決着
「ふふふっふ……」
堪えるような笑い声。
その声はすぐに弾けた。
「っあははっは」
無邪気な笑い声が白亜の空間に響く。
「……はぁ~」
その笑い声を聞きながら葉月は全身の力を抜き、ドサッと座り込む。
「もう、葉月さん。冷や冷やしましたよ」
「笑ってるくせにか?」
「ふっふふ、だって、覚えてろ。なんて捨て台詞を聞く事が現実であるなんて思いませんでしたから」
天音が悪戯っぽく笑う。
「俺も初めて聞いたぞ。でも、良かった~」
「はい。ナイスな演技でした。完全に葉月さんの事、吸血鬼だと思っていましたよ」
「あそこまで、上手くいくとはな……俺ってそんなに怖いか」
葉月は、いつもの様に頬の傷を掻く。
「見た目は……まぁ、怖いですね」
「そうだよな……」
微妙に落ち込む葉月に天音は
「葉月さん」
「ん?」
「今回は上手くいきましたけど、あんな方法はもう止めてくださいよ。もし、草加さんが攻撃してきたら葉月さんに勝ち目はなかったんですよ」
「まぁ、俺も流石にあんな手は二度と使いたくないな。でも、戦っても勝ってたかもしれないだろ」
「無理です。こんなボロボロの身体では瞬殺されて終わりです」
天音はムッとした顔で葉月を睨んだ後、天音の顔が綻ぶ。その顔を見て葉月は笑う。
こうして無事に戻ってくる事が出来た。
そう実感できた。
これで全てが解決出来たとは思わない。でも、今はそれで良いと思う。
時計の針が十二時を指す。
「誕生日おめでとう。天音」
「ありがとうございます。本当に夢じゃないですよね」
「あぁ、現実だ。頬でもつねってやろうか?」
「遠慮しておきます」
天音が微笑み続ける。
「葉月さん」
「なんだ?」
「これからも助手として、よろしくお願いしてもいいですか?」
「あぁ、いいぞ」
「ふっふ、ありがとうございます」
葉月の即答に満足した天音が会心の笑みを浮かべ立ち上がり、クルクルと回る。
破れているがドレス姿の天音は綺麗で、葉月の血で汚れているのが勿体なかった。
「あの~、葉月さん。どうです?」
「綺麗だと思うぞ」
「そうですか!」
「あぁ」
「なら、せっかくですから結婚式でもやってみます?」
「なっ⁈ あ、天音」
「葉月さんには権利があるんですよ」
「いや、だからって」
「冗談ですよ。そんな状態では無理ですよね。あ~あ、残念です」
天音はご満悦にピンクの舌を出す。
「どこ行くんだ?」
「お父様に報告に行ってきます」
嬉しそうにステップを踏みながら、天音が扉の向こうに消える。
「よくやったね。ツッキー、君の勝ちだぜ」
「えぇ、ありがとうございます。リリーさん」
「ボクは何もしてないぜ。ただ魔術協会としての仕事をこなしただけさ。それよりも」
と言い武藤の方を見て続ける。
「どういう理由かは知らないけど、最後の一撃。武藤は一瞬何か迷ったみたいだからね」
「そうですね……」
「それでも勝ちは勝ちさ。あとは任せてゆっくり休みな」
「ですね」
葉月の意識はゆっくりと闇に落ちていったのだった。




