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プロローグ:触れたものをコーラとポテチに変える能力

新作になります。読んでいただけると嬉しいです

プロローグ:触れたものをコーラとポテチに変える能力



 歴史小説には、史実の歴史をそのまま描いたモノや、もし歴史がこうだったらという空想を元にした架空戦記など、様々なジャンルが存在する。


 そんな数ある歴史小説の中でも、俺が好んで読むのが、現代人がタイムスリップすることで歴史を変える歴史改変小説だ。


 そんな俺だからこそ、現在の状況を冷静に分析することができた。


 数分前まで、クラスメイトたちと共に修学旅行先の東京へとバス移動していた。バスの車窓から覗かせる近代的なビル群に、田舎者の俺は興奮したことを覚えている。


 だがバスのブレーキは突然効かなくなり、交通事故に遭ってしまう。クラスメイトたちと仲良く死んだと思ったら、真っ白な空間で、眼前には背中に白い羽の生えた金髪女神。さらにその女神は俺にこう告げた。


「あなたを過去へとタイムスリップさせてあげましょう」


 事故からのタイムスリップと云う絵に描いたようなテンプレネタである。古くは一八世紀の小説から使われているネタだ。一体何番煎じなんだろうな。


「お前は誰なんだ?」

「私はヴァルキリー。あなた方の世界ではワルキューレとも呼ばれています」

「北欧神話の半神のか?」

「ええ。まさしくその通りです」


 ヴァルキリーとは戦死した勇士を天上の宮殿ヴァルハラへと導く存在だ。ヴァルハラには世界各国の勇者が集められ、最終戦争ラグナログの戦いに備え、勇者たちは武勇を磨き続けるのである。


 ヴァルハラは兵士にとっての天国だと云われており、朝から晩まで戦い、夜には宴をして、朝になるとまた戦うという、ゴリラ顔負けの単細胞生活を繰り返すのである。俺なら絶対に耐えられない。


「ま、まさか、俺をヴァルハラに!」

「あはははははっ」


 ヴァルキリーが表情を崩して笑い始める。端正な顔が台無しである。


「え? あなた、ヴァルハラに行けると思っているの? 自分のことを勇者だとでも思っているの?」

「い、いや、そういうわけじゃ」

「あなたみたいな貧弱キモオタクをヴァルハラに連れていこうもんなら、オーディン様に怒られちゃうわ。ヴァルハラが臭くなるってね」

「女神だからって言っていいことと悪いことがあるぞ」


 いくら温厚な俺でも貧弱キモオタクなんて言われたら堪忍袋の緒が切れるぞ。


「ごめんごめん、つい本音が……」

「謝る気がゼロなのは良く分かった」


 この毒舌を見ていると、ヴァルキリーを名乗るこの女が本当に女神なのかどうかすら疑わしく思えてくる。


「さて私のストレス発散は十分できたし、話を戻しましょうか。私は勇者をヴァルハラに連れていくのが役目なの。けれどあなたは貧弱キモオタクだから連れていけない。その代わりタイムスリップさせるとも話したわ。これがどういう意図か分かるかしら?」

「知る訳ないだろ」

「ふぅ~、あなた頭まで貧弱なのね」

「さすがにイラッときたぞ。少し待ってろ。ビシっと答えてやる」

「なら数えるわね。ゴー、ヨン、サン」

「五秒かよ。本当に少しだな」

「で、分かったの?」

「俺を勇者にするためだろ」

「おおよそ正解よ。正確にはあなただけではないけれどね」


 ヴァルキリーは嘆くような表情を浮かべながら、話を続ける。


「私は勇者を集めたいの。けれど平和な現代社会では、勇者が中々現れないわ。そこで事故死した人間を過去の戦乱へと送り込むの。そうすることで勇者へと成長させることができる。云ってしまえば、キモオタのリサイクルね。地球にやさしい。女性に優しい。私の評価にも優しい。皆が幸せるになれるの」

