第一章:次の首領を決める戦い
首領が戦死した。そうなれば次に首領になるのは誰か? 当然、副首領の俺だ。
めんどくせぇ!
副首領なら名誉が与えられているが責任のないお気楽な立場でいられたが、首領になるとそうはいかない。ヴァイキングたちを指揮し、導いていかなければならない。そのうえ、少しでも臆病風を吹かせれば、リーダーに相応しくないと、部下に殺されてしまうかもしれないのだ。
何とか首領の座に就くのを避けるべく、村の中央にある広場へと訪れていた。俺の前には村中の人間が集まり、この村の行く末を息を呑んで見守っている。
「皆、すでに聞いているかもしれないが、首領様がお隠れになられた。そこで次の首領を決めなければならない」
隣に立つ老人が村人たちに向けて説明する。この老人は北欧の神々の声を聴く司祭である。司祭は神の声を地上の民に届ける役目と、首領不在時の裁判長のような役目を担っていた。新しく首領を決めるとなれば、司祭が村人たちを取り仕切るのだ。
「では村の衆、次の首領に相応しいと思う者がおるか?」
「当然、副首領様だ!」「副首領様こそ首領に相応しい!」「副首領が首領になるべきだ!」
意に反して、村人の大半が俺を首領にすべきだと声をあげる。こうなることは予想していた。俺は将来のことを考え、村の人たちにタダ飯をご馳走したり、金を多めに払ったりしていたのだ。自分に良くしてくれた人間を首領にしたいと考えるのは自然な考えだ。
「完全に裏目ったな……」
だが自分から首領の座に就くのが嫌だとは言えない。もしそんなことをすれば、村人たちの期待を裏切ることになり、最悪副首領の立場を剥奪されるかもしれない。
「村の衆の意志は分かった。ならば副首領様を首領に――」
「ちょっと待った!」
待ちに待った声があがる。俺以外の首領立候補者が現れたのだ。
「お主は……」
「私を忘れてもらっちゃ困るぜ。首領の血を引く私こそ、次の首領に相応しい」
現れたのは一人の少女だった。燃えるような赤髪と、ヴァイキングの女戦士らしい鎖帷子の上からローブを羽織った格好、そして手には丸盾と手斧を携えている。
「村の衆は副首領様こそ次のリーダーに相応しいと言っておる」
「その村の衆には私は含まれていない」
「どうしてそこまで否定する」
「ウルズの使者だか何だか知らないが、こんな弱そうな奴が首領になるのが許せないんだ」
俺もヴァイキングの親玉になるなんて御免だし、互いの利益は一致している。ここは潔く引いてやるか。
「よし。それなら俺は首領の座を――」
「賭けて私と殺し合うって云うんだな。いいぜ。ヴァルハラへ送ってやる!」
「え?」
何を言っているんだ、この娘は?
「村の衆もこの話に異論はないか?」
誰からも否定の言葉は発せられない。それどころか「殺し合え~」と、囃し立てるよな声が大きくなっていく。もうやだ、この戦闘民族たち。
「ではオーディンの名の元に首領の娘リディアと副首領様による決闘を行う」
事態はとんでもない方向へと進んでいくのだった。