そして僕は
なんとなく書いてみた短編です。
まあ、この続きを書くかは分かりませんが……。
あれは、何年前のことだろうか。
――思えば、あの事件さえなければ僕は、ただの社会の歯車になっていただろう。
そして、人並みに結婚して、子供ができて――そして、死んでいく。そんな人生を送っただろう。
それも悪くないと思う。
でも、僕は、絶対にそんな生き方はできない。
なぜなら――
――小学校六年生のころだったか。
僕は、学校で一番人気の女子に初恋をした。
告白した。でも、振られた。まあ別に、高嶺の花だし、傷ついたけど再起不能って程じゃなかった。
結局彼女とは「仲のいい友達」という関係で落ち着いた。
それが急に変わったのは、中学二年生の時だった。
人気のない校舎裏に、彼女は呼び出された。それも、一番モテてた男子に。
何より、彼女の初恋の相手に。
「付き合ってください!」
彼は、単刀直入にこういった。そして彼女は顔を赤らめて、
「喜んで」
と答えた。羨ましい、とは思わなかった。むしろ、幸せになればいい、と思っていた。
彼らは人並みに付き合い、関係も深まっていった、そんなように感じられた。
そんなある日、僕はネットである画像を見つけた。
それは――彼女の裸の写真だった。
リベンジポルノ、というやつだろうか。その画像は、ある言葉とともに張り付けられていた。
――人の言うことを聞かないわがままな野郎の写真、と。
生まれて初めて、人に殺意を抱いた。
こんなことがあっていいのか、と思った。始めは、そんなはずがないと疑っていた。
でも、決定的な場面を見てしまった。
――薄暗い公園に彼らはいた。確かこの時、塾帰りだったはずだ。
彼は彼女の胸倉をつかんでこう言った。
「おまっ……何してんだよ! 俺に何も言わないで――」
「何? あなたが勝手に私以外の女と付き合い始めたのが悪いんじゃない! 第一――」
「うるせえ! 口を開けば、我儘ばっかり! お前なんか――!」
いきなり喚き散らしたと思ったら、彼女の腹部を殴った。
僕は止めるということが頭から消えた。
そして、何事もなかったかのようにその場から去った。
――その、一日後。僕は教室で彼女に、
「昨日、何があったの?」
「もしかして、見た?」
いぶかしげに見てくる。僕は頷いた。
はあ、とため息をついて。
「あのことは誰にも言わないで」
「どう……」
「絶対だからね!」
彼女は叫び、走って教室を出た。
でも、気のせいだろうか。彼女の目に、涙が浮かんでいた気がしたのは。
家に帰って、昨日見た彼女の画像のページに行った。
一枚だけだった画像は、何十枚にも増えていた。
そして、自分でもどうしたらいいのかわからないくらいの感情が、沸き起こってきた。
――こんな男を、許すな。殺せ!
――お前がやらないでどうする!
――迷うな、やれ!
どす黒い感情が、勝手に溢れ出す。そして僕は、自分の家にあったナイフを掴み、カバンにいれて家を飛び出した。
走りながらスマホを取り出し、公園に向かった。
あて先は、あの男だ。
「話したいことがある。公園に来てくれ」
とだけ打って送信した。
――それから十分が経った。
「どうした?」
軽薄な笑みを浮かべて奴が来た。
殺意は、あった。でも、それは最終手段だと思っていた。だから、
「彼女に何をした」
「あー、そのこと? あいつがさあ、我儘なことばっか言うからさあ、俺も疲れてさ」
「で、他の女と付き合った、と?」
「まあな」
「そして、彼女を脅すために、リベンジポルノをやったのか?」
奴の顔色が変わった。
「ああ。だからどうした?」
……ふざけるな。ふざけるな!
それが、そんな軽い言葉で済まされるとでも思ったのか!
怒りで、何も考えられなくなった。周囲に人がいるかどうかさえ、気にしてもいなかった。
バッグからナイフを取り出し、奴の頸動脈を切りつけた。
「があっ!?」
血を吹き出しながら奴がもだえる。
吐き気がした。だが、それもすぐに終わった。
急いで逃げようとナイフをバッグにしまった。
その時だった。
「ひゅーっ! なかなかやるじゃん!」
振り向いて、走りだした。見られた――!
「その判断力もいいねえ! ますますほしい!」
その男は、俺のナイフを素手で叩き落とし、俺を地面に組み伏せた。
「ねえ、君さ。もう後戻りできないだろ? でさ、きみ、はじめてにしては筋がいい」
何が言いたいんだこの男は! 頭が混乱する。
「ねえ、殺し屋にならないかい?」
その男は嗤い、俺の顔を覗き込んだ。
「だって君は、僕のターゲットを僕より先に殺したんだからね」
――死にたくなければ、言うことを聞け。
そう、その男の顔は物語っていた。