世界を統べるものとは……
「まずね……エルザちゃんが閉じ込められてすぐ……これは当時もエルザちゃんに話したけど、例の国の王様が、世界を纏める団体を作ろうとしたのよ。……人間だけで。」
………イリスでさえも、怒ってるんだ。国の名前も出さないなんて。
「ああ、それはきいたな。ほかの種族を追いやって、原種だけの世界を作る………アホくせーよな。」
「………そう。簡単に言ってしまえば、それが世界統括団体の始まり。」
『世界統括団体』その言葉にソフィさんが反応する。
「やっぱり………いまのこの世界は、かつて………たくさんの悲しみや犠牲の上に作られたのね……」
「………王様はたくさんの人達を…………殺してしまったわ。自分と意見が違ったり、ほかの種族を庇うようなら原種であるその人たちも。そうやって、恐怖と圧力で作り上げたの。………ソフィちゃんも知ってるのとおり、いまの世界統括団体は違うわよ。いつかの時代のタイミングで、その時1番偉かった人が頑張ってくれたの。……だからいまの世界があるの。でもきっと、偉い人達だけはこの事実を知っているはず。」
「そう………なんですね。」
「でもね………アリスちゃんもそうなんだけど、貴族………この起こりも、悲しいことが起きてたのよ。元々貴族というのは、王様に服従していた………つまり、いいなりになっていた人達に王様から与えられた称号なの。いつの間にかその事実も消えていたみたいだけれど。」
「えっ!じゃあ貴族って王様の犬の一族じゃん!??!?」
「なんだお前」
「普通そんなこと思っても言わないわよ」
「…………間違っては無いかもしれないですが。」
うわうわ、白い目で見られた。でもそうだよね?そういうことでしょ。………じゃあこの世界って、3000年前の王様の基準で作られたの?なにそれ……ムカつく!
「あとね………これも話さないと。勇者が集めるもの…………アイギスの盾とかと、それに対応する神器………これはね…………」
イリスは今までより更に言いにくそうに、それでも何とか続ける。
「ねえエルザちゃん。かつて魔王を倒した時……勇者の剣以外に必要なものはあった?」
「??ねーよ。剣と、あとはボク自身の力があれば良かった。だからどうした?」
「え?」
「当時は違ったんでしょうか?」
「今は…………たしか」
「そうなの。いまは勇者の剣以外にもアイギスの盾、大賢者の杖、グリモワール、エリキシルというものが必要で、さらにそれに対応する道具も必要なの。そうしないと、勇者は真の力は出せないし、魔王にたどり着くことが出来ない。」
「はぁ?なんだよそのクソシステム??」
「これはね………これもね、王様が作ったの。」
嘘?どういうこと?
「王様はね、また勇者が現れることを………どうしてだが、勇者を恐れたの。変な話。世界を守る勇者を恐れる大国の王様なんて、まるで魔王。とにかく、だから………方法は全く謎だけれど、勇者の力を分散させた。それを集めないと勇者はチカラを出せなくなっちゃったの。それがアイギスの盾とかなのよ。」
「そんな………」
「なにが………何が目的だったのかしら……そんなことをして……私にはよく分からないわよ……」
すると、イリスはソフィに近づいてから言う。
「その答えは今の世界にも残っているの。ねえ、ソフィちゃん。世界統括団体の頭の固いおじさん達は言ってなかった?『勇者による魔王討伐ではなく、世界統括団体で魔王を倒すべきだ』って。」
「言っていたわ………それこそ、独裁者になるのを防ぐためって………」
「うん。だからね。勇者の力を分散させて、それを集める手間をかけさせる………そうやって時間を稼いでる間に、自分たちで魔王を何とかする……それが目的だったみたい。」
「………そう、なの。」
そこまできいたソフィさんは、力なくその場に座った。
「じゃ、じゃあさ!神器は!?アレはなんなの!?」
わからないことにさらに判らない事が重なる。ソフィさんは下を向いて何か考えてるし、エルザは呆れてる。もう訳わかんない。
