プロローグ
第二章スタートです。
風のない夜の世界。
目の前にはヘブンズ・ゲートーーならぬ、埋まった岩が剥き出しになっていて今にも崩れそうな崖。
頂上付近から落下してきたと思われる石粒の音が、その高さと広大さを物語っている。
「ふーっ」
息を大きく吸い込んで、ゆっくりと吐く。
集中力を最高点にまで高めるための一つの儀式を終え、指を大きく広げた右手を前に差し出した。
スパークーー
瞬間的に黄金の光が闇夜に混じって煌めいた。
全身からの放電によって空気中に目に見えるものとして現れた電気は、突き出した腕に絡みつくようにひて収縮されていく。
もしこのまま電気が崖と衝突するようなことがあれば、間違いなく壮大な崖崩れによって逃げる間もなく生き埋めの道を辿ってしまうだろう。
最悪の場合ーーいや、最悪でなくともこの先の人生に支障をきたしてくると断言できる。
それでも、物怖じすることはなかった。
失敗すると考えているから失敗してしまう。成功するとだけ考えていればいいのだ。
「やるか」
電圧が上昇する。光の強さも増し、自信に満ち溢れたその姿が曝し出される。
肩から指先までかかった電気は更なる収縮を始め、鋭い発電音が鳴り響く。
狙いはもちろんこの崖である。
「砕け散れ」
電気の塊が解き放たれる。反動で上半身が仰け反り返りそうになるが、足で持ちこたえて行く先を見届ける。
それは一瞬のことだった。
何の障害も受けずに崖まで到達した電気の塊は、崖の中心部に大きな穴を抉って貫通し、そのまま蒸発するかのするかの如く拡散した。
外から内部を突き抜けまた外に出るまでおよそ0.4秒。大体20メートル近い厚さがあったということか。
「威力とスピードはほとんど問題ないな。あとは技を放つまでの時間と消費体力を減らすことさえできれば……」
いくら強力であろうとたかだか一発で汗だくになって膝に手をついているようでは、実戦の役に立たない。
それは本人が一番理解していることだ。
まだ届かない。
あの場所までは。
だがもう少しだった。
全てを失って新たなものを手に入れてから一週間。
早くも確かな手応えを感じいた。
「……今日はこれぐらいにしてそろそろ帰るか」
この程度で満足してはいけない。
勝負とは、勝利することが分かっているからこそおもしろいのだ。
たった一度きりのチャンス。
その一勝を確実に自分のものとするためなら手段は選ばない。
例え、どんな手を使おうともーー
「やあ、調子はどうだい」
そして一週間振りに彼が、姿を現した。