「つまり俺もどこかの戦国時代に送られるわけか」

「ええ。西暦八〇〇年のデンマークにね」

「うげぇ」


 歴史小説を愛読している俺から云わせれば、歴史上最も治安が悪く、最も生きていくのが辛い世界が西暦八〇〇年のデンマークだ。というのも当時のデンマークはヴァイキング全盛期、世はまさに大海賊時代なのである。


「無理無理。生き残れるわけないじゃん」

「あはは、そんなの知っているわ。臆病でチキンなキモオタなんて真っ先に殺されるわ」

「……さすがに言い過ぎだろ」

「あなたの死に様を考えると、十分優しく表現したと思うわよ」


 事故で死んだことは覚えているが、俺には死んだときの記憶がほとんど残っていない。

どんな死に方をしたのか、少し興味があった。


「ちなみにどんな死に様だったんだ?」

「一言で表現するなら惨めね。バスがガードレールにぶつかった時、あなたは衝撃で失禁。しかも漏らしながら、隣の山田さんに抱き着いたのよ。本来なら助かるはずだった山田さんは、あなたに抱き着かれたせいで、衝撃を逃し切れず、あなたと一緒に死亡。本当に可哀想な山田さん。キモオタに抱かれて死ぬなんて、私なら死んでもゴメンだわ」

「……こんな性悪女神が俺の前に送られてきたのも、山田さんを殺めてしまった報いということか」

「やーい、この人殺し」


 すまん、山田さん。俺が隣の席になると知って、泣いていた君を思い出すと、胸が苦しくなるよ。


「つまり貧弱キモオタクのあんたが生き残れないことくらい私にもわかっているわけ。だから能力を一つ授けましょう」

「ゴム人間にでもしてくれるのかよ」

「現実と漫画の区別もつかないなんて、あなた本当にキモオタよね」

「よし、女神を殺す能力をくれ! すぐに使うから! 即使うから!」

「まぁまぁ、落ち着きなさい。あなたにはもっと良い能力をあげるから」


 そう云って、ヴァルキリーは一枚のリストを手渡す。そこには数百近い能力が並んでいた。


「へぇ、視界に入った敵を燃やす能力に、重火器を創り出す能力、他にはドラゴンを召喚する能力まであるのか!」

「どう? 凄いでしょう?」

「こんな能力があるなら、俺でも何とかやっていける」

「そうでしょう、そうでしょう」

「オススメの能力は何かないのか?」

「う~ん、オススメというか、あなたに選択肢はないわよ」

「え?」

「そのリストに書いてある能力は、一つを除いてすべて品切れよ。あなたのクラスメイトたちがみんな持って行ったわ」

「嘘だろ! なぜ俺が最後なんだ!」

「日頃の行いが悪いせいじゃないかしら。あとキモいのも一因かも」

「ひでぇ、それに一つしか残っていないなら、このリストも必要ねえじゃん」

「あなたが他の強力な能力を逃したと知って、悔しがるかと思って」

「ただの嫌がらせじゃねえか!」


 残った一つの能力が残念なら、本当に悔しい思いをするだけに、質の悪い嫌がらせだった。


「で、俺に何の能力をくれるんだ?」

「触れたモノをコーラとポテチに変える能力」

「は?」

「だから触れたモノをコーラとポテチに変えられる能力よ。どう、これで過去に行ってもお腹が空くことはないわよ」

「嘘だろ……」


 凶暴なヴァイキング相手にコーラとポテトチップスでどう戦えというのだ。


「いや、ちょっと待てよ」


 触れたモノをコーラとポテチに変えることができるということは、人に触れさえすれば問答無用で倒せる最強の矛になるということではないか。


「あ、言っておくけど、生物相手には通じないからね。獰猛なヴァイキングもコーラやポテチに変えてしまえるなら楽勝じゃんとか考えていたようなら、残念でした~」

「くそったれぇ!」


 人生ハードモードじゃねえか。悔し涙が流れそうだ。


「過去の世界で頑張って、ヴァイキングを倒すのよ。山田さんを殺したみたいにね」


 ヴァルキリーの「期待しないで待っているわ」という言葉を最後に俺は白い光に包まれていく。西暦八〇〇年のデンマークが俺を待っているのだった。



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