ミステリースポット
「おや……なにか見えて来ました!なんでしょうか?」
「ほんとだ……建物?」
何も無い平原の中、遠くに妙な建造物が見えてきた。さらに近づいて見ると、それはかなり異様な造形。
「うーん……なんですかこれ?」
その建物は、くすんでいるけど全体が鏡で出来ている。よーく見ると微かにわたしもアリスの顔が反射している。
そして、材質も特殊ながら、やっぱり外見も変。二階建ての建物だけど、至る所に穴が空いている。朽ち果てて空いた訳じゃなくて、最初から空いていたように感じる。形も歪で、二階の方が大きい。
「………あれ?ドアとかないの?」
ぐるりと一回り。でも、入口らしいものは無い。まあ中に入るだけなら穴から入れるけど………ねぇ?
「おかしいですね………」
中に入ると、アリスが直ぐに声を上げる。
「ん?」
「だって、二階があるのに階段がどこにもありません……これじゃあいけませんよ。」
「ああ……ほんとだ。」
いよいよ謎。なにこれ?
「謎があるとなればアリスの本領発揮ですよ!さあ謎は全て解き明かします!」
ルーペを取り出す……前に、なにか飲み込んでからルーペ持ってアリスちゃんは元気にウロウロし始める。
「…変な建物。」
「うーん……これはどの時代のどの文化の文明様式とも違っていますね……」
アリスちゃんはルーペを覗き込んで難しそうなことを言う。
「そんなこと知ってるんだ………」
さすが貴族の娘……と言おうとしたら
「あ、嘘です。適当にそれっぽいこと言いました。」
「…………そう。」
「まあそうですね………あえて言うなら……『矛盾』ですかね?それとも『反転』?」
「?」
「アリスの主観ですけど……『二階建てなのに二階に行けない』『入口がないのに穴は沢山空いている』『二階の方が大きい』……」
「?」
「ですので、わざと反対に作ったというか……必要なことをしないで、不必要なことをしたというか……」
「?」
「つまりですね……アリスの考えでは、建物が鏡出できていることも含めて、この建物は何かしらの儀式のために立てられた……と。」
「?」
「まあそういうことなので、ここにいても意味なさそうです。行きましょうか。」
「うん!」
穴をくぐって外に出ると、入る時は気が付かなかったものが目に入った。
「これ……壁画?」
よく見ると、地面に小さめの岩が埋め込まれていて、なにか刻まれている。
「人のような形が3つ……そのうちの一つは逆さまに書かれていて、真っ赤に塗りつぶされていますね……他にも、逆さまの建物や武器がいくつか。」
「なんか不気味。」
アリスは壁画をじーっと見つめている。
「………赤は古来より警告色………それならこれも何かを示しているんでしょうか?」
「わかんないよ、わたしは。それより………お腹すいたね。」
空を見上げると、少しくらい。いつの間にかそんな時間になっていた。
「たしかに、お腹すきました!せっかくですし今日はここで休みましょうか。」
「うん、賛成!………あ!また忘れてた!わたし食料買ってなかったんだ!どうしよ!?」
「ルナちゃん、荷物何も持ってないように見えますけどどこにしまってるんですか?」
「ん、これ。」
メルリアに貰った不思議なポーチからテントを取り出して見せてあげる。便利だね。
「……えっと、どういう原理ですかそれ?魔法………?でもだとするとどうやって………」
「わたしも知らないよ。メルリア天才だし。」
「なるほど。なら納得です。天才なら仕方ありません。あ、食料なら平気です!アリス、持ってるんで。」
アリスちゃんが持ってる大きめのポーチからは、なんかよくわからない食材が出てきた。
手に持っているそれは、干し肉……に見えるけど、なんか違う。なんだろ?
「ふっふっふっ……これはですね……と、その前にお鍋とお湯のご用意願いします。」
「おっけぃ。」
テントと一緒に取り出しておいた鍋を用意して、アリスが持っていた水を入れる。
「…………お湯?」
「はい、お湯です…………あ。」
いや、お湯って………どうやって?
「……ルナちゃんもアリスも魔法が使えませんね……困りました。」
アリスは地面に座り込んで考え込んでる。考えてどうにかなるのかな。
魔法が使えればそれで火をつければいいけど、それは今できない。かと言って簡単に火を付けられる道具……あ、あったかも。
「……あ!あった!アリス、これー!」
そうだそうだ、買ってあったの忘れてた。
「あ!『フレアシード』ですね!」
フレアシード。赤い小さい豆みたいな種。瓶に詰められて売られている。これは誰でもどこでも火を起こせる便利な道具。使い方は……
「えいっ!」
「着きました!」
思いっきり叩きつけて、衝撃を与えると一瞬発火する。だから、そこに木の枝とかを置いておけばいい感じに火がついてくれる。
「では、お鍋を火にかけて………」
アリスが鍋を持ち、火の上に持っていく。
「………………煮だってきたよ!」
水もそこまで多くなく、火も強いからすぐにぶくぶくしだした。
「そしたら、それ入れてください。アリスは両手がふさがっているので……。」
言われるがまま、よく分からない物体を熱湯に放り込む。すると、直ぐにそれは溶けだして、お湯の色を変えていった。
「はい、混ぜ混ぜしてください!」
アリスにいわれ、お玉でかき混ぜる。
「いい匂い………え、ビーフシチュー??」
「その通り、正解です!真実にたどりつけましたね!」
「そんな大層な……」
しばらく混ぜ、アリスがもういいと言うので手を止める。地面に敷いた板の上にアリスが置いた鍋を除くと、ちゃんと『具』まで入っているビーフシチューが出来ていた。
「………なんで?」
「これもお友達の錬金術士に作ってもらったんです!お湯に入れると完璧なビーフシチューができる『なにか』です。原料は知りませんが、美味しいです!」
「………ま、いいや。美味しそうだしね。」
「………わ、ほんとにビーフシチューだ……。」
アリスと並んで地面に座り、お皿に入れたビーフシチューを食べてみた。びっくりするくらいビーフシチューで、お肉や野菜も本物だ。
「んぐ……。錬金術士ってすごいね。何者?」
「アリスもよく分かりません……複数のものを一度分解させ、その後全く違うものになるように結合させる……とか。難しいです。」
「ふーん……いつか見てみたいな……。」
「いつか会えたら紹介します。ちょっと変わった子ですけど、とってもいい子です。アリスみたいな子と仲良くしてくれる人なんです、悪い人なわけがありません。」
「う、うん。」
「ですけど、アリスはいつもあの子に迷惑かけてばっかりでした。そもそもアリスと仲良くしてるせいであの子も周りからとやかく言われることがあって可哀想でした。なんどアリスがもう一緒に居なくていいって言っても、いつも笑顔で一緒にいてくれたんです。アリスには勿体ないくらいのいい子です。それに比べてアリスは何も出来ないしものを作ってもらってばっかりだし何もお返しができていません。追い出されたあとはすぐにまちを出てきしまったので挨拶もしないまま、勝手にお別れしてしまいました。あの子はいい子なのできっとアリスのことで悲しんでくれていると思います。」
「お、お薬……」
すると、アリスはお皿を地面においてまたポーチから取り出したアレを、腕に射した。
「ふぅ……。ビーフシチュー美味しかったですね!」
「う、うん………。」
やっぱりちょっと怖いなぁ……