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ヘブンズ・ゲート  作者: 西木宗
黒の雷編
62/68

蒼虚壁



***


リュウの炎の量は明らかに抜きん出ているもの、ゼオンも負けていない。今のところリュウの全ての攻撃を紅い炎で相殺し合っている。



ヴァンはと言うと、あちこちに動き回りながら【聖虚壁】で炎を ガードし、隙を見計らって【白皇球】を放つといった具合だ。



「なかなかユニークな技を使うもんだね」



さっきからいくら正面から炎を受けても傷一つつかないヴァンに、リュウは軽く首を振って肩を竦める。



試しに全方位から包み込むようにしてみたのだが、それでもヴァンは悠々として炎の檻をぶち破ったのだった。



「まだ本気じゃねーだろ、隠してないでさっさと出せよ」



「それはこっちも言いたいね、確かにそのコンビネーションはすごいと思うけど」



「はっ、オレとゼオンが何年一緒にいると思ってんだよ」



ヴァンは発光した両手を地面にぶつけて煙幕代わりの真っ白な煙でリュウの視界を奪った。



高く飛び上がったヴァンと入れ替わる形で、紅蓮の津波がリュウを襲う。



「そっちか」



目が見えなくとも、これほどの高エネルギーを兼ね備えている気配を探知することなど容易いことだ。



リュウは周囲に漂わせている蒼い炎の配分を変更し、ゼオンの炎を迎え撃つための準備をした。



──と、ここでリュウは自らの失態に気づく。



まだ煙の後が残る中、上空から霧を裂いてヴァンが現れた。



「この炎は囮か……!」




リュウは反射的に後ろに飛び退こうとするが、地面を蹴った瞬間、背中に重い衝撃が走り口を強く噛んだ。



「…………ッ!!」



【聖虚壁】



ヴァンが掌を向けながらしてやったりと鼻を鳴らす。


 

「オレの【聖虚壁】……壊せるもんなら壊してみやがれ!」



「なるほど……道理で手応えが全くなかったわけだ」



リュウの顔はヴァンを見上げているが、腕だけを後ろにやって【聖虚壁】を撫でるような仕草をとっている。



手の甲でコンコンと叩き、これはちょっと難しそうだな……と、一人で何やらぶつぶつ呟いていた。



「この状況でも余裕面とはおもしれーなお前!」



右足を振り上げたヴァンは落下する勢いで加速し、その踵がリュウの頭に直撃しようかとしたとき──



「詰めが甘い」



リュウが指をクイッと上に動かすと、地面の中から細長い渦を巻いた蒼い炎が飛び出してきた。



まともに受ければ身体を貫かれてもおかしくない、高速回転を併せ持った鋭利な炎。



「いつの間に……!」



慌てて【聖虚壁】を自分とリュウの間に出現させ、軌道を横にズラす。



その距離は一メートルを切っていた。両目を見開いて焦るヴァンに、リュウは淡い瞳を向けながら答える。



「君達が気づいていないだけで、仕込む暇はいくらでもあった。──残念だったね」 



それに対してヴァンは心底残念そうに苦笑する。



とても戦闘中に見せるとは思えない、それはまるで、賭けに負けた者のような──。



「……残念だぜ、おいしいとこだけ持っていかれるんだからな」



「まさか……」



今度こそハッキリと見て取れた。リュウの顔から血の気が引くところをヴァンは見逃さなかった。



「──詰めが甘かったのはお前のようだったな」



「こっちが本命か!」



目を上にやるとヴァンの姿が消えている。そして前からは、炎を腕に纏わせたゼオンの拳がすぐそばまで迫っていた。



後ろは【聖虚壁】。横からはゼオンが予め用意していたであろう【灼火弾】。



こちらの炎でガードしたところで相撃ちになるのが目に見える。



残された上空に回避するという選択肢もない。



──僕が反撃してくることを想定して、わざわざヴァン君は蒼術を使わず体術できたのか……。



狙っていたのか、たまたまなのか、今はそんなことどうだっていい。



勘のいいリュウはここで全てを悟った。



──もしこの一撃を喰らえば、僕の負けだ。




同じ火属性だからこそよく分かる。



ゼオンの腕の炎は形こそ小さいが、消費している炎の量は膨大だということを。



こちらも今から新たに炎を出したところで、何の時間稼ぎにもならない。



だがリュウはこの戦闘で一つだけ学んだことがあった。










それは──








「この感じ………まさか……」



ありえないと言った表情を浮かべるゼオンの右腕が何かに弾かれ、その反動で身体全体が後ろに仰け反り返る。


 

「成功……か」



リュウ自身もやり過ごしたにも関わらず、いつものニヤツいた面影はどこにもない。



「おいゼオン! 何やってんだよ!」



リュウの背後から追撃の用意をしていたヴァンが声を荒げながら飛び出した。



「待てヴァン! それ以上近づくな!」










蒼虚壁ハレーカーテン






「なっ…………」



ゼオンの声に急ブレーキをかけたヴァンは、訝しそうに目を細めた。



その瞳には何も映っていないが、なぜか胸がザワツいて仕方がない。



体勢を立て直したゼオンは瞼を震わせ、リュウを見据える。



「あいつはお前と同じ……いや、お前の【聖虚壁】に似た技を使った……」



「は……? どういうことだ…………あれはオレのオリジナル技……」 



ゼオンの言っている意味が上手く呑み込めないヴァンが、説明を求めるかのようにリュウに目線を移した。



するとリュウは、汗ばんだ手で前髪を上げ──ヴァンに冷め切った視線を送った。



「ごめんねヴァン君……君の技を少しだけ真似させてもらったよ」



「何だと……そんなことできるわけねえだろっ!!」



【白皇球】


【蒼虚壁】




「落ち着けヴァン!」




ゼオンの叫びにも耳を貸さず、ヴァンは両手から【白皇球】を繰り出した。もう一度。更に休む間もなくもう二度。



けたたましい爆発音だけが戦場に鳴り響き、砂嵐がおさまった頃には、ヴァンの前方に位置する地面がこれでもかと言うほど抉れており────それだけだった。



「オレと同等……つーかそれ以上の硬さ。……そんなはずがねえ、ゼオン! そっちからも攻撃しろ!」



【白皇球】



「落ち着けと言っているだろ……」



【灼火弾】



渋々ヴァンの言うとおりにするが、ゼオンとしてもまだいろいろと確かめたいことがあったのは事実だ。



属性が異なる技の──しかもオリジナル技を見ただけで模倣するなど常識を遥かに逸脱している。  



「二つ同時に出せるかな……。それにしてもこの技は体力の消費が多いな、ヴァン君が羨ましいよ」



両手を横に広げて【蒼虚壁】を展開させようとするリュウ。



そんなリュウの視界の隅に、一筋の黒い何かがよぎった。



「これは……」



──刹那、黒い電撃、そして黄色い電撃がほぼ同時にリュウの身体に触れた。










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