少し未来の話
「宿りの森には化け物が出る。」
自分がどうしてこのような様になったのか、半狂乱に走りながらも思い返すと、全てはあの噂が源流だったと行き当たる。
そもそもなんでそんな噂が流行るのだ、化け物など、精々この地域にしては珍しい魔物とかだろう、と高を括っていた俺は大馬鹿物だ。
が、そうだとしてもだ、それが・・・それがあんな悍ましい物だとは誰が想像出来る物か!。
「化け物」そう奴こそ化け物だ。ギルドの調査依頼など蹴るべきだった。
走る走る走る、息が荒くなるがそんな事など気にする余裕など無い。あれに追い付かれるなどあってはならない。
どれだけ走っただろうか、運良くか、それとも諦めてくれたのか、奴に邂逅する事無く、目の前に街道が見える位置まで来れた。
日頃は何も考えずに歩いている道だが、この時だけは光輝く一本の糸にみえ、自然と頬に熱い物を感じる。
(助かった!助かった!助かった!)
速く人のいる所に!速くギルドに!この森は焼き払わなければならない!そしてあの化け物をあぶり出し、討滅しなければ!大変な事になる!
「えぁっ!?」
不意に身体に妙な感覚を覚える。
希望が見えて安堵し、余計な事に気を向けてしまったからか、どうやら躓いて身体が勢いそのまま投げ出されるようにして転んでしまったようだ。
地に這い蹲るようにして、顔を上げる。
「へっへへっ、転んじまった」
恥ずかしさ、焦る気持ちを誤魔化すようにそう独り言ちつつ、顔を上げる。
「チュウ」
ネズミが居た。
顔を上げるとネズミたった1匹だけ居た。
別にこの年になって、ネズミなど怖い筈も無い・・・が声が出なかった。ネズミが顔に近寄る、野生のネズミが人間に近づくだろうか?
そんな疑問が浮かぶ前に、俺には確信が、恐怖が先に襲って来た。
「やめろ、やめてくれ。」
懇願するもネズミは寄ってくる。
表情がない筈のその生き物が、歪に笑ったような気がした。
ネズミが顔に接触する前に、俺は気を失った。
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「うーん、あっあれ?」
俺はいったい何でこんな所で・・・。そうだ!ネズミ!
周囲を見渡すが、奴は近くにいない。そもそもあれは現実だったのか?
「いや、今は考えるのは辞めよう」
そうまずは街に、ギルドに行かなければ、森をやききききあぎゅ?そう、ギルドに報告しなけれれれびゃ、そう何も無かったと報告して、次の次のつぎつぎつぎ・・・そう!田舎でのんびりと暮らすんだ。
朗らかな笑顔を浮かべ一人の男は街道に出た。満面の笑みを浮かべた男が森の中から出て来た事により、偶然通り掛かった商人が唖然としながら馬車を停めたが、男はそれを意に介さず歩を進め、真っ直ぐ街へと向かったのだった。
その時の商人の目には、その男の耳から何か糸の様な物が写っていたのだが、何かの見間違いだろうと、耳飾りか何かだろうと、そう思い不気味な笑い顔の男の記憶だけ残し、酒場の話の種に落とし込むに留まるのみとなった。