遥かな天の果て
「ここって地理的にはどの辺なんだ?」
走ってエルザを追いかけて、やっと追いつく。エルザは立ち止まってソフィさんに問いかけた。
「南側……でも、ヘブンズ・マウンテンにかなり近い……っていうか、ちょうど見えるわよ。ほら。」
森の中だけど、1箇所だけ木がなくて遠くまで見える箇所がある。そっちの方に歩いていって、見てみると………
「おぉ……!」
「綺麗です………!!」
「すげーな!」
そこは崖になっていて、下を見るとかなり下の方を流れる川と、広大な平原が見える。そして、視線を少しづつ動かしてまっすぐ、遠くを見ると…………
「ヘブンズ・マウンテン……近くで見ると凄いわよね……!」
そう。見上げるほどたかい雄大な山脈……ヘブンズ・マウンテンが見える。平原に近い、標高の高くない位置には緑の木々がたくさん生えていて、普通の山とそんなに変わらない感じだけど、上の方はここから見ても全く別世界。高い木や生い茂る葉っぱが全然なくて、岩や地面が剥き出し。ゴツゴツとしたその山肌は来るものを拒む意思があるかのように見える。
「あの………アリスは無知なのでよくわからないのですが……どうして上の方はあまり木が生えてないんですか?それに、真っ白………今の時期でも雪があるんでしょうか?」
………わたしも正直それわかんない。アリスが先に言ってくれて助かった。
「はっ、アリスはそんなことも知らねーの?」
エルザが鼻で笑いながらアリスの方を見て言う。
「は、はい…………」
「エルザは知ってるの?」
「知ってるぜ。知ってるけど………ソフィに説明させてやるよ。ほら、早く。」
明らかに目が泳いでいる。さては知らないね?
「まったく………素直に『教えてくれ』って言えばいいのに。ま、せっかくだしヘブンズ・マウンテンについて私が知ってることも含めて詳しく教えてあげるわね。」
「わーい」
「ありがとうございます!」
「ま、好きにすれば?」
とりあえず、その辺の倒木に3人で並んで座る。
ソフィさんだけは立ったまま、ヘブンズ・マウンテンの方を指さして話し始める。
「途中からいきなり木が無くなって、地面がむき出しよね。あれはなにもヘブンズ・マウンテンが特別という訳では無いわ。ほかにそういう場所がないと言うだけで、理屈上はあのくらいの高さになると背の高い木は生えなくなって、地面がよく見えるようになるの。専門的にいえば『森林限界』って言うのよ。」
「へぇ」
「どうして植物が減るんでしょうか?」
「気温が低かったり、空気が薄いから……かしら?私も専門家じゃないからハッキリとはわからないわね………。でも、なにか良くないものがあるとか、モンスターのせいとか、そういうことではないわ。あくまでも自然現象なの。」
高いところだと寒くて空気が薄いんだ………知らなかったなぁ。
「それに加えて、ヘブンズ・マウンテンの上の方は雪が降りやすいわ。もちろん、暑い時期には滅多に降らないけど………寒い時期に沢山ふると、あつくなってもそれが溶けずに残って、また季節が一回りして次の雪が降る……それを繰り返すの。だから、山頂付近にある雪はきっと、下の方には冗談抜きでエルザちゃんが生まれた頃から残ってるものもあるかもしれないわね。」
「マジか!?……悠久の時超えすぎだぜ。」
「世界の中心、それも世界樹を囲んでいるということ、またそういう自然の環境も合わさって、ヘブンズ・マウンテンは必要以上に神格化された………という可能性もあるわね。ところで……山頂にある神器………シオン君たちは本当にそんなもの取りに行けるのかしら。公式な記録には登頂は一切ないわ。」
「そもそも、ボクの時代には『山頂』がどこかもハッキリしてなかったぜ。ほぼ一年中雲に包まれてて、どこがいちばん高いかなんてわかりっこねーしな。登るなんてもってのほかだ。危険すぎる。あの山は人を殺す形をしてるだろ。」
「エルザさんは登ったことあるのでしょうか………」
「途中までならな。世界の中心にあるっていう世界樹をこの目で見てやろうと思ったんだけどさ、無理だった。その『森林限界』ってやつに突入して、雪がある辺までは行ったんだぜ。でも……そっから先は無理だった。どうやっても足も手も届かないような溝がいくつもあって、下を覗けばそこが見えないくらい深い。それに道なんてないしほぼ直角の壁だぜ?さらに地面は滑りまくり。無理無理。」
「そこまで行って無事に帰ってきたのも充分凄いと思うけど………」
わたしじゃあそこまですら行けない。
…………あれ?そもそも世界の中心に『世界樹』があるって言うのは誰が見つけたんだろ?少なくとも1人は登頂して、その向こう側を見てないと…………いや、そうでも無い?低いところを通って向こう側に行ければいい………のかな?考えてもわからないからいいや。
「きっと、人間って自分たちの手の届かない存在に憧れるのよね。悠久の昔からはるか天に向かって聳える白き霊峰……たしかに、女神の存在を思うのもおかしくは無いわね。聖地と呼ばれる場所もヘブンズ・マウンテンに近い北の地………あ、女神と言えば…………」
そうだ!女神といえば!!
「あ?女神がどうした?」
わたし、アリス、ソフィさんにいっせいに見られたエルザは不機嫌そうに言った。
「女神、エルザさんの話に………」
「イリスって言ってたわよね………?」
「……………」
「だからなんだよ?女神がそんなに珍しいか?」
「珍しいわよ!」
「あ、当たり前です!ね、ルナちゃん??」
「んーーーーーーどうだろねーーー???」
イリスどころかもう1人(?)知ってます……。
「アリスも女神様会ってみたいんです!もし本当にいるなら……ってずっと思ってたんですけど、いるんですもんね!お会いして、こんなアリスでもこうやって生きていられることを感謝したいんです。」
「私も、今の私がこうしてここにいられることに感謝したいわね。世界を作った女神様、きっと素敵な方なのよね。」
「ボクから言わせてもらえばのほほんとしたとぼけた女って感じだけどな。ん、ルナどうしたんだよ。」
「あ、ご、ごめん!!ちょっとまってて!すぐ戻るから!」
確かめたいことがあるから、適当な言い訳をしてみんなの視界に入らないところまで走る。ここまで来れば………
「ねえ……イリスでもノルンでもいいんだけど………この辺にいたりしない?わたしが呼んでも出てこないかな?」
セーラみたいに、わたしが呼んだら出てきてくれたりしないかな…………。
「………なんて、いるわけないか」
「いるわよ〜」
「あっ!!ほんとに出た!!」
いつの間にか背後にいた。イリスだ。
「呼んでおいでなんだけど、なんで出てこれたの?」
「ママが呼んだから………」
「もうそれいいよ!!」
「ほんとはね、呼ばれなくても出てくるつもりだったの。エルザちゃんが外の世界に蘇った感覚がわたしにも伝わってきたから、会いたくって。だから偶然。………ルナちゃんには女神を呼び出す力なんてないのよ?」
「あ、うん…………そっか」
柔らかい笑顔でそんな事言わないでよ。
「それじゃあみんなの方に行こうかしら。」
「ん、一緒に行こ。」
………ところで、なんて説明しようか?
少し忙しいので更新が遅れてしまうかもしれません……申し訳ございません。