葉月の一撃
攻防は一瞬だった。
恐ろしい速度で襲いかかる武藤の右手。魔剣のような一撃を、葉月が左手の手甲で受け流し右の拳を突き出す。
防御とほぼ同時に突き出した葉月の全魔力を込めた渾身の一撃。その一撃が、武藤の顔面に向かう。
「ハズレだぁ」
しかし、武藤は身を翻し余裕でその拳を躱した。そのまま武藤は左爪で喉を引き裂こうと、下から突き出す。
「ふっ!」
それでも葉月は諦めることなく右足を武藤の方に向けて踏み出す。
前に踏み出した右足を軸に葉月が回転する。武藤に背中を見せるように回りながら、全身の回転力のみで武藤の爪を受け流す。
完全に流しきることが出来るはずもなく、背中から血飛沫が飛び散る。
「ちっ! 器用だな! そんなことも出来るんか」
武藤が舌打ちする。
「はっ!」
「くっ」
回転の勢いを殺さないまま、葉月の裏拳が武藤の顔面に吸い込まれる様に決まる。
一撃を受ける事を覚悟した武藤の顔に完璧に叩き込まれた。
腕が伸び切った弱々しい左拳が……
ただ当たっただけの拳。武藤にダメージを与えることなど到底出来ない。くだらない一撃。
「なんだよ、これでしめぇかよ……最後に下らねぇことしやがって、くそが死んで詫びろやぁ」
悪魔のように怒りに満ちた表情の武藤は、振り上げた腕を振り下ろす。人間の胴体視力では捉える事の出来ぬ速度。先ほどより速い武藤の全力の一撃。
葉月の待っていた最強の一撃。葉月は武藤に手の甲を向けたまま左手を開く。
武藤からは掌で見えない完璧な位置。その位置、開いた掌から一枚のコインが現れる。
武藤の攻撃は止まらない。
コンマ一秒に満たない時間の中で武藤と目が合った。
その瞬間、武藤の動きが一瞬だが鈍った気がした。
「ショートカットぉぉぉぉぉ」
武藤の爪が頬に少し突き刺さった瞬間に、葉月は叫んだ。
葉月の全てをかけた叫びだった。




