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ヘブンズ・ゲート  作者: 西木宗
【闇属性狩り編】
18/68

疑念


光が収まったのと同時にユーリッドが物珍しそうに呟いた直後、すぐ後ろからそれに対する答えが返ってきた。



「そうですよ、あなた達とは真逆ですね」




ユーリッドの身体が金縛りにあったかのようにフリーズする。ライニッツはただ単にユーリッドの背後に移動しただけだ。あまりにも一瞬の出来事に、ユーリッドの脳と身体がついていけなかったのである。



最初あった二人の距離はおよそ十メートル。現在はそれの百分の一以下。



「人間の限界を超えているぞ……」



ここにきて初めて、ユーリッドの首筋に恐怖による冷や汗が流れた。





けれども、ユーリッドはライニッツに背中を見せながらも、内心では少しだけ安心していた。



今もそうだが、殺そうと思えばいくらでも殺せていた。なのにしなかった。少なくとも戦闘狂とはかけ離れた心の持ち主。



それでもユーリッドはライニッツの一動作だけで力の差を理解し、目的をこいつをどうやって倒そうから、どうやって見逃してもらおうかに切り替え、恐る恐る振り返ったところ……。



「てめえ! ちょっとユーリッドの後ろ取ったからって調子に乗ってんじゃねえぞ!」



「馬鹿、よせ!」



珍しくユーリッドが残念な相棒に向かって声を張り上げた。  


しかし届いていなかったのか、コフは闇のオーラで硬化させた拳を振り上げながらライニッツめがけて突進してくる。



そしてユーリッドが瞬きををするとそこには、いたはずのライニッツの姿はなくなっていた。



「やれやれ、別に私は調子になど乗っていませんよ」



「う……嘘だろ」



コフは後ろから捕まれた自分の右腕を見ながら声を震わした。いつの間にか硬化したはずの腕も元通りになっている。



「今のどうやったんだ……。瞬間移動をしたとしか思えねえぞ……」



「瞬間移動なんてそんな卑怯な技が存在するなら、こっちが教えてほしいぐらいですよ。私のはただの…………光速移動ですから」





ーー己の身体を電子と化し、自由自在に光の如く光速で移動する光属性特有の技、【光速移動】。この技をコントロールし、扱える者は片手の指に満たないと言われている。



【光速移動】という単語を耳元で発せられたコフは、ようやく自分達の置かれている立場を知った。



目線でユーリッドに助けを求めるが、ユーリッドはどうしようもないといった素振りを見せる。



「くそっ、てめえ何者だよ!? こんな強いやつがいるとか何も聞いてねえぞ!」



「聞いてない……? それは誰からですか?」



ライニッツはしばしの間コフを見つめた後、次にユーリッドに視線を移す。二人とも何かを言おうとしているのは感じ取れるが、なかなか声には出さない。



「何も喋る気はありませんか。なら無理にでも……」



ライニッツは途中で言葉を切ると、一度口を閉じ、少し首の向きを変えた。それに生じてコフが手を引っこ抜こうとするが力は緩めず、むしろ強まったかもしれない。瞬間コフが、「痛え!」と悲鳴をあげたのがよい証拠だ。



何もない夕闇の奥を数秒間見続けた後、閉じた口を再び開いた。



「……どうやら、あなた達にも助っ人が来たようですね」





「何!?」



いち早く反応し、身体ごとガバッとライニッツの視線の先に向けたのはユーリッド。少し遅れてコフも「レイミンか……?」と小さく首を傾げる。



コフもユーリッドも心当たりがあるようなないような、といった具合だ。



ーーだが確かに、誰かがやって来たという事に誤りは含まれていなかった。



地面に伸びる人の形をした黒い影が少しずつ大きさを増していき、



ーー本体が姿を現した。



「全然帰ってこないから心配して見に来てみると……二人ともとんでもない化け物をおびき寄せたもんだね」




無地の黒いズボンのポケットに両腕を突っ込み、しわくちゃのTシャツの上にはチャックを全開にしたフード付きの白いパーカー。



顔つきにはこれといった特徴はなく、ただきれいに整っているとしか言えない。目までかかった前髪が彼の唯一の象徴と言うべきか……。



年は二十歳前後といったところ。その男は、硬直しているユーリッド、そして身動きがとれないコフを見ると、顔に手を当ていきなり笑い出した。



「アハハハハハ! なるほどね。見た感じだともう既にいろいろと酷い目に遭わされたあとなのかな? その割には大した外傷は見受けられないけど」



終始身の毛がよだつような甲高い笑い声だけが響き渡っていたが、それに割り込むようにしてライニッツが鋭い視線と共に訊ねかけた。



「誰ですか、あなたは……?」



「僕かい? ……そうか、あなたは僕のことを知らないのか。じゃあそうだね……助っ人Aとでも呼んでちょうだい」



「……ふざけているのですか」



「いいや、僕は真面目だよ。だって僕は別にあなたと馴れ合いにきたわけではないし。少し用があって来ただけさ」


「用とは?」



「そこの二人をアジトに呼び戻しに来た。だからコフを解放して」



「彼らは私の大切な人たちを傷つけました。それ相応の痛みを与えなければいけません」





自らを助っ人Aとあほらしく名乗った男は、自分の前方少しいったところで倒れ込んでいるメリーと、そのすぐ後ろでお互い膝を着きながらも支え合って辛うじで意識を保っているディランとゼロを眺めた。




ーーそして次の瞬間、紺碧の炎が全員の視界を覆い尽くす。



【蒼炎】



ぶわあ、と燃え広がった炎はすぐに、音も立てずに消えたーー



「……これを素手で払いのけるのか。やっぱさすがだね」



男が肩を竦めながら、メリーの前に立つライニッツを素直に褒め称える。



「完全に殺す気でしたね……」



「当たり前だよ。そうでもしないとコフを放さないでしょ? ということで無事に戻って来たことだし僕たちはそろそろ帰るね」



再び蒼い炎が逆巻く。男の周りに集まったユーリッドとコフ。太い渦状に変形した炎が三人を取り囲んだ。



「待ちなさいーー!」



ライニッツが光速移動を使って炎の中に飛び込んだときには炎は消え、三人の姿は跡形もなく残されていなかった。



結局逃がす羽目になってしまったのだが、ライニッツはそれ以上に引っかかる物があった。



ーーあの技……。



「まさかね……」



記憶の片隅で蘇りかけたある映像を振り払いながらライニッツはディラン達三人に近づいた。



「話したいことはたくさんあると思いますが、まずはその怪我を何とかしましょう。と言っても恐らく今の学園にこれだけの傷を治療できる者はいないと思います。少し時間はかかりますが、私なら完全に治せます」



一度にいろんなことを言われ二人の頭が混乱している間に、ライニッツはメリーを抱き抱えて自分の右肩に乗せた。



次にゼロを左肩に乗せると、間髪をいれずゼロの上にディランを乗せる。



「うっ……」


「ぐはっ」



「恐らく数分で着くはずです。できれば目を閉じていくことをお勧めします」



ライニッツは両肩に乗っかっている背中に手を回してしっかりと固定した。



【光速移動】


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