帰宅・遭遇
「こんな遅くまですいませんでした。つい楽しくって長居してしまいました」
天音と葉月は二人で夜道を歩いていた。時間は二十一時を過ぎている。
七海と七菜は車で帰ったのだが、天音が帰る前に少し歩きたいと言ったので葉月と一緒に散歩に出かけることになったのだ。
「まぁ、気にするな。俺も昼飯に晩飯までご馳走になれたのはありがたかったからな」
「葉月さんが二人と仲良くなってくれて私は嬉しいです」
葉月の周りを天音がクルクルと回る。
「仲が良いっていうか、普通じゃねぇ?」
「そうですね。普通ですね」
天音が微笑む。
「葉月さん」
「ん?」
目の前で立ち止まった天音に合わせて、葉月も立ち止まる。
「えっと、その……」
「なんだ?」
言いにくい事なのか、天音が言い淀む。
「そのですね。今度、葉月さんの時間がある時で構いませんので、私の実家に来てくれませんか?」
「別にいいけど」
「えっ! 本当にいいんですか?」
そんなに驚かれると思わず、葉月の方が驚いてしまった。
「そんな驚くことか? ただ天音の家に行くだけだろ?」
「儀式の勝者のお披露目をしないといけないんですけど……」
「あ~、そういうことか……」
葉月は肩を落とす。気が重くなった。
「お披露目は一族の本家と分家が一同に集まるのですぐにではないですけど……」
「まぁ、いろいろと言われるだろうな」
天音もわかっているのだろう。暗い顔になった。
「断ってもいいんですよ」
「断るわけにはいかないだろ」
「でも……」
申し訳なさすぎて言い出せなかったのだろう。
「まぁ、避けてられることじゃないし、言われるのは慣れてるからな。別にいいぞ」
「……なんだかあっさりと受け入れますね。私はどうしようって昨日から悩んでたんですよ」
「いいさ。そのくらいは覚悟の上だろ」
「あははっは」
葉月がニッと笑うと、天音は嬉しそうにハニカム。
「なら、日にちが決まったら教えてくれよ」
「はい。わかりました」
葉月の家の前に着くと一台の車が止まっていた。
「では、今日はこれで失礼しますね」
「あぁ、また来いよ」
天音は何度も振り返り手を振る。その後ろ姿を葉月は見送る。
天音が乗った車が去って行くのを眺めた後、葉月は家に帰る。
玄関を開けようと鍵を入れると、鍵が開いていた。
「ん?」
忘れ物でもして、七海や七菜が戻ったのかもしれないと思い部屋に入ると、敷いた覚えのない葉月の布団が部屋のど真ん中にある。
「んん……」
布団から声がした?
葉月はゆっくりと警戒しながら布団に近づき、そしてガバっと布団をはぎ取る。
「……」
葉月は固まった。
布団の中に幼女がいた。金色のふんわりとした長い髪が布団に広がり、真っ白の肌に漆黒のドレス纏った人形のような十歳位の幼女。胸元が上下しているから人形じゃなく間違いなく生きた人間だ。
葉月は今日一日の行動を思い返す。朝から幼女にこんな可愛らしい幼女に出会ってない。
どうしたらいいのか。葉月の常識の中に幼女が自分の布団に入っていたときの対処方なんて存在しない。この状態で警察が来たら葉月の人生は終わるだろう。
どうすることも出来ず、葉月は少女の眠る姿を見つめることしかできなかった。
「ふぁ~」
部屋の壁際でウトウトしていた葉月は可愛らしい声に目を覚ました。
「あっ、起きたか?」
「ん~? ここは?」
上半身を起こした幼女は周囲を見渡す。
「俺の部屋だけど」
「ダレ?」
葉月の顔を真っ直ぐに見つめる深紅の瞳に恐怖の色は一切なかった。
「俺は霧島葉月だけど」
「よかった~。セイカイだ」
なにがセイカイなのか葉月にはわからなかった。
「俺が正解なのか?」
「うん! オニイチャンとトモダチになりにきたの」
「友達?」
「そう、ナカマのトモダチ」
「……」
葉月には意味がわからずフリーズしてしまった。そんな葉月のことなど気にもせず幼女は立ち上がると、スカートをチョコンと摘みお辞儀した。
「アンはね。ジュンケツシュのキュウケツキのアンジュです。よろしくね。キュウケツキのオニイチャン」




