夕食
「天音。鍋焼き出来たぞ」
葉月は台所から後ろを振り返り天音に声をかける。
「ちょっとセーブしますんで、もう少し待って下さい」
後ろの部屋から返事が聞こえる。
六畳の和室では天音がジャージに着替え、床に寝転がり携帯型のゲームをしていた。葉月の中学の時に着ていたものだが、天音が小柄なせいか少し大きいようだ。
「どこまで進んだ?」
「そうですね。七個目のバッチまで手に入れましたよ。もう一つで全て揃います」
「かなり進んでるんだな」
「面白くて、ついついやり込んでしまいました」
「ほどほどにしとけよ。目が悪くなっても知らんからな」
「わかってますよ。葉月さんってお母さんみたいですよね」
セーブを終えた天音がゲームの電源を切り立ち上がる。
「お母さんって……俺、男なんだけどなぁ……まぁいいや。天音、テーブル出しとけよ」
「は~い」
なんか、こういうのっていいなぁと葉月は思う。一人暮らしは楽でいいけど、誰かの声が聞こえるだけで嬉しくなる。それに誰かの為にご飯を作るのは自分の為だけより断然楽しい。
「天音。鍋敷き持って行ってくれ」
「了解しました。」
折り畳み式のテーブルを部屋の真中にセットし終えた天音が敬礼し、トテトテと葉月の所にやって来る。葉月が天音に鍋敷きを渡す。
「はぁ~、良い香りですね」
「天音の分は大盛りにしといたぞ」
「わ、私、そんなに大食いじゃないですよ」
「……でも、俺の二倍くらい食べるだろ」
「それは、育ち盛りだからです」
「へぇ~、育ち盛りねぇ……」
思わず視線が天音の控えめな胸部に向いてしまった。
「……葉月さん……どこを見ているんですかね?」
葉月の視線に気づいた天音が、怪訝そうに訊いてきた。
「いや、別に……」
慌てて視線を逸らした葉月。
「そうですか。それならいいですが……」
「さっ、早く晩飯にするぞ。せっかくの鍋焼きうどんが冷めるぞ」
「ふぅ~、そうですね。ご飯にしましょう。今日は走り回ったのでお腹ペコペコです」
鍋敷きを持って部屋に戻る天音の後ろに葉月はついて行く。
一人用の土鍋を葉月は自分の座る所に置き、天音の前には大きめの土鍋を置いた。
「あの……本当に私の事を何だと思っているんですか? これ、確実に葉月さんの二倍以上ありますよね」
天音は葉月の土鍋と見比べている。
「鍋が一人用と四人用のしかなかったからな。天音の分は二人前しかいれてないから安心しろ。それに天音なら二人前くらい食べきれるだろ」
「……わかりました。では、食べましょう」
「そうだな」
「いただきます」」
二人は鍋の蓋を開けて食べだした。
「あふっ……あふ、あつい……」
熱々のうどんに苦戦しながらもズルズルと食べる天音。
「味はどうだ?」
「はい。美味しいです。そうですね。お母様と同じくらい美味しいと言っておきましょう」
「なら、良かった」
手をブンブン回して喜ぶ天音に葉月も嬉しくなっていた。
天音はフーフーと冷ましながら啜る。
「葉月さん」
「ん?」
「ありがとうございます」
「おう」
楽しそうに食べる天音を見て葉月は笑う。夕食を食べ終えた後、天音は食器を洗いゲームを再開した。
二人はのんびりとした時間を過ごし眠りにつくのだった。




