クビ!?
「話って、何?」
旅の途中、わたしはパーティのリーダーであり、『勇者』である男、シオンに呼び出されていた。木の陰になる場所で、2人で向き合う。身長の関係でわたしは少し見上げる形になった。
「心当たりないのか?」
何故か、シオンは呆れた感じで言う。
「??」
あ、まさか……!もしかして、愛の告白!?え!困っちゃうなぁ……。たしかにシオンはかっこいいし、強い勇者だけど、そういう目じゃみれないしなぁ……それに、他の仲間……特に、女の子のメルリアとルルちゃんの2人に悪いし……断ったほうが……
「おまえ、『クビ』な。」
「………ん?」
いま、なんと?
「クビ、意味わかるか?お前いらないってこと。」
シオンは溜息をつきながら、冷たい目でわたしを見る。
「……え、えぇ!?なんで!?」
「ほんとにお前自覚ないのか?」
「ないない、あるわけない!だってわたし何もしてないよね!?」
これでもかってくらい首をブンブンふり、わたしは答える。
けど、シオンは言う。
「……だから、それだよ。お前『何もしてない』だろ。」
「ん〜??」
「だからさぁ……」
一旦そこで言葉を区切り、シオンは少し離れたところにいる仲間たちを指さして喋り出す。
「メルリア……お前も分かってるとおり、あいつは賢者の生まれ変わり……だからすごい魔法の使い手で、最強クラスの戦力だ。」
「……うん。」
メルリア……わたしより1つ年上の賢者様。旅の途中で出会って、そのまま仲間になった。本人いわく、勇者と出会うのは運命で、最初から決まっていたんだとか。無邪気で元気な女の子だけど、シオンの言う通り、すごい魔法使いで、めちゃくちゃ強い。
「次、アルト……。あいつは少し変わったヤツだけど、あいつの持ってる剣の力は間違いのないものだ。今までだって、何度もあいつの剣が道を開いて来たよな?」
「……だね。」
アルト君。わたしと同じ歳の魔法剣士。自分の持っている剣に色んな魔法を纏わせて、敵を一刀両断!かっこいいけど、少し変な喋り方をする。シオンがその力をかって、仲間になってもらった。
「あとは、ルル。あいつがいなかったら……わかってるよな?」
「………むぅ。」
ルルちゃん。あの子は1番年下だけど、すごく頼りになる。聖騎士……パラディン・ナイトの女の子で、いつもみんなを護ってくれる。でも、守るだけじゃなくてレイピアの扱いも上手で、とても強い。シオンとわたしが凶暴なモンスターと戦ってる時、危険なところを助けてくれて、そのまま仲間になってくれた。
「で、まあ……俺のことはいいや。」
シオン。この世界にただ1人の勇者。勇者っていうのは、世界が闇に包まれそうな時に覚醒する力を持つ人のこと。だから当然、シオンはすごい力を持っていて、その力を持って、世界を支配しようとしている魔王を倒すために旅をしている。
「さて、じゃあお前は?」
「わたし?わたし…『ルナ』はこのパーティのヒーラー!後衛的な立ち位置で、後ろからみんなを癒してる!わたしがいなかったらこのパーティは崩れちゃうよ!影の支えってやつだよ。」
わたしは精一杯胸を張って言う。……でもシオンは相変わらず冷めている。
「バカか?」
「なんと!?」
あまりにもストレート!?
