平原の監視者
錬金術の名前、作者の知識不足で既存の名前になっていたので変更しました、ごめんなさい。
「さて………」
ご飯も食べ終わり、片付けも終わり、テントを建てる。もう辺りは真っ暗で、なにか出来そうなことは無い。
「そういえば、気が付きましたか?」
テントの外で座っていると、アリスが隣に来て声をかけてきた。
「なにが?」
「この辺り、よく見ると他にも瓦礫や建物の跡と思われるものが複数ありました。つまり……かつてここは集落か街か……規模はわかりませんけども、人の住む場所だったということでしょうか。」
「へぇ……全然気が付かなかった……。」
「まあ世界中には滅びた街なんていくらでもありますし、何も珍しいことではないんですけど。」
「これから目指すディープ・アクアとかも滅びたんだよね……んー……眠い……」
「寝ましょうか、いつの間にか雲も出てきていて星も見えませんし、特にすることもないです。……まるでアリスの心の中みたいな闇夜の空です。」
「わ、わかったからもう寝よ?ね?」
―――――――――――――――――――
「……んん……なに…?」
アリスと二人でテントの中で寝た……はずなのに、気がつくと1人で知らない場所にいた。目を開けても真っ暗だけど、ここがテントの中じゃないことくらいはわかる。
耳を澄ますと、どこからか金属同士をぶつけるような不快な音が鳴り響き、それはどんどん大きくなって無視できなくなる。
「誰かいるの…?ここどこ………?」
立ち上がって少し歩いてみるけど、真っ暗で見えないから何も分からない。地面は固く、冷たい……岩かな?
しばらくウロウロしていると、いきなり視界が明るくなった。一瞬目を閉じたけど、すぐに開く。…………
「………ほぇ?」
わたしがたっていた場所は岩のようなもので囲まれた狭い部屋。そして目の前には、少し高くなっている台があり、そこに真っ赤な大きい椅子があった。そして、そこに座っているのは……
「わたし|?」
そこに居たのは、服装も背格好もわたしと全く同じ人物。髪だけは下ろしてるけど、それ以外本当に同じ。
わたし(?)は椅子に座り、椅子の縁に右肘を着き、左手にはわたしがいつも背中につけている刀をもってこちらを見ている。
金属がぶつかるような音は、刀で椅子を叩いている音だった。
「……そうだ、我は貴様………ルナだ。」
「…?」
「悠久の昔から鏡はありとあらゆるものを反転するものとして讃えられてきた……。像や光、魔法………しかしそれだけではない。」
彼女は立ち上がり、刀をわたしに向けて無表情のまま言う。
「『世界そのもの』……それすらも反転し、創り出すことが出来る。……この意味が貴様にわかるか?」
「わかんない。」
「そうだろうな。貴様がそうであるが故に、貴様の眼前には真なる王になるべくしてうまれた我がいる。」
「もう少しわかりやすく喋って?」
アルトくんよりもっと訳わかんない。
「我が主は世界を手中に入れるべく、手段のひとつとして偽りの反転世界を創世した。そう……この空間は全てが反転し、現世の理は異なる……。つまり、現世で救いようのないクズだった貴様は、反転世界のこの空間においては究極に至る力を持つ王として君臨した……それが我だ。」
「ほえ〜………」
わたしは、それを言い終わるとまた座り、刀を投げ捨てた。
「しかし今はまだその時ではない。終局にいたる幕開けはきたるべき時に訪れる。それまでは我はこの未だ完璧とは言えない世界で待つとしよう。今日は挨拶のようなものだ。……次に会う時は貴様が死に、世界を闇に包む時だ。」
「………?」
「自らの愚かさが反転世界の我を創り出した………覚えておくがいい。」
「え、ちょっと……?」
また視界が暗くなり、何も見えなくなると同時に、意識が遠のいて行った。
―――――――――――――
「んー………」
「ルナちゃん!朝です!起きましょう!………お目覚めのお注射します?」
「それはダメ!!」
一気に目が覚めて、起き上がる。アリスはとっくに起きていたようで、いつでも行けるような格好をしていた。
「おはようございます〜!今日もいい天気です!朝ごはんを食べたら直ぐに出発しましょう!」
朝ごはんはアリスが用意してくれていた、パン。これも昨日と同じでなんか見た事ないよく分からんないパンだけど、味は美味しい。
