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ヘブンズ・ゲート  作者: 西木宗
【闇属性狩り編】
16/68

力の差



「……ないな」



「そこの女は?」



「あたしもない」



淀んだ空気が流れる。



ディランは視線を多方向に動かし、手に大量の汗を握り、メリーは自分の胃が痛くなるのを感じた。



ーーそれって完全に……。


ーーゼロのことよね……。



闇属性で強い男と言えば、二人の頭には特定の人物しかでてこなかった。



しかもそれがほぼ百パーセント相手の捜している人物だと確信する。



ボロが出るのは時間の問題だ。



「オイオイ嘘つくなよ。絶対知ってるだろ。無事にここから帰りたいんだったら正直に話せって」



「お前は黙ってろコフ。……ならば質問を変えよう。今のヘブンズ・クラムで闇の五神帥は誰だ。まさかこれも知らないとか言うんじゃないだろうな」



「知ってどうすんだ……?」



「お前には関係のないことだ。……さあ、さっさと答えろ」



ユーリッドのローブは空気が入ったように膨らみ出すと、中から黒い煙が溢れ出てきた。



答えなければ即座に攻撃すると言わんばかりにーー本人の目つきもやや鋭くなる。



「よく分からんけど、こりゃもう腹をくくるしかねえな……。メリー、俺が奴らを抑えておくからお前は何も考えずに前に突っ走ってくれ。頃合いを見て俺もすぐにいくから」



「……無茶よ! あのコフってのだけならまだしも、あいつはヤバい。実力もそうだけど、人を殺すということに全く躊躇いを感じていないわ」



メリーが首をぶんぶん横に振るが全く応じようともせず、



「それでもここで二人一緒にくたばるより、片方が囮になる方がよっぽどマシだ。それか、ゼロの名前を出すか……?」



一度言ったら自分の考えを曲げない、ディランはそういう男だ。最初の襲撃でもしかしたらこうなるかもしれないと、メリーは心のどこかで薄々予感はしていた。



確かに、ここでゼロのことを言えば見逃してくれるかもしれない。でも最初からそんな選択肢はない。



例えどんな場面であれ、自分の仲間と呼ぶに相応しいかどうかは分からないが、同じ五神帥であり、クラスメイトを売るような真似だけは絶対にしないという強い信念が、メリーにはあった。





それにディランの言うことも一理ある。二人で一斉に逃げ出すより、まずディランに足止めをしてもらう。ディランのスピードを持ってすれば恐らく敵は追いつくことができないだろう。



ディランも、メリーのその心を見込んでの最後の発言だった。



そしてメリーは、前後の敵を交互に見やって、闘わずしてこの場をやり過ごすことを完全に諦めた。



身体を取り巻く闇のオーラ。邪悪な狂気に森全体が悲鳴を上げている。



そんな中、ディランの目はこれっぽちも生気を失っていなかった。肉食獣のような好戦的な眼差しで堂々と前に進み出て、



「名前が知りたいんだっけ? そんなに知りたかったら教えてやるよ。但し……、俺を倒したらなーー!」



雷の繋縛エレクトロ・バインズ



ユーリッドとの間合いを一気に詰めたディランが合図をかける。



「今だメリー!」



ディランの脇を通り越し、メリーは最後に言った。



声には出さず。心の中で。



ーーディラン、信じてるから。




「そう簡単に逃がすわけがないだろう。…………何だこれは、手足が痺れて……」



メリーを追おうとしたが、指先を震わせることしかできないユーリッドを見てディランは得意げに声をあげる。



「ハッ、俺が今放出している電気は相手に傷を負わせるほどの威力はなく、俺自身も身体を動かせないが代わりにこうやってありとあらゆる物質、物体の動きを例外なく止めることができんだよ!」 



「なるほど、それは大した技だ。だが……」



自身が身動きできないにも関わらず、余裕の表情を崩さないユーリッドの目の奥が光った。



「オレがいるってことを忘れるなよ!」



黒の乱銃デスマシンガン



木々の背丈を追い越す高さまで飛び上がったコフが、右手を前に突き出した。



メリーの背中に狙いを定め、指から次々に黒い弾丸が発砲される。



「まずは一人目。次は貴様の番だ」



「……それはどうかな?」



「何?」




微かに眉をひそめたユーリッド。ディランとユーリッドを取り巻く電気が激しい土煙と同時に広範囲に広がる。



メリーとコフの間に巨大な電気の壁がそびえ立った。



【黒の乱銃】はディランの電気に吸い込まれるように向かっていき、その全てが空中で静止する。



まるで電気の糸でできた蜘蛛のすに絡みつくようにーー



それでも銃弾を撃ち続けるコフに無駄だと鼻で笑う。



「ハアッ、ハア、この電気は俺を中心として半径十メートル以内なら自由に狭めたり広げたりできんだよ。……残念だったな」



ここまで長時間【雷の繋縛】を出したのは初めてである。



多少無茶をしてしまい徐々に息があがってきたディランに、追い打ちをかけるが如くユーリッドは口元を綻ばせながら、ディランが最も恐れていた行動に出た。



「……確かにその技は凄い。しかし電気を分散するということは、それが広範囲になればなるほど──その威力は低下する。違うか?」



ーーこいつーーーー!



