森の奥
100話目です!!って思ったんですけど、最初の1つ目はお話じゃないのと、途中にミスが入ってたので、ここはまだ実質98話目でした。
「準備できたわよ。」
スティアが出ていくと、アリスは自分で宣言したとおり、大人しく座って待っていた。
「……杖ですか?」
「そうよ、見ての通り。」
スティアが背中に背負っているのは、そこそこの長さのある変わった形の杖。一体何に使うのかアリスは検討もつかなかったが、それを深く聞くことはせずに
「それじゃあ出発しましょう!」
と、元気よくスティアに呼びかけた。
「はいはい。あんたは道わかんないだからちゃんとあたしについてきなさいよ?はぐれて迷子になって泣いても知らないから。」
「そ、そこまで子供じゃありません!ちゃんとスティアさんの手握って歩くので大丈夫です!」
そう言うアリスは、すでにスティアの手を握っていた。
「……そっちの方がよっぽど子供よ。」
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さすがに街の中を手を引いて歩くのは馬鹿らしい、そうスティアに言われたアリスは仕方なく、スティアの後ろを着いていく。
材料となる草は、街の外の森に生えていることが多いが、滅多に使われない素材なため、それを取りに行くことはほぼない。とは言っても、今回のようにいつ使うかわからないため、スティアはそこまでのルートを把握している。
街の中を歩きながら、スティアはアリスにきく。
「なんか………通りすがりにあんたのこと振り返って見てくる人が多い気がするけど……あんた、有名人なの?」
「え?気のせいだと思います。きっと、スティアさんのことを見てるんですよ。スティアさんの方がよっぽど有名人です。」
「…あたし1人で歩いてる時は別に見られたりしない気がするけど………」
そんな視線を気にしつつも、足はとめずにスティア達は街の外へ向かった。
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「おぉ……ちょっと外に出ただけで、もう雰囲気が全然違います!」
街の外……街を囲っている高くは無い塀や柵の向こう側は、建物や人工物はなく、見渡す限りの自然が広がる。北の地域故に、まだ雪の残る箇所もあり、その景色は草原の緑、土の茶色、雪の白、花のピンク……など、様々な色を見せる。
「ここから少し東に行ったところにある森に生えるてるはず。この辺りはモンスターもいないと思うけど、油断はしないようにするのよ?」
「はい!」
「……返事だけは立派ね。」
とても、アリスは『自分の身を自分で守れる』ようには見えない。武器も持たず、素早く動けるようにも見えない。
「まあいいわ。」
心配したところで何も変わらない……そう考え、スティアは森に向けて歩き出す。
しばらく歩くと、徐々に木が増えていき、気がつくと完全に森の中になっていた。
「まだこんな時間なのに暗いですね…なんだか怖いです。」
アリスはキョロキョロしながら、スティアの手を握る。
「あら、くらいところ苦手なの?」
「に、苦手と言いますか………不安になっちゃうんです。なんだか、その闇にアリスもそのまま飲み込まれてしまって、もう戻ってこられないような気がして………それに、ずっとくらい所にいると、普段よりさらに気分も落ち込むんです。」
「ふーん………ま、そうならない為の薬に使う材料を取りに来たんだから、少しくらい我慢しなさいよね。」
「は、はい……頑張ります………。」
アリスに手を握られたまま、スティアは辺りを歩き回り、地面に対して目をこらす。
「うーん……ないわね……もう少し奥に行ってみようかしら。」
「わ、わかりました………」
「まったく、怖がりすぎよ………。ほら、行くわよ。」
スティアはアリスの手を強めに引き、奥に向かって歩き出す。そして、しばらく歩くと地面に何かを見つけた。
「……うっそ……最悪。」
スティアのその小さなつぶやきを、アリスは聴き逃さない。
「な、何がですか!?」
「これよ……ここ、地面に穴が空いてるでしょ?」
スティアは背中から杖を抜き、地面を指す。
「あ……あります。」
「これ……『フォレストワーム』っていう手足のない竜みたいなモンスターが開けたやつだと思うわ……穴の直径はそんなに大きくないけど、アイツらその辺の落ち葉とか吸い込んで大きくなるのよ………」
「あ、危ないですか……?」
「そうね、それなりに危険なモンスターよ。特に体が大きくなっている時は厄介……好戦的になって、目につく他の生き物に対して攻撃してくるのよ。……もうこの辺に居ないといいけど………」
「もうそれ、『この辺にいる』っていうフリにしかきこえませんけど………」
「う、うるさいわね!……ちょっとあたしも思ったけど。」
しかし、たとえ何かがいるとしても帰る訳には行かない。目的の材料を探すために危険が付きまとうことは、珍しいことではないし、スティアもそれくらいは問題とは思っていない。ただ、それはスティア1人ならの話。アリスという少女が共にいる今、普段通りに動ける保証はどこにもない。
「……アリス。絶対にあたしの手離しちゃダメよ。」
スティアは手に力を込めて、アリスの手を握る。
「…へ?」
「下手に動き回られるくらいなら、いっそくっついてた方が安全なのよ………。それと、何かあっても大きい声出さないで。モンスターは人の声に反応する奴もいる。」
「わ、わかりました………スティアさんのこと、信じてます………。」
「そんなに重い信頼寄せられても困るわよ……でも、まあいいわ。」
何も起きなければいいけど……と、そんなふうに考えていたスティアだったが、その考えは直ぐに崩れることになった。
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