目指すものは
「まず何から話すか……。てか何が知りたい訳?」
「え、全部。」
「バカ丸出し。」
「えー!」
「うるせぇよ!」
セーラは尾びれをバシャバシャとさせる。怒ってる?
「………魔王。シオン君達が……元々は君も倒そうとしていた存在。それについてはそもそもどれぐらい知っているんだい?」
一向に話が進まないわたしたちをみて、レヴィが疑問を投げてくる。
「うーんと……すごい高い山『マウント・ローゼン』の山頂にいる。勇者の剣、大賢者の杖、アイギスの盾、グリモワール、エリキシル……この5つがないとたどり着けない?」
「それだけ?」
「うん、わたしはこれしか知らない。」
すると、セーラが近寄ってきて言う。
「まじか?私でももっと知ってるぞ?馬鹿すぎるだろ?」
「興味なかったから……」
「じゃあなんで勇者と旅してたんだよお前!?………まあいい、今さら何言ってもしょうがないしな。いいか?魔王はこことは違う世界から来たと言われてんだ。」
「仮にそこを『魔界』とするなら、彼は魔界の中でも最強の王……そんなところかな。力を持ったものはいつ、どんな時代、どんな世界でもそうだ………自分の力で支配を広げようとする。」
「そういうこと。だから魔王はこの世界を下僕のモンスターを使って支配しようとしている。で、自分は山の上から高みの見物。やな奴だ。」
「……支配されたらどうなっちゃうの?」
「世界は闇に包まれて、人が生きることの出来ない土地になる…かな。モンスターの楽園にでもなるんだろう。」
「えー……それ困るね。」
「だから勇者が頑張ってんだよ!5つのアイテムを集めて、それをどう使うかは知らないけど……どうにかして魔王の元に行って、倒してくれるはず!………ただ、」
セーラは大声で喋りだしたと思ったら、今度はいきなり声を潜めて続ける。
「恐らく勇者たちもお前らも知らないだろうけど…実は、5つの道具は集めるだけじゃ意味が無いんだよ。」
…………え?
「それは……ボクも知らない。それがほんとだとすると、セーラはどうしてそんなことを知っている?」
「どうして………秘密。言いたくない。なんで言わなきゃいけないんだよアホ。だから別に信じたくなきゃ信じなくていい。ただの地理の話だとでも思ってきけ。」
そう前置きして、セーラは語り出した。温泉はちょうどいい温度だから、まだ長話しても平気そう。
―――――――――――――――
「5つの道具にはそれぞれ対応した種族の補助道具があるんだよ。原種の道具の勇者の剣だけはちょっと特殊で、それ自体が補助道具の役目もある……だから補助道具ないみたいだけど。」
他の道具がないと真の力が出ない……ってことと関係がありそうだね。
「………ん?」
「なに?もう文句?」
相変わらずの鋭い目付きで睨まれる。
「5つの道具に対応した種族……でも種族って6種類だよね?足りなく無い?」
「原種、魚人、竜人、天人、地人、魔人……だね。」
「ああ、でもあんたも知ってるだろ?魔人だけは事情が違う。だから魔人以外の5つだよ。」
いつも省かれる魔人ってなんなんだろ?こんどちゃんときいてみよう。
「で、それぞれ大賢者の杖には天人の『蒼空の綿』、アイギスの盾には地人の『大地の宝玉』、グリモワールには魚人の『深海の石』……で、エリキシルは」
「竜人の『峡谷の鱗』……だね。」
「なんだ、それだけはしってんだなあんた。」
「知らない!」
「わかってるって。だから黙ってきけ。……まだ全ての種族が共に暮らしていたころ作られたんだってさ。果たして魔王の襲来を予知していたのか、ただの偶然なのか……そんなことはわかんないけどな。とにかく、今言った道具がそれぞれ必要。なきゃ魔王なんて倒せない。無駄死にするだけ。」
セーラは淡々と話す。
「じゃあそれ探さないと!どこにあるの!?」
「ここからが地理の話な。よく聞けよアホ?」
