古城の主
塔の壁画によると、お城にあるものは勇者の伝承っていうよりも『死後の勇者そのもの』と記されていましたね………
「ここが……」
森をぬけたたわたし達3人の見つめる先は同じ。森をぬけ、霧も晴れた目の前に突如現れた巨大な城。これが………
「私も知らなかった……まさか、こんな場所に本当にお城が……それも、こんなに大きいなんて。」
「アリスが見た事あるお城の中でも、かなり立派な部類だと思います。大昔からここにあるのに、こんなに立派…しかも、殆どの人はここを知らない………やっぱり不思議な場所です。」
「………」
言葉が出ない。思ってたより、かなり大きい。見上げるくらいの高さに、左右には立派な城壁塔みたいなものあって、今の時代のお城とほぼ同じ形。綺麗な形に加工された石で作られてるけど、いつの時代のもの?現代と遜色ない技術な気もするけど、なにこれ………。
「………城門は閉じてるわ。」
そんな立派なお城なら、当然立派な門もある。これもまた見上げるようなサイズで、がっちりと閉まっている。
「かつてこのお城がちゃんとした役割を果たしていた時代……があったのかはわかりませんが……まるでその時のまま、時が止まったみたいです。今はなんの役割も無いはずの城門も、一体何を拒む必要があるのでしょうか………」
「なんか語彙力上がってない?」
「気の所為です。ルナちゃんが語彙力無さすぎるだけです。」
「ごめんて」
しばらく3人で城門の近くをさぐったけど、開けられそうな手段は見つからない。城壁的なものもかなり高いし、足をかける場所もないから登るのも無理…………。
「せっかくここまで来たのに、まさか入る手段がないなんてね………てっきり、かなり崩れてて、適当に入れるものかと思ってたわ。」
「普通そう思うよ。なんでこんなにきれいな状態で残ってるんだろ………。」
「………あ!こっち来てください!」
少し離れた所にいたアリスが、大きい声を出す。そっちに行ってみると、アリスは城壁を指さしながら言う。
「ここだけ不規則で………足がかけられそうです。小さいでっぱりですけど、多分平気です。」
近くで見ると、たしかにポツポツと、足をのせられそうなでっぱりがある。それは上まで続いていて、まるで……『ここから入れ』なんて言うふうにも見える。
「じゃあまずはアリスからです!危ないので、1人が登りきってからでお願いします。」
そう言って、アリスはヒョイっと壁を登り出す。なんだ、意外とこういうの得意なんだ……。
「…………ルナちゃんが最後がいいわね。」
そんなアリスをみて、ソフィさんが呟く。
「そう?まあわたしは木登りとかも好きだからこういうの得意だし、変な心配はいらないけど。」
「それはいいのよ………でもルナちゃん……ほら、アリスちゃんの方見て。」
「?」
首を上に向けて、登っているアリスを見る。アリスの着ている、特に珍しくもない普通の服、履いている普通のスカート……の中も見えた。
「モコモコしてるやつ履いてんじゃん。かわいい、アレ何?」
「それはあとでアリスちゃんにきいて。それで……ルナちゃんは?スパッツとか、ああいうのとか履いてる?」
「いや、別に………なるほど!!あ、でも別にどうしても見たいなら別にいいよ?ソフィさんが最後でも。」
「絶対嫌よ。」
それだけ言って、今度はソフィさんが登り始める。…………アリスはわたしより薄いから見てて気が付かなったけど、ソフィさん………アレがアレだから登る時、壁に体を近づける時……邪魔そう。
「………ソフィさんはスパッツかぁ………」
まあいいや。登ろ。
―――――――――――――――――――
「よいしょっと」
城壁の向こう側に行くと、アリスとソフィさんは正面の入口だと思われる方にいた。
「ここからはいるの?」
「そうね…………」
両開きのドアを見ると、あいている。なのに2人は浮かない顔で、入ろうとしない。
「入んないの?」
「うーん…………」
「アリスが来た時点で、もうここは開いていました。城門はあそこまで硬かったのに、ここは最初から開いている……なんだか変な感じです。」
「さっきの壁といい、やっぱり………誘われてるようにも見えなくもないわ。とは言っても、行くしかないわね。2人とも、なかは暗いだろうし、何が起きるかわからないわ。気をつけて。」
「うん」
「暗いところ………へ、平気です!」
中に入ると、かなりくらい。外は明るいのに………いや、そうじゃなくて………窓がないんだ、このお城。すごい、ほんとに全くない。そんなことある?
「………変ね。」
「なんだかおかしいです」
アリスの持っていた、錬金術で作られたランプで照らしながら少し進んだところで、2人がほぼ同時に呟いた。
「なにが?」
「えっ、気が付かないの?」
「ルナちゃんも変ですね…………」
「????」
「外から見て、すごい大きかったわよね?なのに……入口からここまで、今歩いている通路しか空間がないのよ。壁に仕掛けがある訳でもないし……」
たしかに、言われてみれば。暗くて、装飾も何もない無機質なこの通路しかない。側面にドアとかもなかったよね。もちろんうえに上がれそうなところもない。
「こんなに大きい建物を作っておいて、中はほぼ埋まっていて、空洞なのはこの一本道だけ………だとしたら、異常です。」
「なるほど………あ、ねえみて。向こう……大きいドア。」
通路の先に、うっすら見える。多分あのドアの向こうには広い部屋があるんじゃないかな………でも、下手したらそこだけしか、このお城にはないのかもしれない。この通路と、大きい一部屋だけ。だとした、このお城は何?
