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ヘブンズ・ゲート  作者: 西木宗
【闇属性狩り編】
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ディラン・ラーシュ

ーーディラン・ラーシュ



彼は世界でも屈指の、雷属性の蒼術を得意とする、ラーシュ家現七代目当主、ハダル・ラーシュの長男として、一五年前に生まれたその日から、次期八代目当主になることが定められていた。



その中でもディランは、十年に一人の天才と言われ、歴代のラーシュ家の当主と比較しても、その才能は頭一つ分飛び出していた。



ディランの物心がついた時には既に、ディランは簡単な電気、と言っても、線香花火より少し大きい程度だがーーは、自分の意志で出すことができた。



蒼術に関して何の知識も得ていない人にとっては、そんな弱々しい電気を発生させたぐらいで何がどう凄いのかと、疑問に思う人が多いだろう。



ディランが使った蒼術は、俗に言う〈基本技〉と呼ばれる類のものであると同時に、ヘブンズ・クラムで習う、最初の技だった。



ーー〈基本技〉とは、己の属性に見合った物質、あるいは物体を頭の中でイメージを思い浮かべながら、掌から出現させる。



という、蒼術を極めるに中ってのベースとなる修業法の一部とされることが多い。



センスのある者はすぐにできるのだが、ディランはセンスがあるないの問題ではなかった。




本来一五歳になってから習う技を僅か三歳のちびっ子が何の教えもなしに自らの手で会得してしまったのだ。



その様子を目にした父親のハダルは、その才能に驚愕を覚え、それ以上に将来自分の息子がどのような大人に成長していくのか、全く想像がつかなかった。



ーーそれから約十年間、本格的に蒼術の修業を行ってきたディランは、独自の〈オリジナル〉と称される技もいくつか編みだし、実力だけで言えば、今はまだ到底適わないが、ハダルがディランと同じ年の頃よりも遥かに凌駕していた。



そもそも、この学園で学ぶべき事柄を全て教え込まれていたディランには、わざわざ貴重な三年間を学園内で過ごす必要性は、全くもってなかった。



だがディランは、今こうして学園のベンチに生徒として、何の抵抗もなしに座っている。



彼は、生まれつき持っていた天才肌のせいで、自信の才能に怠けて面倒くさい稽古は手を抜くーー何てことも少なくはなかった。




最初のうちは父親も目を瞑っていたが、年が経つにつれてそれが徐々に酷くなっていきーー



ある日、とうとう家を抜け出して、三日間帰ってこないという事件が起きてしまう。



当のディランは、バックレる意識は多少あったものの、気分転換がてらに近くの森の中を散歩していたら、そのまま迷子になってしまって、道の荒野にたどり着いてしまい、家へ帰ろうにも帰れなかっただけなのだが……



そんな言い訳、通用するはずがなかった。



すっかり泥が服に染み込んで、髪の毛はボサボサ。この三日間、ろくな食べ物にもありつけていなかった。



我が子を猛獣の檻にも全く引けを取らない、太い鉄パイプが何本も連なっている鋼の門の前で、鬼の形相で睨んでいる父親の姿がディランの目に留まった。



『ディラン、着替え終わったらすぐに部屋に来い』



それだけ言うと、ディランの返事を聞く前にそそくさと玄関へと戻っていった。



頭の中にぽっかりと穴が開いた。



帰ってくる途中、どうやって言い逃れようか必死で頭を動かしていたことさえも忘れてしまうほどに。



普段滅多に怒らない父親の本当の姿を見た、ディランの背筋が凍りつく。



ーーあれは、……殺気だ。



いつもなら、ここで屁理屈をあれこれ述べるところだが、恐怖で顎がガタガタ震え、口を開けることができなかったのだ。



風呂場で服を脱いでいるときも、シャワーを浴びているときも、自分の部屋でズボンを穿いているときも、ディランは父親の自分の息子に対する殺意の籠もった顔が、頭の中から片時も離れることはなかった。



そして思い出す度に、思わず身震いしてしまいそうになるほど、鳥肌が立ち、これから起こり得ることの想像が一切出来ず、それが精神的にもディランにダメージを与えていった。







***



「……ン」



「ディランってば……!」



ゼロに体を大きく揺すられ、ディランの肩がピクッと震え上がる。



ディランは体勢を変えず、目だけを横にやると、ゼロは慌てふためいて何かを伝えようとしていた。



「何だよ急に……」



嫌なことを思い出したからか、本人には自覚がないが、少々ディランの機嫌が悪くなっていた。



「何だよって、さっきから何回も呼んでるのに全然反応しなかったのはそっちじゃないか!」



「あ……あぁ、それはスマンな。ちょっと考え事してた」



自分が感傷に浸っていたことに気づいたディランは、頭を掻きながら謝ったが、どうしたことかゼロの表情は変わらなかった。



「さっきから一体どうし……うぶっ……!」



ゼロは無理矢理手でディランの口を塞ぐと、もう片方の人差し指を自分の唇の前に突き立てる。



ーー今度はディランが慌てふためく番だった。



突然のゼロの理解できない行動に、抵抗しようとゼロの手首を掴みかけた時。



聞き慣れた機械の音声が、学園中に備え付けられているスピーカーから流れ出る。



《繰り返し生徒の呼び出しをします。一年のディラン・ラーシュは至急、学長室まで来て下さい》



腕に溜めていた力が一気に抜け落ち、ディランの両腕はそこだけ切り離されたかのようにブランと地面に垂れ下がる。



「おい、あいつ呼び出されるの今日で二回目だぜ」

「マジかよ」

「俺なんて入学してから一度もないのに」

「いや、それが普通だろ」



道を行く人々が通りすがりに、必死に笑いを堪えながら次々と容赦ない言葉を投げかけてくる。



ーー何だよ、言いたい放題言いやがって。こっちだって呼ばれたくて呼ばれてるんじゃねえんだよ。



心の中では、そう怒り叫んでいるが、外から見たディランは全く別人だった。



日差しは強いけど、陰の中いて涼しいはずが、額はじんまりと汗ばんでおり、三歳のちびっ子にすらバカにされるであろうくらいの、弱々しい声を出した。



「何か……、繰り返しとか言ってたケド、コレ何回目……?」



「……三回目」



「えっ、嘘だろ……。どうしてもっと早く言ってくれなかったんだよ!! しかもよりによって学長室かよ。俺何も悪いことした覚えないんだけど!」



ディランは勢いよく立ち上がると、最後に顔を真っ青にしながら、「これはヤバいぞ」と、小さく呟き、よれよれになりながら校舎の中へと走り去っていった。

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