「お前自分が役に立ってると思ってんのかよ。お前居なくても、勇者の力とメルリアの魔法で余裕で回復できるからな?むしろお前のヒール、弱いし……」
「い、いやいや!そんなこと……」
「あるんだよ。それに、お前が1人で後ろにいるせいでモンスターの攻撃が分散してめんどくさいんだよな……。1箇所にいれば、ルルの持ってるアイギスの盾でみんなまとめて護れるんだよ。」
「…………」
そ、そうなんだ………。
「たしかに、お前は俺がまだ1人で旅をしてた時に仲間になった……それに関してだけは、まあ感謝してやるよ。けどな、さすがにもう無理だ。はっきり言って足でまといで、他のみんなにも迷惑になる。わかってくれ。」
「………むぅ」
「あとな……これが一番言いたかったんが……」
シオンはわたしに1歩近づき、睨みつけてくる。
「な、なんでしょう……?」
「最初の頃から思ってたけど、お前のその格好!なんなんだよ!バカにしてんのかよ!?」
「え、ダメ?」
「ダメとかそういう話じゃないだろ!?軍帽みたいな妙な帽子かぶって、やたら長い金髪ツインテール、黒いマントにブラッドカラーのミニスカに加えて長いブーツ!どう考えても真面目に旅するやつの格好じゃねぇから!詰め込まれすぎだ!後いつも背負ってるその長い太刀みたいな剣もなんなんだよ!?使ったことないよな?」
「……趣味?」
「くっだらねぇな。」
「い、いやいや!人の趣味バカにするとか良くないから!」
「お前今何歳だ?」
「16」
「そこだろ!いい歳した女がする格好じゃないってことだよっ!その歳で四六時中趣味丸出しの格好で旅してんのが馬鹿らしいんだよ……!もういいだろ?さっさと好きなとこいけよ。もうクビなんだよお前は。」
もうこれ以上何も言うことは無い、そういう感じでシオンはこちらに背中を向け、歩いていってしまった。
このままじゃ………ほんとにクビ!?あ、でも他のみんなに声かければ止めてくれるでしょ。
早速みんなのいる方に行き、声をかける。
「え?ルナクビなの!?そうなんだ!頑張ってね!」
「え、あ、…うん。」
メルリア、冷たいな……。
「クビ……?それがお前の運命というなら仕方あるまい……強く生きろよ。」
「………うん。」
アルト君……は最初から期待してなかったけど。
「えぇ!?ルナさんこのパーティから外れちゃうんですか!?寂しいですよ……」
「ルルちゃん……!」
やっぱりこの子はいい子だよ……!きっとシオンになんとか言ってくれるに……
「寂しいですけど、頑張ります……!だからルナさんも頑張ってくださいね!またいつか、どこかで会えたら嬉しいです〜!」
「………あれ?」
――――――――――――――
そんなわけで、本当に置いていかれてしまった。幸い町は近いからそういう意味では困らないけど、そういう事じゃなくて。これからどうするの?故郷の村からもだいぶ遠くだし、とても1人で帰れるとは思えない。だってわたし回復専門で戦闘とか無理だし。
「………いやいや、絶対わたしが居なくなった弊害が出てるはず…!」
諦められなしい認められない。わたしは絶対あのパーティに必要なんだ!これから街で依頼されたモンスター、『レッドドラゴン』の討伐に行くはず。きっとドラゴンの吐く炎のダメージに耐えられなくて泣いてるはずだよ…!こっそり監視!
「……いた!」
小高い山の山頂。レッドドラゴンと4人が対峙している。レッドドラゴンは名前の通り真っ赤な龍で、大きな翼と鉤爪、それから吐き出す灼熱の炎が特徴。強いよ。
少し離れていた所にいても、みんなの声が聞こえてくる。
「アルト!こいつの弱点は氷だ!頼んだ!」
シオンの指示。いつも的確で、相手の弱点を見極めている。その洞察力と、アルト君の魔法剣はすごく噛み合う。
「任せろ……邪龍よ、我が氷剣の餌食となれ……!」
アルト君は素早くドラゴンの足元に駆け込み、鋭く武器を振る。足を切られたドラゴンはバランスを崩し、よろめきながらもシオンに向けて業火を放つ。
「当たりませんよ!」
シオンの前に出てきたルルちゃんが、アイギスの盾で炎を受け止める。
「よし!メルリア!俺に合わせろ!」
「んー、おっけー!」
シオンがドラゴンに対して真正面から勇者の剣で切りつける。そして、それに合わせてメルリアが魔法を唱える。
「いっくよ!スーパーノヴァ!!」
でた、スーパーノヴァ。メルリアの必殺魔法。簡単に言えば超大爆発を起こす魔法で、本気を出せば山1つぶっ飛ぶ。
「よし、終わったな。」
「ふん……見た目だけだな。」
「やったぁ!」
「勝てましたね……。」
凄い、綺麗な連携で圧勝だ。回復する必要すらない。
「…………あれ?」
じゃあやっぱりわたし要らなくない?あぁ……。
「帰ろう……」
これからどうしようかな……お先真っ暗よ。