見つめる先
「えっ?」
草加が用意したウエディングドレスに身を包み、儀式終了の時間が来るのをただ待っていた天音だったが、建物が大きく揺れ獣のような咆哮が聞こえた時、天音の脳裏に一人の人物が浮かんでいた。
霧島葉月。
彼が九法の儀式に関われる訳がないのは分かっていた。
それでも、彼なら来てくれるのではないかと期待してしまった。
絶対に違う。
そう思っているのに、確認してしまった。
クリムゾンウェディング。葉月にかけた呪い。視覚共有呪術。お互いのどちらかが拒否しない限り解ける事のない呪術。
呪いが解けていなかったのが分かった時、天音は嬉しかった。
あんな別れ方をしたのに、葉月は天音を拒絶していという事実が
しかし、目の前の状況を天音は純粋に喜ぶ事が出来なかった。葉月が立っているのは、このホテルの結婚式場。そして葉月の目の前には、殺意に満ちた人狼の爪が迫っているのだ。
「どうして……」
このままでは葉月が死んでしまう。
白亜の大聖堂で葉月の命が終わる。
どうしてこんなことになっているのか……
理由など決まっている。
私のせいだ……
私なんかの為に……
葉月さんが死ぬ……
そんなの嫌だ。
それだけは耐えられない。
「……っ!」
天音は無我夢中で走り出していた。
ドアを蹴り開け、式場までの廊下を駆け出す。
邪魔なウェディングドレスのスカートを裂く。
すぐ目の前に純白の扉が見えた。
重い扉を押し開ける。
その先には、信じられない光景が広がっていた。




