人間への寄生
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遊ばれていた。ハンターを始めて10年以上、積み上げてきた自信と誇りが1撃ごとに削り取られ、零れ落ちていく。
奴はカインやトリシュの様に俺を殺しはせず、嬲る様に関節を狙って来る。だが、この程度の痛みならば問題ない。この状況で1番辛い事と言えば、今俺は1人だという事だ。
立ち向かうには余りにも無力すぎる実力差。抗うには限度があり、そして無情にもその時は訪れた。
膝をつき、無防備に剣を取り落とす。腫れた筋肉は動きを阻害し、まるで全身を縛られたような感覚に陥る。興奮状態だからか、痛みはあまり感じていないのが救いか。
奴が そろりそろりと、寄ってくる。もう、恐怖心すら枯れてしまった。
落ちていた剣は、奴によって手の届かない位置まで弾き飛ばされ、最期の抵抗すら許してはくれなかった。
「ヴヴヴヴヴ」
(あぁ、もう終わりか)
呆然と死を受け入れる心構えを整えた時、それは起きた。
グチュグチュ
そう音を立てながら
奴の目から1本の緑色の糸が出て来た。
それには意思があるようで、身体を立てて、俺と正対した。
失った筈の恐怖心が蘇り、全身が総毛立つ。
「ひぃっ」
出した事もないみっともない悲鳴が漏れてしまった。
(違う!違うちがうちがうチガウチガウ!!!
奴じゃあない!これは!コイツは!)
何故ウルフは目からあんな物を出したのか?
何故ウルフは苦しむそぶりも無いのか?
何故こんな見た事も聞いたことも無い生物が存在するのか?
「あ''あ''あ''あ''!いやだぁ!たっ助けてくれ!ミレア!カイン!誰か!誰かぁ!」
動かない筈の身体を必死に使い、逃れようとするも、突き飛ばされ地面にうつ伏せにされる。
「あ''あ''あ''」
まるで耳にゴミが入ったかのような、ガサガサと大きな音が聞こえてくる。耳に何か湿った物が侵入し、浅いその穴からはやがてゴリゴリと何かを削る音が・・・振動が・・・直接聞こえてくる。
「あ''あ''あ?あっあう?あぎぃ!?あっあっ」
脳が痺れる?不思議な多幸感で満たされていく。全てが変わっていくような。
「アベルから離れなさい!」
「ギャン⁉︎」
もう少しで何か変わろうとしたその時、聞き馴染んだ声と共に、押さえつけられていた圧力から解放された。
プツリと、音とも感触とも取れない感覚。
(俺は助かったのか?)
霞む視界の中、見えた物は、見慣れた顔で1番大切な者と、先程までの余裕を消した奴の姿。
どうやら奴の弱点は火のようだ。
目に見えてダメージを受けた奴は、今までの強気が嘘のように、直ぐに尻尾を巻いて逃げて行った。
普段の俊敏さであれば、避ける事は容易かったであろうが、俺に取り付いている間は無防備だったらしく、幸いにもミレアは絶好のタイミングで奇襲を掛ける事に成功していた。