期待
「やぁ、アーちゃん」
「リリーさん、これはどういう事ですか⁈」
「霧島葉月様は正式に九法の儀式に介入なさいました。よって、現婚約者候補の武藤啓悟様と決闘を行って頂いております」
リリーより先に御影が説明する。
「そ、そんな……だって、葉月さんは魔術師の家系ではないはずです」
天音は葉月がなぜ武藤と戦っているのかわかっていないようだった。
「アイルミストの名を継いだんだぜ」
「えっ! アイルミストってロンドンの有名な魔術師ですよね」
「そうだぜ。ツッキーはクロエ・アイルミストのたった一人の弟子だったからさ」
「……」
衝撃を受ける天音をよそにリリーは二人の戦いに視線を戻す。
「それにしても、あそこまで成れるのかい。魔術協会で武藤啓悟が魔術師狩りの有望株に上がるわけだぜ」
リリーの言葉に御影が頷く。
「そうですね。六歳の時に人狼化する魔術を身体に刻んだらしいですよ。彼」
視線の先で、人狼化した武藤が暴れ狂っていた。武藤が飛ぶだけで床が砕け、建物が揺れる。
一撃でも当たったなら、葉月はバラバラに引き裂かれるだろう。
「ツッキーには荷が重いかな~」
両手を頭の後ろで組んでリリーは軽く言い放つ。
「荷が重い? 彼の魔術は召喚ですよね」
「うわぁ、流石、御影っち。一度見ただけでツッキーの魔術を見抜いたのかい」
「私も召喚術師ですから」
御影としては同じ召喚術師とは思いたくはなかったが……
「あ~、そうだった。忘れてたぜ」
「体術の実力は認めます。あの姿になった武藤の攻撃を良く防いでます。でも、彼には何もないですね。このままだと彼は確実に死にます」
「そうだね」
今の所、かろうじて躱せているのは武藤が手を抜いて楽しんでいるからに過ぎない。武藤が本気を出せば攻撃が当てるのは簡単だろう。
それでも、葉月は戦っている。
その、瞳に恐怖など微塵もない。ただ、真っ直ぐに敵である武藤だけを見据えている。
御影には、どうしても分からない。
負けの分かっている勝負を続ける葉月の気持ちが
それを見守り余裕の笑みを見せるリリーの気持ちも
ただ、他に魔術を持つはずのない葉月が何を見せてくれるのか少しだけ、ほんの少しだけ楽しみになっていた。




