蒼き深淵の
「魚人……」
「ああそうだよ、なんか文句ある?」
再び着水し、元の体勢に戻って威圧するように言ってくる。
「い、いやないけど……。でも人魚ってこんな格好してるんだね。」
イメージと少し違う。なんか普通に服きてる。水中なのに!
「それ、文句じゃん。どうせ原種のヤツらが勝手に考えた魚人……人魚って言った方がいいんだね、そのイメージを押し付けてんだろ?都合のいい、原種の作った『おとぎ話』だかなんだか知らないけど。」
「うっ……」
「それに、そっちのあんた。あれだろ?魚人と竜人のハーフ?」
魚人の少女はレヴィを指さす。
「────ああ、そうだけど。そっちこそなにか文句かな?」
「いや、別に文句なんてないけど?……魚人特有の潜水能力もなく、竜人特有の竜化も出来ない出来損ないの失敗作で、竜人からも突き放されたバカな混血なんか、可愛そうで文句もいえないよな〜?あ、馬鹿なのはあんたよりあんたの両親か。」
ヘラヘラと笑いながら酷いことを言う。
「ちょ、ちょっ!?そんな言い方酷い……」
「あぁ?何?何様?自分と違うって理由だけで5つの種族をカスみたいな環境に追いやった原種サマがなに?私たちは深海に住みたくて住んでるんじゃなくて、住まざるをえなかったんだよ。みんなそう。高い場所も地底もそうだよ。……ああ、魔人種だけはイカれてるからその範疇じゃないけど。」
「へ、そうなんだ?」
「やっぱり知らないんかよ。いいよなぁ〜原種サマは。いい環境で好きに育って。」
イライラする〜!ムカつく!何こいつ!?
「……ところで、君はどうして……」
「『セーラ』。名前で呼べ。」
「なら、セーラはどうしてこんな所にいる?深海でなく、森の池……魚人がこんな場所にいるというのはきいたことがない。」
「あーそっか。カスみたいな中途半端魚人のあんたにはわからないか。……原種がわかんないのは当然として。暇だし、話してやるよ。特別だからな?」
――――――――――
「私が生まれるずっと昔、原種以外の種族は天の果てや地の底、谷や山や森……それから深海に追いやられた。別に海水でも淡水でも住める魚人にとって、それ自体はもんだいじゃない。でも、『追いやられた』……それはムカつくだろ。でも、魚人はもちろん他の種族の奴らもみんな、原種に対して敵意を向けるどころか機会があったら友好的にしたいなんて言いやがる。バカ丸出しだろ。」
「えー仲良くしたいじゃん。」
「……少なくとも原種側にそれを言う権利はないだろ。とにかく、私はそんな能天気で楽観的なアホどもに嫌気が差したんだよ。あんなのと一緒に暮らしてたらこっちまでアホになる。だから私はここで1人で生きてんだ。それをお前に邪魔されたんだ、怒るに決まってんだろ、少しは考えろ。」
うー……めっちゃ口悪いじゃん……怖い……。
「なるほどね、でも………セーラはどうやってここに来た?その疑問の答えはまだ出ていない。魚人は陸上でも呼吸はできるが、移動はできない………なのにこんな森の中にいるとは……。」
うん、どこからも流入がないこんな場所にどうやってきたんだろ?
「私は他のアホとはちがって、『選ばれた』かのようなすごい力を持ってるんだよ。『他の水場に移動出来る』……そういう力。だから深海の住処を捨てて、ここに移った。ここは静かでいい。」
セーラはぷかぷかと浮きながらつまんなそうに喋る。
「なるほど。」
「ね、魚人の住んでたとこってどんなとこ!?教えて!」
「あ?今の流れでよく聞こうと思うなお前……。」
セーラはまた顔だけ出す姿勢になって、わたしを睨んでくる。
「いいじゃんいいじゃん!教えて!特に魚人の男の人がどんな感じか気になるし!」
おとぎ話で知った人魚はみんな女性。今目の前にいるセーラも女の子。男の魚人って見たことがない。
「男?居ないけど?魚人は他の種族でいうところの雌しかいない。繁殖もそれどうしでするんだよ。」
え……
「レズレインボー王国じゃん………」
「あ?なに?なんだって?なんて言った今?」
「あ、ごめん。気にしないで……。」
でもセーラは引き下がらない。水から飛び出てきそうな勢いで言う。
「いや気になるだろ!?なんだレズレインボー王国って!」
「いや、ほんとに気にしなくていいから……」
「……まあいいや、だから男はいない。これで満足?」
………そういえばレヴィ、なんか黙ってるけどどうしたんだろ?後ろの方で何かを考えている。
「レヴィ、どうしたの?」
「いや……ボクは母親が魚人で父親が竜人なわけだけど……よくよく考えたらボクってどう産まれたんだって思って…。」
本来同性と繁殖する魚人と、普通に異性同士の竜人の………うわぁえぐい。考えられない……考えたくない。
「あー……あんたの母親、魚人の中でも有名だったな。『竜人と繁殖を望んだ異常者』って。ま、確かにそうだけどな。」
「………まあそう言われるのも仕方ない。ボクがなにか言えることは無い。」
「……ってことは男の人に惹かれる魚人もいるんだね。じゃあレズレインボー王国じゃないじゃん……。」
「だ・か・ら!!なんなんだよそれは!どこにあるんだよそんなふざけた王国!」
「あ、ごめん、気にしないで。」
「あーもう!うるせぇんだよさっきから!早くどっか行けよ!」
セーラはもう本当に噛み付いできそうな勢いで叫ぶ。
「まあボク達もたしかに悪いけど、セーラはここから動きはないのか?水場に移動できるのからここ以外にも……」
「……それが出来たらやってるに決まってんだろ。」
セーラはいきなり小さな声になり呟く。
「ほえ?」
「だから!出来ないんだよ!ここに来た段階で私の力は使い切った!だからもう一生ここから動けないんだよ!!わかったかアホども!?」
………これは、『わたしと似ている』何かを感じる………!