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ヘブンズ・ゲート  作者: 西木宗
【闇属性狩り編】
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ゼロ・フォークス②

「今から丁度十八年前ですか……。私もあなたほどではないですが、天才と呼ばれる分類に属していて、当時は入学する前からヘブンズ・クラム期待の星、なんて言われてたんですよ。フフッ」



最後のは半分ウケ狙いで言ったつもりだったが、残念ながら場に不穏な空気が漂う。



ライニッツはゼロを横目で見ながら、しまった、と後悔する。



ゼロはライニッツの言葉に呆れることもなく、淡々としていたのである。それは、ゼロがライニッツの強さを誰よりも知っているが故、出来ること。



相手が純粋な心を持つゼロで良かったと思いながら、もうこの子の前で中途半端な冗談を言うのはやめようと心に誓い、何事もなかったかのように続きを話し始める。



「ヘブンズ・クラムには年に五回の定期試験、それを三年間で一五回。そして入学するための適性試験、計十六回生徒達の順位が出ます。その順位で、私は何番目だったと思いますか?」



「うーん、師匠のことだから十六回全部……とまではいかなくても、何度か学年一位、それ以外でも三位以内に入ってたんではないですか?」



ゼロの的確な推測にライニッツは目を丸くして驚く。



「おっ、中々いい所を衝きますね。半分正解で半分不正解です」





「えぇ、私は一度もトップを取ったことはありません。けれども、全てにおいて三位以内、もっと言えば私の成績は三年間ずっと二番目でした。……ちなみに、一位の方も卒業するまでその座を守り続けていました」



「三年間ずっと……ですか」


 

ゼロはあまりにの予想と反する結果に心の底から驚いていた。師匠を差し置いて一位に、ましてや三年間一度も墜ちることなくトップに君臨していた人物とは、一体どんなやつだ。



ゼロは脳内イメージで懸命にその容姿を思い浮かべるが、どうやっても厚い筋肉で覆われた、大男しか出てこない。



「師匠、その一位の人とはどのような大、……じゃなくて人なのですか?」



思わず大男と口に出してしまいそうになったのを堪えて、その後の言葉のボリュームを上げて誤魔化した。



眉を顰めながらわざとらしくつんつんした襟足をいじっている師匠を見て、ゼロの表情が固まる。




なぜならあの仕草は、ライニッツの機嫌が最高に悪い時にしか見せない。



ーーもしかして触れてはいけないものに触れてしまったのか? それとも急に大声を出したからか? そうだとしたら器が小さすぎるぞ。それでも師匠か!



ライニッツが不機嫌になった理由をあれこれ考えているうちに、なぜかただの悪口に変わってしまったことに気づき、首をブンブンと横に振る。するとーー



「さっきから何を一人で慌てているのですか。別に私は怒ってなどいませんよ。ただ、少し昔のことを思い出すと無性に腹が立ってきて、いつもの癖がでてしまっていたようです」




「そ、それならそうと早く言って下さいよ……」



少し乱れた呼吸を整えながらゼロは、胸に手を当て一安心したのも束の間、信じられない言葉がゼロに飛び込んできた。



「何せ私は、その一位の方にこっぴどく虐められてましたからね」



「はい?」



ゼロは当然の如く己の耳を疑い、吃りながら今何て言ったのかと聞き直したところ、やはり先程と全く同じ言葉が返ってきた。



ーーゼロの中の大男が姿を変える。ゴツゴツとして人相が悪くなり、あのライニッツを虐めるとは最早人間でない可能性がある。角が生え、手には金棒を持つ。イメージ図が完成したとき、無意識のうちに言葉が零れた。



「鬼……」



「フフッ。確かに鬼かもしれませんね。ーー彼女は」



「半分……?」





「ーーーー彼女?」



「あっ、言ってませんでしたか? 女性ですよ。私の年代で、他を一切寄せ付けない圧倒的な実力を誇っていたのは」



とうとうゼロの体は口を小さく開けたままフリーズしてしまった。



頭の中で思い描いていた巨大な鬼は、花びらが舞うかのように儚く散っていくのをまるで、実際に目の前で見ているかのように目をパチクリさせる。



「……師匠、その女性と言うのは本当に師匠より強いのですか?」



「えぇ、強いです。彼女は特別な血を引いているというのもありますが、その実力と才能は本物でした。一位、二位と言っても、私と彼女の間には埋めようのない深い溝がありましたからね。……正直今闘っても二、三分で殺されてしまいますよ」   


どこか引きつった表情で話すライニッツを見て、ゼロは自分の視野の狭さに気づいた。



「そんな人がいたなんて……じゃあ僕なんか……」



その先の言葉が、喉につっかえて出てこなかった。これだけ自分のことを評価し、認めてくれた手前、首席なんか取れる気がしないなど、口が裂けても言えない。



ゼロが俯いていると、その柔らかな髪を撫でるようにしてポンと手が置かれた。



「師匠……?」



ライニッツはゼロの心中を悟ったのか、一瞬の悲哀を見せたがすぐに目元が綻び、ゼロの顔を上から覗き込むと優しく言った。



「大丈夫、あなたは何も心配する必要はありませんよ。さっきも言ったとおり彼女は少し特別なのです。今年はあのような怪物はまず入学してきません。ーーそれに……、今のあなたと、私が初めて彼女を見たとき……、今のあなたの方がより大きな才能を感じさせますよ」



例えこの言葉がライニッツの本音であっても、ゼロに自信をつけさせる為の建て前であったとしても、彼の神経を奮い立たせるには充分すぎた。



ゼロは目にうっすらと涙を滲ませながら、小さく頷き、自分自身に強く誓った。



ーーライニッツでさえ成し遂げられなかった首席を自分がとる。 

それが今の自分の出来る、ここまで何不自由なく育ててくれたライニッツへの恩返しだ。





ーーそれから約半年後、この目標が見事に達せられるということをこの時のゼロは、知る由もなかった。

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