鼠で学ぶ能力講座
さて、新居に引っ越してから、20日後
俺はまたも引越しを余儀なくされた。
というのも本能さんが、鳥の事件以降、さらに糸の苛烈な練習をさせようとしてきたために、幾度となく失敗し、失敗の度に・・・・・・察して欲しい。
そして何故そんな一大事なのにこんな悠長に構えてられるのかというと、鼠達はどうやら共食いをする習性を持っているらしく、爆破された仲間をなんの疑問もなく食べてくれるからだ。
身体はそこそこ大きくても、脳はくるみ程の大きさも無いのではないだろうか。
結果、自切りを上手く活用すれば、苦もなく乗り移る事ができるようになったのだ。とんだ尻軽ちゃんになっちまったもんだぜ、へへっ。
鼠からしたら悪夢以外の何者でもないけど・・・。
鳥に感じた情は鳥と一緒にどこかに墜としてしまったようだ。
そして、なんと、思いがけずに新しい能力的なものを手に入れてしまった。自切りの際に気づいたのだが、どうやら自切りした身体の方にも意識を転写することができるらしい。
寄生虫というより、俺は概念的な存在なのだろうか・・・。寄生虫の意識体?どんどん存在が怪しくなっていく。
この他にも、鼠に乗り移って行くたびに、色々な発見、能力の開花が見られたので、挙げていこう。
・棲家が耳から脳に転居
これにより、身体の成長がしやすくなり、乗り移る際の成功率と、糸の操作効率が良くなるようだ。具体的にいうと、5cmで1本の糸が操れるが10cmだと3本操れるようになる。計算式は不明だ。
・脳内物質の操作
脳に住み着いた事によって、直接イジイジできる能力を手に入れた。行動にかんしてある程度操作できるようになったと言っても過言ではない、ようは俺に好都合な事をしたときに快楽物質を与えてやれば、その行動を頻繁にするようになるのだ。調教だね。
・身体の一時補修
そして一番の驚きの能力、今まで散々練習してきた糸の能力だが、この糸の能力と自切りの能力を併用することで、鼠内の細胞に自らの体を侵食させ、侵食した細胞を活性化させることで傷口を塞ぐ事が可能になった。
いや、これが凄いのが、その気になれば補修どころか尻尾を増やす事だってできる。
・糸の能力
これは一つの気づきによって一気にわかってきた、気づきとは、糸が干渉している物についてだ。
それは丸い玉のような物が連なっているものだ。まるで化学の教科書にでてくる原子・分子のような構造のそれを、この糸はいじる事ができる。叩けば震える、縫い付ければ混ざり合う、切れば分かれるし、弾けばすっ飛んでいく。自由自在の糸でイメージ通りに操る事ができる。
故にイメージが付けばそこからは早い、自らの身体もまたその被干渉体だと思えば良いのだ。それを糸で貫き裁ち、時には縫い付けて操作できるように仕込み、鼠の細胞に縫い付けていく。これが一時補修の元なのだ。
そしてこれは外界にも作用する。詰まるところこの糸というのは[魔法]の元素というべきものと考えていいのかもしれない。
今はもうイメージをすればそれが叶う。本能さんはこれを習得するのを望んでいたようだ。これを制御するのが彼の領分らしく、今となっては寂しく感じるほどに静かにしている。
さて、細かい内容はここまでにしておいて、俺は新たなステージへと進むべきであろう。