、踏み潰した。足をあげるとそこにはカタツムリの残骸と()()()()がこびりついていた。


「え、こわ。」


「モンスターは基本的には駆除対象です。楽なうちにトドメをさすんですよ。」


「……あれ、カタツムリって緑色の血液なの?」


 そもそもカタツムリって血液あるのかな、知らない。いやないわけ無いけどさ。


「ルナちゃんそんなことも知らないんですか〜?」


 アリスはニコッと笑ってわたしに近づいて来て続ける。


「モンスターはみんなこの色の血ですよ?」


「……ああ、そうだったね。カタツムリってことが先行しすぎてちょっと混乱してた。」


 思い出した思い出した。モンスターと普通の動物。違いは血の色。どんなに普通の動物っぽくても、血の色が緑色ならそれはモンスター。そういえばママもそうだったかも。気にしたことないけど。


「そうですよ〜。だから、人間である魚人種も、モンスターであるハーピィも、どちらも人に近い形をした生き物……という意味では似ていますが、ハーピィは緑色の血なんです。………ところで、ハーピィと言えば………」


 アリスは何か言いたそう。ママのことかな?


「なに?」


「ハーピィはあくまでもモンスターですし、知能も高くありません。ですが、ルナちゃんのお母さんは普通に人間と暮らしていたんですよね?」


「うん、むしろ村の中でも頭いいほうだったよ。少なくともパパとわたしよりは頭良いし。」


「うーん………不思議ですね。」


「え、ていうか待って。モンスター駆除対象なんだからわたしのママもアレなの?」


「いや……人々もさすがにそこまで頭固くないですよ。人の生活に馴染めばそれはもう人と同じです。実はペットとかで人間と混ざって生活してるモンスターもいますし。勿論在来種に限りますけど。」


「そっか!じゃ良かった!そろそろ行こっか。」


「ですね。」


――――――――


 少し休んで、周りを見る余裕がまた出来た。歩きながら注意深く観察してみると、さっきまでとはまた違った雰囲気がある。

 何も変わっていないようだけど、少しずつ標高は上がっているから植物に変化がある。見たことない植物とか、よく知ってる植物でも少し形が違っていたりして面白い。


 危険な生き物が多い、とは言っても普通の生き物も沢山いて、鳥の声も聞こえるし、リス?みたいな生き物もいた。


 あんまりそういう風に考えたことなかったけど、旅をするってことは『目的地』に行くことやそれを達成することが到達点なのは当然だけど、その過程も含めて『旅』なんだね。歩くのは疲れるし嫌いないきものがいたりするしお腹空くし天気悪いと嫌だけど、それでも………楽しいかも。


「……ねえ、アリス。」


「はい、どうしましたか?」


「魔王ってさ………ホントにいるの?」


「……はい?ルナちゃん疲れちゃいましたか?休みます?」


「ううん。平気だよ。……だってさ、いや……いるとは思うけどさ。わたしがシオン達といた時は確かに魔界のモンスターに襲われたりしたし、危険なのはわかるよ。でも………もしかしたらわたしが知らないだけかもしれないけど、『実際に魔王に苦しめられてる人』とか『魔王やモンスターに支配された街』なんて見た事ない。シオン達も何も言ってなかったし。だから………」


「なるほど………」


 アリスは歩くのは辞めず、前を見たまま。


「…ルナちゃん、教えてあげます。」


 顔こそ見えないけど、なにか大切なことを言おうとしている空気は感じる。


「え、なにを………」











「それは単にルナちゃんが『世間知らず』なだけです。いいですか、自分の見た聞いた世界が全てなんて思ってちゃダメですよ?アリスの住んでいた北の地域では実際に魔界のモンスターに街ごと焼かれた場所もありますし、魔王の住む山の近隣は全ての命が消滅する不毛の大地となっていると聞きます。他の地域にも、モンスターに心を操られて人間同士で争ってしまった地域や食べ物が全然取れなくなり人が徐々に減っている場所もあります。もっと広い視野とちゃんとした知識がないとアリスみたいになっちゃいますよ。わかりましたか?偶然ルナちゃんが見た、行った場所にそういう場所がなかっただけです。こんなのは世界の常識です。」


「え、あ、ごめん……」


 あー、そっか。シオン達は多分それを知ってたからわざわざ言わなかったんかなぁ。わたしも知ってると思われてたんだね。普通は知ってるらしいし。



 少し変な気分になりながら、また景色に意識を向けながら歩き続ける。そろそろ山頂だといいなぁ……




㊙情報

カタツムリとかナメクジは砂糖でも溶ける

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