「勇者の伝承………と言うよりは、死後の勇者の墓としてのためだけに作られた、見せかけのお城……とかどう?」
「………元の用途なんてなくて、伝承を残す場として作られたってことかしら?………お金と時間にものすごく余裕があれば、無くはないけど………とにかく、あのドアの向こうに行きましょう。」
「は、はい……!」
一体何が待ってる?そもそも本当に、勇者の伝承やら死後の勇者のなにか、なんてあるの?なんであの塔にまとめないで、わざわざこんな誰も気が付かないような場所のお城にそれを残したの?…この先に、答えがあるのかな。いやでも、マジで勇者の亡骸とかあったら困るんだけど。そういうの見たくないし。あくまでも死後の勇者を祀るためってことで、本体は見えないところに……とかでお願いします。
「開けるわよ……」
ドアの目の前に立ち、一呼吸置いてからソフィさんはドアを押し、一気に開いた。
「わっ!?」
「ま、眩しいです……!」
「な、なによいきなり!?」
予想外すぎて、思考が追いつかない。なんでいきなり明るいの!?窓があったとしても、こんなに明るくないし、それならドアから光が漏れててとおかしくない……のに、いきなりすぎる。
「うぅ………」
「な、なんとか見えるわね………」
目が慣れてきたのか、謎の光が収まったのか……とにかく、視界が開けた。
予想どおり、中は広い部屋になっていた。無機質な通路とは違って、天井には古いシャンデリア、床にはボロいカーペット、壁には火の消えた燭台……と、一応装飾がある。そして、奥にはまるで玉座のような大きい椅子。明るさの源は見当たらない。
「…………変な部屋だね。」
「ここだけ見れば、廃墟のお城にも見えるけど……」
「とりあえず、奥に入ります?」
「そうしよ!」
きっと、あの玉座に何かあるよ。怪しすぎる。
「!?」
部屋の真ん中くらいまできた、ちょうどその時。激しい音がして、入ってきたドアが閉まった。
「風も吹いてないこんな場所でどうして……」
ソフィさんは振り返り、呟く。
「そ、ソフィさん!後ろ!危ないです!」
わたしとアリスの視線は、ソフィさんの後ろに突如現れた、謎の存在に釘付けになった。それは人のように見えて、めちゃくちゃ大きい剣を振るって、ソフィさんに飛びかかってきた。
「くっ…!誰!?」
でも、ソフィさんも凄い。その一瞬で、二本の剣を抜き、即座に体の前で二本をクロスさせて強烈な斬撃を受け止めた。
「へぇ……今のをそんな細い剣二本だけで、しかもほぼ反動もなく受け止めるなんて………今の一瞬でボクの攻撃の重心を見抜いて、その一点だけで上手く受け止めたわけだ。簡単に死なれてもつまねーし、そうでなくっちゃな!」
「……女の子?」
口調は男の子みたいだけど、今喋っているのはたしかに女の子。自分の体より少し短いくらいの、太い剣を持っているその腕……というか、全体的な体つきは、とてもそんなもの使えなさそうなくらい華奢で、きれいな白い肌に、血のような深紅の長い髪をツインテールにしてる。
腕と足には薄い鎧のようなものをつけているのに、胸やお腹の周りはドレスのような、防御力の無さそうなきれいな装飾の服だし、スカート履いてるから無防備な部分が多い。……防御する気があるのか無いのか……。それとも、重いものをつけるのが嫌なのかな。
「しかもギャラリー2人か!いいじゃんいいじゃん!まずは二刀流のお前を殺して、その後でそっちの弱そうな2人かな!いくぜ!!」
「はぁ?なに………って話をきくきはないのね!」
女の子は大きい、エメラルド色の剣を両手でもってソフィにまた切りかかる。ソフィさんはそれを避けたけど、地面に当たったその剣は、最早斬撃ってよりは叩いてる感じ。鈍器と刃物の間くらいの武器。
「あなた誰なのよ!」
「どうせ知ってんだろ!?ならそんなのきいてもなんの意味もねーだろっ!ボクかお前が死ぬまで戦う、それだけだ!!誰の頼みかしらねーけど、遂にボクを殺す気になってここまで来たんだろ!?」
喋りながらも、お互いに剣を振り、戦う手は止めない。隣に立っているアリスも、固唾を飲んでそれを見ている。
「何言ってるか訳わかんないわよ!私達はこのお城に残されているであろう、かつての勇者のことを調べに来たの!誰かの頼みでもないし、そもそもこんな所に人がいるだなんて思ってないわよ!」
「勇者の………??そんなもん、どっかの塔に伝承とかがあっただろ?ここには何も無いぜ!ほらほら、いくぜ!」
「その塔に書いてあったのよ!このお城に大切なものがあるって!…………死後の勇者はこの城に眠る、そう書いてあったわ!」
ソフィさんがそれを言うと、女の子は手を止めて、立ち止まる。
「……マジ?」
「本当よ!ルナちゃんも見たわよね?」
「あ、うん……」
普通に嘘じゃん。わたし読めなかったし。
「へぇ………そっか………じゃあもしかしたら、やっと力が弱まったのか……だとしても、なんの用?何も無いことに変わりはねーぜ。死後の勇者とか、いねーし。」
『もう戦う意思はない』というつもりなのか、女の子は剣を地面に投げ捨てた。それを見て、ソフィさんも剣を収める。
「そもそも、あなた誰なの?なんでこんな場所に………」
「ボク?見ての通りさ。この城……ミストコーストの主………不本意で、全く望まねぇ形でだけど、そうさせられた。………3000年も昔にな。」
「じゃあ、3000年も生きてるんですか??」
「あーそうだよ。ボクは3000年前に魔王と戦ってこのろくでもねークソッタレなバカしかいない世界を救っちまった勇者……エルザだ。」