どう生きるか
おばあちゃんは母が離婚したことについて特に何も言わなかった。おばあちゃんはおじいちゃんと二人暮らしで仲良く畑をやりながら生活していた。なので母は少しでも生活費を賄うために今までにやったこともないパートの仕事を始めた。僕はと言うと、転校したものの全く新しいクラスに馴染むことができず休むことがほとんどだった。
「東京ってやっぱり人やばいの?」「いいなぁ東京」「こんな田舎に引っ越すなんて可哀想」
みんな僕に興味はなく東京のことばかり質問され最後には哀れみの言葉をかけられる始末でうんざりだったのだ。そりゃあ東京の方がなんでもあるし友達もいた。けど福井には東京ではあまり見ない自然の景色でのびのびできそうだと少なくとも期待は込めて来たのだ。
家に引きこもっているのも暇だったので僕は散歩することにした。おばあちゃんの家の裏には大きな山が広がっている。山道をのぼりしばらく歩くと知らないおばあちゃんがいた。
「ゆーちゃんかい?」
と声をかけられ僕は一瞬戸惑ったが
「はい、こんにちは。」と返事をした。
「おおきくなったのお!私はゆーちゃんのおばあちゃんの友達で、ヒデっちゅうもんや。散歩してるんか?」
「はい、ちょっと上まで登ってみようかなって」
「ほうかあ。ほんなら、ばあちゃんが案内してやるわ。」
そう言っておばあちゃんは着いてこいと言わんばかりにすたすたと山へ歩き出した。僕も後を追ってついて行くとしばらく登った先に小さな川があった。川の水はとっても透き通っていて東京では見たことのないほど美しかった。今まで悩んでいたことを洗い流してくれるかのようだった。その日はヒデさんが山で採ったという木苺をもらい家に帰った。
次の日僕は1人で山に行った。そうすると同じぐらいの歳の女の子が川でなにやらしていた。僕が近づくと彼女はびっくりして立ち上がった。
「だ、誰?」
「驚かせてごめん、最近引っ越してきた如月憂。」
「そうなんだ。私はめい、皐月萌結。」
「よろしく。ところで、何してるの?」
「んー、特に何もしてないよ。なんかここに来ると心が浄化されて嫌なこととか忘れられるからよくここに来るんだ。」
「そうなんだね。僕も昨日ここに来た時今までの嫌なことが忘れられた気がしたんだ。」
そのあと僕は萌結に山頂まで連れていってもらった。山頂からの景色はとても綺麗で僕はしばらくその景色に溺れていた。そして僕達はいろんな話をしながら山を下った。久しぶりに同い年の人と話せてとても幸せな時間であった。
それからというと、僕は萌結とたくさんの場所に行き、気がつけば引っ越してきて1年が過ぎようとしていた。
そしてある朝の出来事だった。
「ゆーちゃん、東京戻るわよ〜」
母がまた突拍子もないことを言い出したのだ。
「なんで?」と聞くと
「お父さんと再婚することになったの。」
もう訳が分からない。僕は呆れて言葉も出なかった。僕はもっと萌結といたいと思った。だから母に
「僕はここにいるよ。今更東京戻ってもどうせすることないし。」と言った。
「何言ってんの、東京の方が就職先もたくさんあるし、ゆーちゃんはお母さんの息子なんだから一緒に暮らすのよ」と訳の分からないことを言われ、戻らないなら一生無駄にすることになるわよとまで言われてしまった。戻らざるを得なかった。僕は東京に戻る当日、最後に別れを告げようと萌結の家に行った。しかし萌結はおろか萌結の家すらなかった。今までの出来事はなんだったのか。ただ僕は幻想を見ていたのか。そう思うと虚しさだけが残った。僕はこの18年間で2回も絶望を味わった。これ以上はもうないだろうとまた心機一転し東京で仕事を探す決心をした。
そして東京に戻り母と父は再婚し、また1年越しに元の生活に戻った。僕は就職をするためにいろいろと探したがさすがに中卒のやつを採用する企業などなかった。諦めかけていたその時ある企業のCMが流れてきた。中卒でも就職可能という文字が見えた。僕はダメ元で履歴書を送った。すると1週間後まさかの採用という紙が送られてきた。僕は嬉しさよりも驚きの方が大きくなぜ僕のような人を採用したのか気になった。次の日、僕はその企業のオフィスに行った。オフィスはとても綺麗で整頓されていた。社長秘書のような人に連れられ社長室に入るとそこにいたのはなんとあの萌結だった。
僕は驚きで声も出なかった。萌結は僕のことを覚えていないようで僕の顔を見て
「やっぱり思ってた通りかわいい顔してるわね」
と言った。僕はなんとも言えない気持ちになった。そして萌結は続けて仕事内容の説明をした。説明が終わった後、萌結が僕を食事に誘った。僕は特に用事もなかったので行くことにした。
「ゆーちゃん、久しぶりだね。」
萌結が突然僕の名前を呼んだ。やはりあの福井で出会った萌結だった。萌結は社長であっまお父さんが倒れたため東京に行き父の仕事を継いだのだと言う。その後、萌結と食事をしたり会うことを重ね付き合うことになった。その時の僕はもうこれまでにない程の幸せを噛み締め生活していた。付き合って1年が経とうとしていたクリスマスの出来事であった。萌結が突然僕に別れを切り出したのだ。僕は理由も分からずパニックになった。萌結曰く、
「ゆーちゃんと付き合ってても楽しくない。」との事だった。
楽しそうに食事をしていた萌結は嘘だったのか。そう思うとやりきれない気持ちになり自分が嫌になった。その後会社に行く気にもなれず何も手につかなかった僕は会社をやめニート生活に戻ってしまった。
「はぁ、これで3回目の絶望か」
そんな独り言を言いながら特に何も無い生活を送っていた。
そして20歳の成人式の日、5年振りに中学の同級生と会った。結婚してる人もいたり、安定した仕事について忙しい毎日を送っている人もいた。僕もそうなるはずだったのにと思いつつなんでこうなってしまったかを思い出させられたような気になり周りが浮かれている中1人虚無感に襲われた。二次会には行く気にもなれず1人とことこ家に帰った。どうせ言ったところでみんなの生活と自分の生活の差を思い知らされより悲しくなるだけである。そして小学校のタイムカプセルを開けに行った。人はそんなにいなかった。僕は自分の手紙を持って家に帰った。
そして僕は手紙を読んだ後、過去の自分への返事と25歳の自分への手紙を書いた。
_______12歳の僕へ
まず始めにごめんね。20歳の僕は無職ニートでなんの取り柄もない人間です。強くなることは出来ませんでした。まだ12歳の僕はたくさんの友達がいて勉強もそこそこ出来て幸せです。僕から君に言うことはただ一つ。自分の気持ちを大切にした方がいい。僕の失敗の原因は母の言葉に流され、社会に流されてきたことだと思う。だからいやなことは嫌と言ったらいいと思う。頑張れ。
_______25歳の僕へ
僕は今ニートです。でも働く気が全くない訳ではないので仕事を頑張って見つけてください。人に振り回される人生はもう嫌なので、自分が思うままに生きてくれていたらいいな。もし25歳になってまだニートだったらもうどうしようもないね笑 でもきっとなにか僕にできることはあるはずだから、諦めないようにね。
「さすがにもうこれ以上の絶望はないよな」
そんなことを呟きながら眠りについた。