と、身体が怯んだ一瞬の隙をユーリッドは見逃さなかった。



ディランが一旦距離をとろうとバックステップをしようと思ったときには既に、目の前にユーリッドの姿はなかった。



ーー視界が闇に塗りつぶされる。



「たった数分だったが、実力はよく分かった。お前ぐらいの奴なら…………死にはしないだろう」




闇音波ダークノイズ




ユーリッドが右手をディランの右手にかざすと同時に、何重もの衝撃波が連続してディランを襲った。



「うっ、ぐっ、ぐはっ……!」



綿毛のように飛んでいった身体は何度か叩きつけられた後、地面に強く引きずられた形跡を残してようやく止まった。



攻撃される直前、全ての電気を自分の目の前に集約させて何とか致命傷は免れた。



あと0.1秒でも防御が遅れていたら死んでいた──ディランは片膝を立てながら口に溜まった血を吐き捨てた。



「くそっ……、一撃でこの様かよ……」


  

「驚いたな。意識があるどころか、まだ動けるのか。と言ってもその様子だと立つのも困難だろう」



ユーリッドの言う通りだった。



目の前の空間全てがねじ曲げられたように見え、立ち上がろうとするも、腰が重くて手をつきっぱなしの状態だ。普段自分がどういう風にして立ったり座ったりしているのかが分からない……。



段々と意識も朦朧としていく中、耳に轟く爆発音がディランの脳を覚醒させた。



「め……メリー……!」





自分でもびっくりするぐらいの音のない息だけの叫び。



ディランがこうしてやられているということは、メリーを守っていた【雷の繋縛】はとうの昔に消滅している。



全ては驕りが原因。調子に乗って一人で格上の相手二人に挑むなど、やはり最初から結果は見えていたのだ。



ディランは今こうして頭から血を垂れ流して膝をついているより、自分を信じて背中を預けてもらったメリーを逃がしきれなかったことに対しての、悔しさと腹だたしさの方が心を痛めた。



動かそうとしても、身体はビクともしない。一刻も早くメリーの元に行かなければならないというのに、まるで身体自身がそれを拒んでいるかのように。



ディランが必死に歯を食いしばってもがいている間に、地面を擦り付けるような足音が近づいてきた。



「よおユーリッド。こっちは終わったぜ。多分そこら辺で寝転がってるはずだ」



伸びをしながらまるで他人事のようにそう言って、ユーリッドの隣で足を止めたコフ。



「オレら成り行きでこいつらに攻撃しちまったけどこの後どうすんだ?」



「とりあえず一度アジトに連れ帰り、闇の五神帥について吐かせる」



「じゃあ最初からそう言ってくれよ。置いてきちまったじゃねーか。てか五神帥って言っても言うほど強くはなかったな。前に殺った元闇の五神帥よりかは少しだけ手応えはあったけど」



「多分……こいつらはまだ一年だ。これから伸びていくタイプだろう。それに相手が‘例の二人’だったら今頃俺達が逆の立場になっている可能性もなくはない」



最後にやや険しい表情を見せたユーリッドは、コフに女を「連れてこい」と言うと、ディランに詰めより腰を落とした。



「さて、最後にもう一度だけ訊こう。今の闇の五神帥は、誰だ?」



「あの二人のことは知ってんのにそれは知らないのかよ」



「注意すべき人物として聞いているのはその二人だけだからな。それより質問に答えろ」



「……」



ディランはバカにするような仕草を見せると、口を開かず、俯いて顔を向けようともしなくなった。



それが癪に障ったのか、ユーリッドはディランの金色の髪を乱暴に持ち上げてむりやり自分と目線を合わせると、



「てっ、てめえっ! どうしてこんなとこにいるんだよっ!?」



メリーを探しに行ったはずのコフがあり得ないといった表情で、腕を震わせ道の奥を指さしていた。



コフの声にユーリッドは舌打ちをすると掴んでいた手を離し立ち上がった。



「おいコフ、どういうことだ」



「……こっちが訊きてえよ。確かにちゃんと手応えはあった。傷を負っているならともかく、無傷だと……!?」



ポニーテールが特徴なので、すぐに分かった。そこにいるのは紛れもなくメリー。



「あんなへなちょこな技であたしを傷つけられるわけないでしょ」



メリーは素っ気なく言い返すと、その後ろで苦しそうに額にできた傷口を押さえているディランを目にする。



「ディラン……!」



その悲鳴にも似た叫びにディランの身体がピクリと反応した。



「メリー……、どうして、戻ってきたんだよ…………」



「そいつの言う通りだぞ女。貴様コフの技を防ぐためにさっきの水の防御技を連発しただろ。見れば分かる。恐らくもうろくの技も使えないはずだ。せっかくこいつが身を挺して時間を稼いでくれたというのにのこのこと戻ってくるとは。今度はお前が一人で闘う気か?」



ユーリッドは手を横に払い、ローブをたなびかせると右手に黒い光が灯る。



左足を後ろに引き、右手の標準をメリーに合わせた。



「退がれコフ」





その光景を見てこれを喰らったらマズいと思いながらも尚、メリーは一歩も退かず両手を重ねて前に突き出す。



「別にあたしはあんたたちと闘う気なんてこれっぽちもないわ。ただ……その、な、仲間を見捨てて一人だけ逃げる自分が許せないだけよ!」



そう言ってありったけの水を出現させる。盾を作ろうとするメリーだが、なかなか上手く形が整わない。



本人は自覚していないが、ユーリッドの闇のオーラに完全に呑まれて、恐怖で全身が震え上がっているのだ。



「……させる、かよ……。うっ……ぐっ……くらえーー!」



ディランは最後の力を振り絞ってユーリッドを目掛け、微弱な電撃破を放った。ダメージはほんの少ししか与えられないが、それでも当てればメリーが避けるのに十分な時間にはなる。



ユーリッドは丸腰の背中をディランに向けており、意識も完全にこちらから外している。



ーーもらった!





ーーが、それを踏みにじる者。





「おっと、危ねえ危ねえ。お前まだそんなことできたのかよ」



ユーリッドに届く直前、コフの闇の煙の前に呆気なく相殺されてしまう。



ディランの瞳に絶望という名の闇が映し出された。



ーー万事休すーーーー



闇音波ダークノイズ



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