診断メーカーお題SSが長くなりすぎたのでなろうに上げる
朝起きて学校に着くまでの間、誰かと口をきいたらこの幸せが逃げて行く気がした。
何が幸せかって?
そんなの決まってる。
昨日の合コンで出来た人生初めてのカノジョって幸せさ。
“ハツカノ”――なんていい響きなんだろう!
これでもうコンパの度に『年齢=カノジョいない歴』なんてアイツにバカにされなくて済む。
アイツって? アイツと言ったらアイツさ。
物心ついた時からの幼馴染み。
実は産まれた病院も一緒な腐れ縁。
何も大学まで同じ所を受けなくていいのに、アイツは東京の同じ大学に進学して同じ学生寮に入寮していた。
「おは、環。目玉焼き作っといたよ」
自室から出て向かった食堂でアイツこと充に声を掛けられた。
この寮の食堂は食堂という名はついているけれど、完全自炊の共同炊事場があるだけで調理師がいる訳じゃない。
各自が自分で料理をするのだが、充は入学当初から俺の飯を作ってくれている。
俺だってもう成人したし、小坊の頃の調理実習で米に洗剤をぶちまけたことは時効だと思うし米くらい炊けると思うんだが、充は俺が起きるより早く起きて朝飯を作ってしまう。
お前は俺のオカンか? 俺のヨメか?
「何? 目玉焼きな気分じゃなかった?」
俺が口を閉ざしていると充が怪訝な表情を浮かべて聞いてきた。
「だぁっもうっ! 昨日出来たカノジョが現実に存在すると確定するまで誰とも口ききたくなかったのにっ」
「――アホか。昨日の帰りも散々喋ったろ。何回、アレ本当にあったことだよなって環に訊かれたと思ってんだよ」
充が俺の額を指で弾いて呆れ顔をした。
「だってさぁ、ハツカノだぜ、ハツカノ!」
大学入学早々新歓コンパでカノジョが出来て、初デートから童貞卒業迄を一気に済ませ一足飛びに大人になった挙げ句あっという間に別れた充はカノジョのありがたみを分かってないんだと思う。
充がカノジョと手を握っただのキスをしただのという報告を逐一聞かされる度に俺がどれだけ悔しい思いをしたか。
なんでお前だけカノジョ出来てんだよと。
俺達、田舎の高校から大学進む為に周りで遊びまくってる同級生達に脇目も振らず青春を塾通いに費やしたイケてない男子仲間じゃなかったのかよと。
「でさぁ、環なんで昨夜の帰りにお持ち帰りしなかったんだよ。マリンちゃんだっけ? 独り暮らしって言ってなかったか?」
フライパンから目玉焼きを皿に移しながら充が訊いてくる。
俺はジャーから飯をよそってテーブルに並べる。
「真麻ちゃんだよ。付き合ったその日の内にお持ち帰りとか、俺がそーゆーの無理なの知ってんだろ」
「つーか、酔った勢いでヤッとかないとハタチ超えてからの童貞卒業は大変だと思うよ?」
「は? ナニ先輩ぶってんだよ。充だってヤッたの一人だしセカンド童貞みたいなもんだろ」
俺が言うと充は意味ありげに襟つきカットソーの襟ぐりを指で広げて見せてきた。
「昨日の居酒屋のトイレでイタシタ相手につけられちゃったんだよね」
俺は手にしていたしゃもじを落としていた。
首もとにクッキリとつけられた鬱血痕、いわゆるキスマークというヤツだ。
大学に入学したての頃に一生懸命腕を吸ってつける練習をしたから知っているあのマーク。
「でえええ?! いつの間に!?」
「環がマサコちゃんだっけ? と、付き合うことになった後にはしゃいで酒ガンガン飲んでた時に廊下で声掛けられて――」
何だよそれ? 俺がハツカノに浮かれてる間に、お前は二人目ゲットかよ?!
しかもトイレでイタシちゃったとかどうなんそれ?!
お前の倫理観念どうなっちゃったんだよ!
「充がそんなヤリチン野郎だったなんて……」
「俺けっこー上手いよ? 指導してやろうか?」
「ふあ~っ?! ナニその上から目線! 充のクセに! 皮剥き合った時に泣き叫んでたクセに!」
「アレは環が手加減無しに力任せに剥いたからだろ?!」
「お前らのホモトーク朝からキツいからやめろ~」
IHで粗挽きソーセージを焼いている先輩が両手で耳を塞ぎながら口を挟んできた。
「は? 充となんて冗談じゃないっすよ。俺は女子しか興味ないんで」
「俺は男もアリかなぁ。先輩、今度試してみません?」
充が体にしなを作って笑えない冗談を言い、先輩がヒィと変な声を出した。
俺はアイツの首もとから何故か目が離せなかった。