「あれはね……アレもひとつの手段なの。王様は………各種族の中でも特に力のある人たちを殺したわ。そしてその力を宝石とかに込めたの。そして、それがないと分散させたもの達の力は覚醒しない………コレも単なる時間稼ぎ。大昔の人間が作った愚かな道具が、今の世界の人達を苦しめてる。」
「もう………意味がわかりません。アリス達は……なんのために…………」
「……………」
ホントだよ。なに、この世界。たった一人の頭のイカれた……
「ホント……ふざけんなよっ!あのクソジジィ!3000年も昔のてめえ一人のエゴで後世の勇者と民を困らせてんだ!イカれた狂ったゴミカスがっ!無理してでもあの時ボクがこの手でぶっ殺してればこんなことにならなかったのに……!魔王なんかよりよっぽど悪だぜ!ふざけんな………」
「そうよ!許せないわ!」
お、ソフィさん元気になった。立ち上がって叫んでる。
「そんな黒い歴史があるのにそれを隠して、世界統括団体は恰も『正義の集団』みたいな顔して………これを知ってる人たちはどんな神経してるのよ!?同じ人間だなんて思いたくもないわ!!」
「アリスも悔しいです!貴族のルーツとかそんなことは今のアリスにはどうでもいいですけど、たった一人の頭のおかしい人のせいでこんな世界になったなんて悲しいです!!」
みんな盛り上がってるなぁ…………でも……
「ちょ、ちょっと待ってよみんな………」
これは言っておかないと。
「あ?なんだよ?お前まさかあのゴミを擁護する気か?」
エルザにすごい目で睨まれる。もちろんそんな気は全くないけど、ついつい腰が引ける。
「ち、違うよ…………あ、あのさ」
「なにかしら?」
4人がわたしの方をみて、わたしの次の言葉を待っている。
「なんて言うかさ…………なんか違くない?」
「なにがですか?」
「もちろんその王様にはムカつくし、許したくはないけど…………だからって言ってわたし達がもうとっくに死んだ昔の人にイライラして、怒りを向けてあーだこーだ言う…………コンセプト的になんかズレてない???」
「あ、そういう話するのね。」
「ボクからすれば知ったことじゃねーよ。」
「つまり………どういうことです??」
「いやさ………せっかくエルザのことも助けられたし、こうしてみんなと一緒になれたんだし……難しいこととか考えないでさ………みんなで世界中の色んなところ行きたいよ!ね、エルザもそうじゃない?今の時代の世界………なんだかんだ言っても、かつてエルザが救ってくれた世界の『今』……見て回りたくない?」
「あらあら……ルナちゃんいいこと言うわね〜。」
イリスはニコニコ笑って更に言う。
「こんな話しておいて言うのも変だけど、わたしもそう思うわ〜。復習や怒り、敵意で心を満たすのは良くないし、そういつネガティブな感情が強まると、わたしやみんなにとって、とても良くないことに繋がるの。」
………ノルンのことだ。
「………たしかに、いま私達が何言っても変わらないのは事実よね…………」
「はい…………」
すると、エルザが不意に立ち上がってわたしの肩を掴んで言う。
「ルナの言う通りだな。せっかくだからボクだってこの世界を自分の足でまた歩き回ってみたいぜ!時間がかかっても疲れてもかまわないから、見て回りたい。どーせお前たちも暇だろ??ボクについて来いよ!あ、せっかくならイリス………ってあれ?」
「?」
いない。一瞬目を離したらもう居なくなってた。気まぐれ女神すぎる……けどまあ、もう用は済んだからってこと?
「ソフィさんとアリスはどう?」
「私は賛成よ。元々私の仕事はそういうことをするものだから、みんなでいた方が楽しいし否定する理由もないわ。」
「アリスもです!いろんなところに行って、少しでも成長できたら嬉しいです!」
「よっし!じゃあ早速行くぜ!勇者エルザ様に着いてこい!」
「はい!!」
「ふふ、なんだかんだ言っても可愛いところあるわよね。」
「………………」
おかしい。いや、これ自体はいい。いいんだけど、これじゃあまた『勇者パーティ』だよ。これでいいのかな?また追い出されたりしないかな?