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ヘブンズ・ゲート  作者: 西木宗
黒の雷編
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一閃




***




──時間は少し遡り、ディランがゼオンとヴァンの二人がかりでもリュウを倒すのは難しいと考えていた頃……。



「要は少しでもリュウの気をこっちに引いてやればいいんでしょ?」



「それが簡単にできれば苦労はしないぜ……」



人差し指を突き立てて小首を傾けるメリーに、ディランは深々とため息を吐いて答えた。



「ちょっとやそっとの不意打ちじゃ意味がないってことだよね」



先ほどのメリーとの連携攻撃を思い返したゼロは、ディランが悩む原因に気づいたようだった。



即席ではあったが見事に調和し、タイミングに関しては完璧だったのだ。それを軽々と防がれたのだからもう一工夫する必要がある。



ディランは「あぁ」と言って頷くと、メリーとゼロに自分がどうやってリュウと戦っていたのか簡潔に説明する。



「──つまり、あいつは見るのではなく感じている。いや、予見していると言った方が正しいのかもしれねえな」



リュウと対峙するだけで心の内を見透かされた気分になる。



これは実際に体験してみない限り分からないだろうとディランは思った。




場に流されない冷静な判断。



決して怯まず、動揺せず、折れることのない精神力。



そして確立された独自の戦闘スタイルを持つ。



単純な強さもそうだが、 このリュウという人格そのものが特質な力を生んでいる、と考えるのが妥当ではないだろうか。



「一番てっとり早いのは特大の一撃を放つことなんだが……」



「あたしの【洪圧水竜】は敵に近づかないと意味ないし……」



じーっと動くディランとメリーの瞳が揃ってゼロの顔を捉えた。



ここは五属性の中で最も攻撃に特化している闇属性に頼るしかないと考えたのだろう。



期待の眼差しを受けるゼロは少し迷惑そうに──見えたのは二人の気のせいかもしれないが、若干顔を引きつらせながら口を開いた。



「……まあ、特大ではないけど僕の闇霧なら……目くらましになるんじゃないかな」



「【闇霧】か……条件は厳しいけど上手くいけば……」



「一秒は確実に暗闇にできるわね」



一秒だけなのか、一秒もなのか、それはもうこの戦いを見ているディラン達には愚問だった。



声かけもせずに互いの力を十二分に発揮し、ここまで連携のとれるゼオンとヴァンはさすがだと、素直に関心ができる。



なら、それらを相手取ってしかも有利に戦いを進めているリュウはどうなる。



「やっかいなのはあの蒼い炎だ。俺が万全の状態だったら【雷の繋縛】で隙を作れるんだが……」



「確かにこの中で最もスピードのあるあんたがいないのは痛いわ」



最終的な目標は決まっていても、そこに辿り着くまでの過程がなかなか定まらない。



どれこれもあの蒼い炎にはね返される気しかしないのだ。



何か型破りな突破口が必要だった。










「──俺なら何とかできるかもしれない」










──と、やけに覇気のこもった声でそう言ったのは、ゼロに肩を貸してもらっているサウスであった。





家族の死の真相を知ったことで精神が不安定になり気を失っていたはずだが、顔色はそれほど悪くない。



「サウスお前……なんともねえのか……!?」



「ディラン…………」



ディランと目を合わせたサウスは複雑そうな面持ちになる。気まずくてどう接すればいいか困っているのだろう。



「そんな顔すんなって、悪いのは全部あいつだ。それに俺だってずっと一緒にいたのに何も気づいてやれなくてすまん……」



「サウス、僕もごめんね。全然力になってやれなくて」



「また何かあったら、今度はちゃんと相談しなさいよ」



「みんな……本当に悪かった」



サウスは自力で立つと深々と頭を下げた。



三人は詳しい事情はほとんど分かっていないが、これ以上 詮索はしようとしなかった。



どこかお通夜のような余韻が残る中、沈黙を破ったのは「うん?」と首を捻ったメリーだ。



「そう言えばサウス、さっき何とかできるかもって言ってたけど、どういう意味なのあれ?」



するとサウスは手から微弱な電気を──黒色の電気を出して見せた。



「リュウの話を信じるなら、この力はあと五分は保つはずだ。【迅雷剣】を使う」



「【迅雷剣】か……それならいけるかもしれねえな」



その身で直接受けたディランが真っ先に頷いて賛成した。



正直あの時のダメージはまだ抜けきっておらず、身体の中に別の電気が流れているという変な感覚も時折する。




ディランの把握している限りでは、リュウに通じる最も有効な技だと言えよう。



「完成してたんだね。全てを真っ二つに切り裂く雷の剣」



「……リュウが教えてくれたおかげでな」



技のイメージ自体は結構前からあったが、それを形にするのには想像以上に苦しかった。



指先に電気を集めるだけでもかなり集中力を要し、更に思い通りに放ってコントロールしようと試みていたサウスはひたすらに訓練を続けていた。





──ということをディラン、ゼロ、メリーの三人はよく知っていた。



可能なだけアドバイスも送り技の完成を応援していて、最終的にはリュウの手柄になるなんて思いもしていなかっただろう。



「僕達は下手に手は出さない方がいいね」



「頼んだわよサウス」



「タイミングはこっちで指示する。お前は技に集中しろ」



「──分かった」



友達を信じ、サウスは腕を地面に水平にして真っ直ぐ延ばすと、目を瞑り全ての意識を技に傾けた。




実は闇の──リュウ曰く覇王の力が入ったこの黒の電気で【迅雷剣】を使うのは初めてだ。



──撃てるのは恐らくこの一発だけ。絶対に成功させる……!



全身を覆うほどまで膨れ上がった電気を更に圧縮させて一点に集めていく。



「──こっちの準備はできた。いつでもいけるぞ」



後は合図が来たら全てを解放してやればいい。サウスは目を閉じたまま耳から入ってくる情報のみに神経を手繰り寄せた。



暗闇になったことで自然と心が落ち着き、肩の力も抜ける。



自分がやったことはもちろん許されざる行いだ。今更どうこう言い訳するつもりもない。



けどここで──この技を成功させることで自分の中にあるつっかえた何かが完全に取り除かれる──そんな気がする。








──終わったらもう一度ちゃんと謝ろう。







「今だサウス!」




友の声にサウスの両目がカッと見開いた。その目に映るのはリュウただ一人。







【迅雷剣】















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