高揚
葉月と武藤は何度も交錯する。
二人がぶつかり合うたびに、葉月の服が裂け、血飛沫が散った。
明らかに葉月の方が劣性である。
衝突するたびに傷つくのは葉月の方だけで、人狼化した武藤には届かないのだ。
「おい、おい、おい。どうしたんだぁ。防戦一方だな。攻撃しないと俺には勝てなねぇぜ。勝つんだろ? この俺に!」
「……」
武藤が挑発してくるが、葉月は答えない。答えている余裕などない。
「どんな魔術使ったっていいんだぜ。勝つんだろ。この俺に! 俺に勝ちてぇなら、勝てるだけの力を持って来いよ! 大口叩いといてこの程度か?」
武藤が攻撃の手を止め吠える。
「はぁ、はぁ、流石に強いな」
葉月は構えを解かず話しかける。
「そりゃ、そうだぁ。俺は最強になる男だからな」
牙を剥きだしに答える武藤。
「そうかぁ……最強かぁ」
「そうだ。最強だ。喜べ。お前は俺が最強になる為の生贄になるんだからな」
葉月が力なく笑うと、武藤も笑う。
「でも、まだ最強じゃないんなら、俺の勝ち目が無いわけではないだろ」
「まだ吠える元気があるじゃねぇか。いいねぇ。やっぱ、獲物はこうでないとなぁ。張り合いってもんがねぇ」
「あぁ、俺もそう思うよ。続きといこうぜ。最強」
パン、と祈るように両手を一度合わせ、再び両拳を葉月が握る。葉月はしっかりと腰を落とし、右手に魔力を集中する。
動く気つもりはない。ただ、カウンターだけを狙った構え。
「カウンター狙いってわけか。いいぜ。その挑発に乗ってやるよ。その上でお前の全てを潰してやるよ」
牙を剥きだし、武藤の両腕の爪が剣の様に伸びた。
「うをぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ」
武藤の咆哮に建物が振動する。
魔力を込めている右手以外が武藤の圧力で痺れる。膝が震えそうになるのを、葉月は必死に堪えていた。
ステンドグラスが振動に耐えれず割れ、七色に輝くガラスが散る。幻想的な光景を前に、武藤が前傾姿勢を取り地面を蹴った。
武藤が蹴った床が砕け散り、二人の身体が激突した。




