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ヘブンズ・ゲート  作者: 西木宗
【闇属性狩り編】
12/68

学長室③


***


百年前にエントフェンリルが作り出したヘブンズ・ゲートが今も尚、その効力が衰えることなく持続しているのにはちゃんとした理由があった。



元来蒼術というのは、術者の体力を具現化させたようなもので、ディランの【雷鎧】やメリーの【水縄】といった技も、蒼術同士の衝突で破られる以外に技の‘制限時間’が存在するのだ。



術者の体力が尽きれば勿論その技も自動的で消える。強力な技であればあるほど消費する体力は多いし、逆に威力の弱い技なら身体には殆ど負担はかからない。



だがヘブンズ・ゲートは、存在する技の中で恐らく最も強力な技だと言われている。 



特定の条件を持った人物を排斥するという絶対領域を作り出したエントは、今はもうこの世にはいない。



──エントは存在しないが、エントと同じ血を引く者なら存在する。



エントは晩年、ヘブンズ・ゲートを永遠のものとするため、ある細工を施した。



自分と同じ血を体内に流す者がヘブンズ・ゲート内にいる限り、消えることはないーーと。



その事を当時の息子に言い残し、エントは息を引き取る。  


最初はいくら何でもそんなことできるはずがないと、エントの言葉を真に受けていなかった息子は、エント亡き後も消える兆しが全くないヘブンズ・ゲートを見たときは腰を抜かしたという記録も残っている。



それもあってか歴代フェンリル家の当主、エフリーナも含め誰一人としてヘブンズ・ゲートの外には出ていない。



全ては平和のためにーー



それが、彼ら彼女のフェンリル家に生まれたときからの運命である。  



***


「別にメリーは外に出ても大丈夫なの……ですか?」



馴れてない敬語を無理に使おうとしているのがバレバレである。ようやく立ち上がったディランが、頃合いを見て口を挟んだ。



「その心配は無用だ。これは当主である私自身が外に出ない限り何の影響もない。ーー時間がないからそろそろ具体的に説明するぞ」



そう言ってエフリーナは机の引き出しを開けて中から一枚八つ折りにされた地図を取り出した。



同時に、「ちょっと待った」とディランが静かに呟いた。



「今度は何よ」



「何で俺がお前と二人で行かないとダメなんだよ」



「その話ならもう終わったわ。無様に寝そべっていてあんたが聞いていなかっただけでしょ」



「ちゃんと聞いてたぞ」



「じゃあ何なのよ」



「五神帥で行くんだろ? じゃあゼロは? あいつも五神帥なのに何で一緒じゃないんだよ?」



決して忘れていたわけではないか、ディランの意表を突く発言にメリーも「あっ……」という声を漏らした。



「……あいつを連れて行くわけにはいかない」



メリーがどうしてか考える時間を得ることなく、エフリーナが地図を広げながら答えた。



「だから何で……」



「ディラン、それは貴様が一番分かっているのではないのか?」



エフリーナの真っ直ぐな冷たい視線に頭を冷やされたのか、ディランはすぐに真実に辿り着く。



「闇属性、だから……か」



「あっ……そういえばそうだったわね。普段蒼術を使っているところなんて滅多に見ないから、すっかり忘れていたわ……」



さっきとは違って納得の意味合いを示すメリーの驚嘆。



「敵は今のところ、闇属性の人間しか殺していない。確かにゼロは強い。私もあれほど完璧な才能を持った奴を見たのは初めて……かもしれない」



「だったら!」



やや語尾が口ごもり、直後に自ら少しかぶりを振ったエフリーナだったが、それを気にすることなくディランが声をあげた。



「……さっきメリーが話したことを聞いていただろう? 奴らは既にうちの卒業生を二人殺していると。あの二人の実力は今の貴様らと同等か少し劣る程度、それでも何の手がかりも残さないまま殺られるようなやわな者ではなかった。だが、殺られた。それが別々のみならず、ーー二人同時にだ」




エフリーナはゼロに危険な目を合わせたくない。それはディランもよく理解している。



それでも尚、何かを言いたそうに震えているディランの腕のブレザーの袖をメリーがぎゅっと握った。



その柔らかい感触に一瞬ドキッとしてしまったディランは、同じくメリーの手も震えていることに気づいた。



こういう時の対処法は、残念ながら今のディランには備わっていない。ただメリーの顔を横から見つめることしかできなかった。



メリーの目には、恐怖が映っていた。



「お母様の話を聞いて今思い出したんだけどさ。確か殺された二人のうちの一人は、元闇の五神帥だった人だわ。それもあたしたちと同じ一年生からの。そんな人でもやられちゃうんだから、ゼロを連れて行くことにはあたしも反対するわ。どうせあんたのことだから三人がかりで挑めば何とかなるって思ってるんでしょうけど…………」 



「それでも無理だな……」



認めたくない事実を言いづらそうにしていたメリーの代わりに続きを口にするエフリーナ。



「敵がもし一人だけなら勝機はあるだろう。だがこれまでの事が全て、単独で行われてきたとは到底思えない。少なくとも敵は二人以上いると考えていいだろう。そうなれば、貴様らが勝つ可能性は消滅だ。だから貴様らには二人だけで闘わずに、敵の人数と外見の特徴を調査してきてほしいのだ。それを元に討伐隊を組織する」



ここまでハッキリと言われては反論の余地もない。ディラン若干不満そうに唇を尖らせていたが、エフリーナが「これは貴様らにしかできない仕事だ」と付け足したのが効いたのか、渋々了承した。



その傍らで目を光らせにっこりと微笑むメリー。



彼女がディランに笑顔を見せた後にいい思いでがディランにはないのだが、なぜかこの時はディランは心の葛藤か吹き飛んだような気がした。



ーーそして地図を机の上に広げ終えたエフリーナがその中央を指さして説明を始める。



「この円がヘブンズ・ゲートだ。まずは西に出て翠玉の森に向かってもらいたい。一番最近の事件があった場所だ。まだ手がかりが残っているかもしれないからな。……万が一、何の手がかりもなかった場合は…………」

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