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突然の招待

「はぁ……はぁ……はぁ……」


 久しぶりにこんなに全力で走っている気がする。しかも自分のペースではなく、手を引かれる形で。


 下校中に写真を撮ってくる輩から逃げるために白雪さんの手を取ったのは正解だったが、そこからが問題だった。


 最初のうちは俺が彼女を引っ張っていく形だったが、だんだんと差が縮まっていき、今では俺が彼女に引っ張られている形になってしまっている。白雪さんが俺とは比べ物にならないほど運動神経抜群なのを忘れていた。なんとも情けない限りである。だが、もう体力の限界である。


「あ、あの、白雪さん!もう、体力が限界っていうか…」


「いえ、もう走らなくても大丈夫です」


 そういうと彼女は歩みを止めた。自然と俺の歩みも止まる。そこは大きな家、いや、立派な門、高い塀に囲まれた屋敷だった。

 しかも表札には『白雪』と書かれている。

 こ、これはもしかして…


「あの、し、白雪さん?ここってもしかして白雪さんの家ですか?」


 あまりにも突然のことで敬語になってしまう。すると白雪さんは眉をピクリと動かす。


「なんで敬語で話すんですか!いつもみたいにタメ口にしてください!」


 頬を膨らましたままそっぽを向いてしまう彼女。

 いや、いきなり精神年齢低くなるのやめて!可愛すぎて心臓に悪いわ!

 ていうか白雪さんだってずっと敬語じゃんかよ!という言葉が喉まで出かかったのを止める。女の理不尽を正論で諭そうとするのは間違った選択だ。ここは甘んじて受け入れよう。


「わかったよ。白雪さん」


 そういうとみるみる白雪さんの顔が笑顔になっていく。あれ、白雪さんの笑顔を見るのって初めてじゃないか?しかもさっきは、精神年齢がいきなり幼くなったし。学校ではいつも凜としているのに…


「どうかしましたか?」


 ずっと白雪さんの顔を見ていたからだろうか、不思議そうに頭を傾げてきた。


「い、いやなんでもないよ」


 まあ、そんなことどうでもいっか。とりあえず白雪さんを家まで送り届けることができた。それだけでなかなか達成感がある。

 そんな事を考えながら俺も自分の家に向かおうとする。が、白雪さんが俺の手をガッツリと掴んで離さない。


「なんで手を離してくれないんだ?」


 すると彼女はなんでそんな事を聞くのか、と言いたげな顔でさも当然のように言った。


「なぜって、りゅーたくんを私の両親に紹介するからですけど?」


 その言葉を聞いた時、俺の目の前が真っ白になった。

 まず呼び方、『りゅーたくん』はやばい、マジで。軽く心臓止まったわ。

 そしてその後に続いた爆弾発言。もしその言葉が本当なら俺は何も準備していない中で白雪さんのご両親にご挨拶するらしい。


 うん、控えめに言って頭がおかしい。てか、急に会いにいくなんて大丈夫なのだろうか。ただでさえ白雪さんのご両親は忙しいはずなのに…


 その事について白雪さんに聞くと、「告白がOKされた時、すぐに両親には連絡してあります。」だそうだ。なんでも両親から、彼氏ができたらすぐに紹介しなさいと言われているらしい。


 だが!それでも!付き合った初日に!ご両親への!ご挨拶は!ハードルが!高すぎないか!!!



 白雪家の立派すぎる門を超えると目に飛び込んでくるのは手入れの行き届いた美しい庭。全ての木、池、そして砂利まで、手入れがなされている…ような気がする。

 そんな景色に心惹かれてキョロキョロしていると、玄関から20代くらいの女の人が出てくる。おそらくお手伝いさんだろう。


「ああ、お帰りなさい、響ちゃん。ご両親が居間でお待ちになってますよ。それで、そちらの方が….」


 そういうと彼女は俺の方を見てくる。

 すると白雪さんが俺の手を引き、密着してきながら言った。


「はい、先程連絡しておいた彼氏のりゅーたくんです!」


 白雪さんに改めて彼氏って言われると照れるなぁ。しかも密着てすよ!密着!グヘェ、グッヘヘ。

 おおっと危ない危ない。危うくゲス顔をさらすところだったぜ。素早く表情を変えて背筋を伸ばす。


「どうも、巻島隆太と申します」


 軽くお手伝いさんに挨拶する。

 するとお手伝いさんは何か面白い物を見たような顔をして言った。


「居間で両親が待ってますよ、響ちゃん、早く連れて行ってあげなさい」


 すると白雪さんは待ってましたとばかりに俺の手を引っ張りながら言った


「ね、りゅーたくん、早く早く家に入りましょう!」


 そしてそのまま俺は白雪家の廊下をぐんぐんと進んでいく。

 ここでもやはり違和感を覚える。学校では手を繋ぐのだってあんなに恥ずかしがってたのに今では積極性に握ってくる。しかも少し精神年齢も幼くなったように見えるし…


 もしかするとこれが彼女の素の姿なのかもしれない。そして学校では無理をして、凜としている自分を演じている、みたいな…


 そう考えると居ても立っても居られなくなる。

 だがここで「学校で無理してキャラ演じてるの?」と聞くのはクソ野郎だ。もしかしたら秘密にしているのかもしれないので、それを直接に聞くのは非常にナンセンスだ。自然とそういう流れを作れる方がいいだろう。

それなら…


「白雪さんって学校にいる時より家にいる方が可愛いよね」


「か、かかかか、可愛い、ですか?ま、まあ、他人の目がない家だと自然体でいられるというかなんというか…」


「自然体?じゃあ学校では無理をしているの?」


「いや、そういうわけじゃないんですけど…」


 無理をしているわけじゃないんだ、良かった…

 てか、白雪さん。俺の考えてた話の流れに乗っかり過ぎじゃないか?将来詐欺にあわないか心配だなぁ…

 そんなくだらないことを考えている間にも白雪さんの話は続く。


「小さい時に、自分ではちゃんとしているつもりでも親からもっと大人になりなさいとか、落ち着きを持ちなさいとか、色々言われちゃって…」


 なるほどそういうことだったのか…

 確かに白雪さんの自然体は子供すぎるかもしれない。だからあまりクラスメイトと会話をしないことによって、周りからしっかりしている、と思わせるとこにしたらしい。

 なら…


「俺は自然体の方の白雪さんも好きだよ」


 自分でもキザな言葉を言っている自覚はある。だが、それで少しでも白雪さんが自分の自然体に自信を持ってくれるならばこんな言葉ならいくらでも吐ける。

 すると白雪さんは少し下を向いて顔を真っ赤にする。


「や、やっぱりりゅーたくんと付き合えて良かったです!」


 そう言って俺に飛びついてくる白雪さん。学校では味わえない積極的な姿にとてつもない幸福感に包まれる。

 あぁ、白雪さんが可愛いすぎて死にかけるのはこれで何回目だろうか…

つまり白雪さんは、学校では『凜としていて、手を繋いだりするのをめっちゃ恥ずかしがる』性格で、家では『精神年齢が下がってめっちゃべたべたしてくる』みたいな性格ということです。

白雪さん一人いれば二つの性格を楽しめますね(笑)


次回、もしくは次の次くらいの回から白雪さんがりゅーたくんに尽くし始めます。

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