「はぁい。」
「まず、世界の中心には『世界樹』って言われてるバカでかい木が生えてる。すげえ神秘的だって言われてるけど、実際にそれを見たやつはいない。」
「なんで?」
「単純な話なんだよ。その周りは『ヘブンズ・マウンテン』っていうこれまたバカ高い山脈に囲まれてんだよ。とてもじゃないけど越えられない。無理。」
「世界樹を取り巻くようにぐるりと1周しているヘブンズ・マウンテン……なにか意志のようなものすら感じる。たとえ山頂を超えたとしても、そこから世界樹まで降りることすらままならない…なんて説もあるくらいだよ。」
レヴィもちょくちょく補足を入れてくれる。詳しいなぁ。
「ちなみに、世界樹は世界の調和を保っている説もあるんだ。だから魔王はここを狙ってくるかもしれない。………根拠はないけどね。」
「で、その山脈の中腹位のどっかにあるのが天人の集落な。そこにしか天人はいない。馬鹿な原種がおいやったんだからな。」
「…………」
「でも、恐らく『蒼空の綿』はそこにはない。それよりもっと上…山脈の中でも最も高い場所にあると言われる天空集落『ティマイオス』……にあるらしい。私も詳しくは知らないけどな。」
「ティマイオス……それは聞いたことがある。天人の中でも選ばれたものだけが住んでいたという、滅びた里だ。」
ふと見ると、レヴィは少しのぼせたのか、岩に座り下半身だけ浸かっている。
「滅びたの?」
「実際にその場所に行ったことがある人は居ないから、これが真実かもわからないけど。」
「…その世界樹、あとはヘブンズ・マウンテンを中心として世界は東西南北に別れてるわけな。主に北は寒冷地隊で工業、西は砂漠が多くて魔法、南は自然が豊かで畜産や農業、で、今いる東は良くも悪くも無個性ってとこか。……いや、火山が少し多いかもしれない。それくらいだ。」
「全然知らない……」
「いい機会だか覚えておけよな?……で、蒼空の綿をはじめとした、それぞれの補助道具の使い方は私もよく知らん。一説によると、世界のどこかにあるって話の『時空の神殿』ってとこに捧げるらしい。」
「へぇ」
「おまえ飽きてない?」
「疲れた。」
「おまえなぁ〜……じゃあ要点だけ話してやるよ!詳しい地理は後であの混血女からでもきけ!」
「ま、ルナが知りたければ教えるけど。」
「必要な道具は全部滅びた里とか都市にあるんだよ!理由は知らん!お前が自分で調べやがれ!天人以外は……地人の『大地の宝玉』は地底帝国『ラースグランド』、魚人の『深海の石』は海底都市『ディープ・アクア』、竜人の『峡谷の鱗』は……」
「深淵古都『オーロラバレー』だ。」
「やっぱりそれだけは知ってんだな。」
「滅びた場所の名前カッコよすぎじゃない?」
「そんなん後の時代で原種共が勝手につけたんだから当たり前だろ。場所は知らん。詳しい情報は残ってないんじゃねぇの。」
詳しい場所わからないのになんで名前つけられたんだろね?
それに、さっきからセーラの言うことは具体的な情報が抜けてる。『よく知らないけど』、『詳しいことはわからない』とか。それが本当だとすると、どうしてこんなこと知ってるの?滅びた原因も、その場所も、本当にそこにその道具あるかも分からない、そもそも勇者ですら存在を知らないであろう道具………うーん、考えても分からないなぁ。まあいいや。セーラは嘘とかつかなそうだし。
「勝手に名前つけるとか原種らしいよな。自分たち以外を見下してる証拠だろ?…じゃ私は帰る。次は絶対変な場所で呼ぶなよ?」
「うん、バイバイ!」
セーラは潜り、そのまま消えた。不思議!
「じゃあボク達も出ようか。詳しい話はまた今度する事にして。」
「うん。」
あんまりよくわかんなかったけど、とにかく……それが事実ならわたしがするべきことはシオンを追いかけたり先回りするんじゃなくて…………