準備を終えて、テントを片付け、進むべき方角を考える。
「どこ行く?」
「そうですね〜……とにかく先に進みましょう!昨日は向こうから来たので、今日はその続きであっちに行ってみましょう!何かあるかも知れません!」
アリスは遠くをゆびさす。果てしなく続くように見える平原だけど、まあいつかどこかにつくはず……。
「そういえば………なんか変な夢見た気がする……なんだっけ、まあいいや!」
――――――――――
しばらく歩いていると
「…!ルナちゃん!伏せてください!」
「え、な」
言い終わる前に、アリスに無理やり手を引かれ、地面に突っ伏す。平原の草が鼻に入ってくすぐったい。
「どうしたの……」
「まずいです………ロック鳥が上空にいます……」
「え………まじで……」
ロック鳥、在来種のモンスター……ではなく、普通の動物。めちゃくちゃ大きい鳥で、象を3匹同時に掴んで雛に食べさせるとか、海上に現れて船ごと掴むとか、そんな突拍子もない話が沢山ある。何が厄介かと言うと、モンスターじゃなくて、あくまでも普通の動物ということ。
何が違うかって、モンスターは特定の住処をもたない種族も多い上に、基本的に勝手に討伐しても問題ない。それに対して、魚とかの食用になる動物以外は勝手に殺しちゃダメだし、なにより陸上の動物(鳥も含む)は、かなり明確に住処がある。だからむしろ勝手にそこに入った人間がわが悪いってことにされる。
生物学的なモンスターと動物の違いは………なんだっけ?忘れちゃった。………って今はそれどころじゃないけど!
「このままやり過ごすしか………あ。」
ダメそう。少し目線をあげると、目の前に大きな影があって、少しづつ高度を下げてきているのがわかる。
「アリス、どうするの…?」
「こうなったら……仕方ないです!」
アリスは立ち上がり、わたしの前に立つ。つられてわたしも立ち上がったけど、何をするか全然分からない。
「……どうするき!?」
「勝手に傷つけたらいけない……それなら、勝手に縄張りに入っておいて申し訳ないですけど、傷つけないように脅かして一時的に追い払います!その隙に逃げる!です!」
「でもどうやって………」
話してる間に、目の前にロック鳥が降りてきた。わざわざ降りてこなくても上から襲えばいいのに………威嚇してるつもりかな?
ロック鳥、めちゃくちゃ大きい鷲みたいな見た目をしている。足に着いている爪は鉤爪で、足そのものの筋肉もえげつない。アリス、どうするつもり……。
「アリスは………アリスだって出来ます!やるんです!!だからスティアちゃん!アリスに力を貸してください!!」
「……だれ?」
誰だか知らない名前を叫んだアリスは、またまた何かを飲み込み、ポーチからなにか短い棒を取り出して、上に投げた。
「いきますよ!剣装錬金……ドレッド・ブレード!!」
その叫びに呼応するかのように、投げられた2本の棒は伸び始め形を変え、2本の剣になりアリスの周りを浮遊し始めた。
「なにそれ!?」
「後でお話しします!ルナちゃんは見ててください!……さあ、ロック鳥さん!少しだけ驚いてもらいます!」
ただ、ロック鳥も黙って見てるわけじゃなく、甲高い声をあげ、飛び立つ。ただ羽ばたくだけでかなりの突風となり、立っているのがやっと。
「飛んでも無駄です!」
アリスは手を振り上げ、剣を上空に向かわせる。2本の剣は意志を持っているかのように動き回り、ロック鳥の周りギリギリで暴れ回る。
「………あ、逃げた………」
いくら強靭なロック鳥でも、目の前で暴れ回る剣の前には恐怖を覚えたのか、逃げていった。まあ怖いよね。
アリスは剣を呼び戻し、元の棒に戻してしまいながら言う。
「さあルナちゃん!今のうちです!とにかく走って逃げましょう!もし群れで戻ってきたら危険です!」
そしてアリスはわたしの手を握って走り出す。
「わかった!急ご!」
――――――――――――
「はぁ〜疲れたぁ………」
「はぁはぁ…ここまで…はぁ…くれば……へいき…はぁ…」
2人で無我夢中で走り、とりあえず安全そうな場所で一息つく。どれくらい走ったかな………。
「それにしても……あの剣なに?それにスティアって………。」
「ああ、そうですね。それについてお話しないとでした。」