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水を翔ける覇者

「どういうこと?」


「だから、もう出来ないって言ってんだよ。それだけだ。水場を移動……ワープのような力が何故か知らないけど使えなくなったんだよ、だから私はもうここから移動できない。お前らみたいなうるさいヤツが来ても逃げられないんだよ!わかったか?」


 セーラは怒ってる……怒ってるけど、さっきまでの敵意むき出しの威嚇って感じじゃなくて、わがままをいう子供のように見える。かわいいなぁ。


「できない……か。セーラ……君は自分では『選ばれた』力を持った自身の意思で『まともな考えをもたない連中しかいない住処』から『逃げてきた』……そう思ってるわけだ。」


 レヴィは姿勢を落とし、セーラに出来るだけ目線を近くして語りかける。


「あぁ?思ってるも何もそれが事実だろ!出来損ないの混血のカスに何がわかんだよ!」


「………セーラの考えかたが正しいかおかしいか、そんなことはどうでもいい。ボクが言いたいのは、君のその生き様は………無様だよ。」


 『無様』その言葉にセーラはまた、激しく反抗する。


「無様だ!?あんたには一番言われたくない言葉だ!存在そのものが間違いの奴なんかに何がわかる!底まで引きずり込んでぶっ殺してやろうか!?」


「はは、残念ながらボクは泳げないけど、水中の呼吸は出来なくもない。その程度じゃボクは殺せないかな……?」


 汚い言葉を使って喚くセーラに対して、レヴィは冷静に返している。………呼吸はできるんだ。


「いちいちムカつくんだよ!言いたいことあるならはっきり言え!」


 バシャバシャと激しく暴れながらセーラは叫ぶ。森の中が静かなだけに、わたし達3人のこえはよく通る。


「言うよ。セーラは『自分が正しい』と思い込んでいるだけだよ。でも、その考えは恐らく、他の魚人からすればズレている……はみ出しものだ。だから、魔法なのか魚人特有の術なのかは知らないけど、セーラに一時的に特殊な力を与えて、外に出るように仕向けたんだろう。つまり、君は魚人の集団から『追放』されたに過ぎない。」


 僅かに吹く風が水面と、レヴィの長い髪の毛を揺らす。その間、セーラは黙って何かを考えていた。


「………私が……追放…か。」


「ああそうだよ、本心ではどっかで分かってたんだよ!私みたいな原種を敵視するやつがイカれてんだってことくらい!今の時代はそんな考えはおかしいって!でもだからって受け入れられるかよ!?お前みたいな原種の先祖共が私らを迫害したのは事実!歴史は変わらない!」


 セーラはわたしを指さして続ける。


「話してみて更によく分かった!仲良くなんてなれるわけが無いだろ!?自分の思い込みやら理想やらだけ押し付けてきて、相手の文化を知ろうともしない!好き勝手なカスどもなんだよ!」


「…レズレインボー王国は?」


「だから知らねぇよ!それに関してはほんとに意味わかんねぇから!!むしろ教えろよ!……それにあんたも!」


 今度はレヴィをゆびさす。


「混血失敗作のクズが調子にのりやがって!お前の母親みたいなやつがいたせいで、他の魚人は口では『異端者』なんて言いながら、本心では他種との繁殖や結婚を夢見るやつが現れた!原種とそれを望むやつなんていたら最悪だろ!」


「これに関してはわたしも言いたい!レズレインボー王国の可能性を否定されたから!」


「うるせぇ!レズレインボー王国なんてないんだよ!」


「いや、あるけど………」


「あるの?」


 セーラはいきなり静かになる。


「いや、ない証拠がないからあるかなって……」


「クソが!!それは無いってことだろ!」


 うーん……収集がつかない……なんでかな?


「………ルナ、もう行こうか。これ以上ここにでも彼女に迷惑をかけるだけだ。それに、ボク達も時間を無駄には出来ないよね?」


 レヴィは立ち上がり、わたしのかたに手をかける。……うん、それはそうだった。


「そうだね……ごめんね、セーラ。たしかにちょっと好き勝手やっちゃったし、何も考えてなかった……もう来ないから、安心して。」


 レヴィに続いて、わたしも池の方に背を向けて歩き出す。少し歩くと、背後からセーラの声が聞こえてきた。


「お、おい!待て!勝手に騒いでおいて勝手に帰るつもりか!?ふざけんなよアホ!」


「ん?」


「……ふふ。」


「お前たちが何の目的で旅してるかなんて知らないし、興味もないし気に入らない…けどな!どうしてもっていなら手を貸してやる!」


「どうやって?」


「今なら……いや、ルナ!お前に呼ばれれば他の水場でも行ける……多分!そんな気がする!理屈も理由もわかんないけど、絶対できる!だから、困った時に水場があったら呼べ!できることからなんでもしてやる!」


「え?あ、ありがとう……?うん、ありがとう!!頼りにしてる!だから……またねー!!」


 レヴィは後ろを振り替えられなかったけど、わたしはしばらく後ろ見ながら、セーラに手を振って歩いた。


―――――――――


「うーん……でも不思議だなぁ?」


「レズレインボー王国?」


「あ、違う違う。セーラ、どうしていきなりわたしにあんなこと言ってきたのかな?すごい嫌ってそうだったのに、いきなり助けてくれるなんて言うし、言葉も汚く無くなってた。どうして?」


「ボクからすれば何も不思議じゃないけど。彼女の吐く言葉……表面だけ見れば酷い言葉だ。特にボクに対してね。でも、ボクはその言葉に敵意や棘を感じなかった。」


「?」


 横を歩くレヴィの顔を除くと、珍しく少し笑っている。


「きっと……誰とも違う考え方を持って、多くのものを敵視して孤独で生きてきた彼女にとっては、あれでしかコミユニケーションが取れなかった……そう思う。それでも、めいいっぱい考えて、優しく接しようとしたのが最後の言葉なんだと思う。本心では他種族との友好も望んでいたのかもしれない。だから、実は彼女は最初からボク達のことを敵視してはいないんだよ。……いや、少しはあるかも……」


「ほえ〜よくわかんないな。」


 どうみたってセーラと和解できる余地はなかったように見えたけどなぁ……むずかしい。


「まあ……君はそれでいいよ………うん。ただ、彼女の言うことも嘘ではない。『原種が迫害した』……歴史は変わらないからね。」


「わ、わたしに言われても……」


「もちろん、責任がどうとかなんて言わない。ただ、それを知ってくれるだけでいい。それだけで、きっとセーラも満足してくれるはずだよ。」


「………あ、あー!!」


 大変なこと忘れてた!


「なに……」


「お腹すいた!!!!!!」

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