人間との邂逅2
しかしながらだ、コイツの情報はギルドに伝えなければならない。
これだけ村に近い距離にいるのだ、村に来る確率はかなり高い。排除しなければ、安心する事は不可能だろう。
ここまで考え、覚悟を決める。
俺が足留めをし、他のメンバーには逃げて貰うしかない。
幸い、ウルフもどきが距離をとって、此方の出方を伺っているという事は、奴も何かしら不安を感じているのかもしれない。
「ミレア、後は頼んだ。」
呟いた彼女は真っ青な顔をしながら、此方に意識を向けてくれた。そして同時に意図を察してくれたようだ。
長い付き合いだ、だからこそ首を横に振り、ささやかな否定の意思を示したが、子供のように駄々を捏ねられても困る。時間も無いのだ。
「いいから行け!必ず俺も逃げ延びる!」
怒鳴りながら背中に回して、壁となる。後ろから走り出す音がして安堵した。
途端、ウルフもどきが動いた。垂直に飛び上がった奴が、何をするのかと、警戒をすれば
「嘘だろ?」
唖然とした。奴はその触手のような物を攻撃に使わず、移動に使い始めた。
剣の届かぬ位置まで飛び上がり、エイプのような器用さで木のしなりを利用し、木で入り組んだ森を有り得ない速さで動く。
聞いた事も見た事も無いぞ、こんな生物。
俺は邪神の眷属にでも出会ってしまったのだろうか。
あっと言う間に、逃げていた筈のミレア達に接近すると、何か丸い物が飛んだ。100歩程もあるその距離を飛ぶとはそれほどの威力があったのだろう。
飛んで来たのはアーチャーのカイン、そのものだった。
彼は未だに信じられ無いと言わんばかりに目を見開き、一度だけ瞬きをすると、それきり動かなくなった。
「あっ、あっあぁ」
終わった。
俺の献身も嘲笑うが如く、虚しく。頭の中が真っ白になった。
きっと、もう2人も助からないだろう。
そう思い、ぼんやりと視線をカインからミレアに向ければ、逃げて行く背中と、何故かこちらに戻ってくるウルフもどきの姿が見えた。
(なぜ?)
そう考えるより先に脚が動いた。
覚悟を決めたのに、ここで死のうと決心したのに、無様にも俺はあいつからの逃走を選んでしまった。
だが、結果的にこれで良かったのかもしれない。奴が追ってくるならば、それは同時に2人から距離を取れるという事だ。
皮肉な事に、この無様な逃走こそ最適解であると、この後俺は知ったのだった。