伝承の果て
「ボクはかつて多くの人から期待されて、実際にその期待通りに魔王を倒した。これは紛れもない事実だ。ただ………その後だ。全ての運命の歯車がズレて、正しくない、過ちしかない愚かな歴史をあゆみ始めやがった。」
エルザはかなり、『憎しみ』のこもった感じで言う。
「ああ……いつだって、今思い出したって許す気は無い。おまえら3人がどういう考えの人間かは知ったこっちゃねーけど、そんな気がなくなってお前たちだってその狂った歴史の上を歩いてるんだぜ。」
「狂った歴史………?」
「お前……ボクと対等に戦いやがったお前。その服……なんかだっせぇへんな紋章?みたいなもん着いてるけど、何かの組織か?」
エルザはソフィさんの服を指さして言う。
「だ、ダサイって………これは『世界統括団体』という組織の制服よ。さすがに3000年前にはなかったと思うけど………。役割としては、世界全体をまとめて、国同士での争いが起きないようにしたり………」
「世界統括団体……?なるほどな………。だいたい理解した。……これからボクが話してやることきいていきなりブチ切れたりすんなよ?」
「ちょ、ちょっと……どういうことよ!?」
「だからそれを今から話してやるって言ってんだ。すこしはだまってきけよ」
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「………なんだよ、まだ立ち上がる気か?」
自身の身長に迫るほどの長く、大きな『勇者の剣』を構えた、かつての勇者……エルザは、何度斬りつけて、倒してもそれでもなお果てない『魔王』に対し、イラつきを顕にしながら問いかけた。
「………人類の希望を背負い戦う貴様と同様、私も魔界の者共の期待を背負っている……そうも容易く倒れるわけには行かない…というわけだ。」
「はいはい、そりゃごくろーさん」
エルザと対する、かつての魔王。魔界のものも思われる素材で作られた高貴な服を纏うその姿は背の高い人間の男性のようにもみえる。
しかし、肌の色は原種を初めとした、この世界の種族には見られないような奇妙な色であり、頭部には日本の棘が生えている。髪は白く長く不自然に靡く。そして何よりも、額には第三の瞳があり、虚ろにエルザを睨む。
そして、手に持った杖とも槍ともいえぬ、奇妙な武器をエルザにむけ、言う。
「互いに譲れないものがある以上………この体が朽ちるまでは私はとまらない」
「あ?互いに譲れないものだと?なぁーに偉そうなこと言ってんだよゴミが。魔界だかなんだか知らねーけど、てめえの都合でこっちの世界に来ておいて、カッコつけんなよ?そのせいでボクみたいなどこにでもいる普通のかわいくてクールで優しくてセクシーな女の子がこんなバカでかい剣もってここまでくる羽目になってんだよ。」
「ああ、人間達にはわからないであろうな。我ら魔界のものの事など。」
「あたりめーだろ!知るかクソが!!どんな理由だろーとたくさんの人間の命奪ってまでしていいことなんてあるわけねえだろ!魔界のためだぁ?じゃあそのために死んで行ったボクの世界の奴らはどーすんだ!それに、そっちの奴らだって数え切れないほど死んだ……殺してやったぜ!?その上でもまだ、てめえは同じこと言うのかよ!」
エルザはこれ以上ないくらいに、感情を表に出し、魔王を名乗るものに対して罵倒する。しかし、魔王は一切動じずに、冷静に返す。
「少なからず犠牲が出たのは確かな事だ。私とて、無策ではない。しかしそれでも、避けられぬものはある。……それに、人間の世界のもの共のことなど関係がない。私は私の望む世界のためにこの世界を闇で飲み込み、支配をする。」
「ったく……。魔王だなんて言うから、最初は知性の欠けらもねーような、全てをぶっ壊すバケモンだと思ってた……けど、ここまで来て魔王がボク達みたいなまともに意思疎通が出来るやつってわかってさ、すこし期待した部分もあったんだぜ?話せば何かわかるかも……とかよ。でも、そんな期待したボクが馬鹿だったわけだ。てめえはボク達と同じ言葉が喋れるだけで、意思疎通なんて出来やしない。会話をしているようで、それは何も意味は無い。」
そして、エルザは改めて剣を構える。
「私もこれ以上よ会話は望まない。再開するとしよう………!」
魔王は第3の目をさらに大きく開き、エルザを睨む。
「もうそんなやすっぽい術なんてきかねーよ!」
エルザは既に知っていた。その瞳を見つめると、体の自由が奪われる。最初こそその術に苦しめられたが、仕組みが分かればなにも怖くはない。視界の隅に魔王の姿を捉えながら、一気に背後に回り込む。
「もうわかってんだろ!?てめえがいくら小細工しても、勇者の力が最大になってるいまのボクになんて勝てるわけがない!諦めて魔界に帰って死ぬまで大人しくしてればみのがしてやろーとも思ったけど、もうおせぇ!ここで死ぬしかねーぜ!!」
その言葉どおり、その手に持つ巨大な剣で、魔王を責め立てる。近接戦となってしまうと、魔王の持つ奇妙な武器は力を発揮しにくくなる。隙なく攻めるエルザに対して、術を発動することも、呪いをかけることも出来ずに魔王は吹き飛ばされ、地面に倒れ込む。
「いい加減終わりだろ?たしかにてめえは他の魔界のやつらと比べたら強かったぜ。さすがは魔界を統べてた最強の王……でも、所詮それは魔界だけの話だ。人間の世界に来たお前は、自らのその行動により『勇者』という最強の存在を作ってしまったわけだ。」
魔界より魔王が来ることで、人間の世界では勇者が生まれる………これは何も特別なことでなく、天候の変化や地殻変動といった、自然現象のようなものだという。
「………だとしても、私はやらねばならなかった………」
「ふん……さいごにきいてやる。そこまでしててめえを掻き立てた動機はなんなんだよ?」
剣を魔王の頭部に当てながら、エルザは最後の問いかけをする。
「魔界の王となった私の更なる力の啓司をし、民たちを真なる世界に導く……それだけだ。」
「啓司って………はっ!とんだ勘違い野郎だったわけだ。なんだ?神にでもなったつもりだったのか?たかが世界の王になっただけで、他の世界ひとつも奪えないくせに。魔王のもの達がだとかなんだかんだ言ってたけど、結局は自分のことしか考えてねーわけだ。………なにが真なる世界だ。……てめえのいく世界は決まってるぜ………後悔と絶望……それから、罪が渦巻く暗い地の底だ………」
この瞬間、世界から『魔王』は消え去り、勇者はその使命を果たし、世界には光溢れる平和な時が訪れ………