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ダメ魔術師の優しい魔法  作者: 辻流太
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激突

 白亜の空間をステンドグラスの光が幻想的に照らす中、最高級の調度品や椅子が次々にガラクタに変わっていく。

 砕けた調度品が世界を埋め尽くす。ただ、ひたすら砕けていく芸術品。

 その中で、葉月は両手を前に突き出し腰を低く構え、視線は真っ直ぐ相手だけ見据える。武藤が振り上げた拳を葉月が躱し、躱しきれない拳は受け流す。

「いいねぇ。いいぞぉ。これだけ攻撃して当たらねぇのか! 防御は一級品だなぁ。面白ぇ、面白ぇよ、お前。くくっく、今までの敵の中でも一番だ。最高だなぁ、お前」

 笑いながら、必殺の拳を振い続ける。

 今までの魔術師が武藤に勝てなかった理由。それは単純に力とスピードにねじ伏せられたのだろう。

 通常、若い魔術師はいかに詠唱を短くするか、どれだけ多くの魔術を習得するか、自分の魔術の幅をどれだけ広げるかを鍛錬する。

 武藤の戦い方は肉体の駆動に全ての魔力を注ぎ込み相手を粉砕するだけの単純なものだ。

 単純であるからこそ相当レベルが高い魔術師じゃないかぎり、詠唱が間に合わず一撃で粉砕されて終わるだろう。

 実際、体術の訓練ばかりしていた葉月でも暴風のような武藤の連撃を躱すのに集中している。

 武藤には笑うだけの余裕がまだある。

「いつまでも防御してるだけじゃ勝てねぇぜ」

「そうだなっ」

 武藤の攻撃を受けながら、葉月は腰を落とし懐に飛び込む。ひじ打ちを武藤の腹部に打ち込み、武藤の顎に向かって渾身の右拳を振り上げる。

「くっ!」

 武藤が身体を逸らし距離を開ける為、後方に飛ぶ。

 追撃しようとした葉月に大量の椅子が飛来した。三人は座れそうな大きな椅子。

 葉月は咄嗟に床を転がるように回避したが、回避した先では武藤が待ち構え、拳を振り上げ獲物を狩る獣のような眼光で葉月を見下ろしていた。

 

「楽しかったぜ。でも、そろそろ死んどけ」

 

 武藤の全力の一撃が振り落される。

 転がり回避しようと思ったが、壊れた椅子の破片が邪魔で身動きが取れない。

 この体勢では受け流すことも出来ない。

 勝利を確信した武藤の顔面に向かってコインを弾く。

 葉月唯一の魔術。

「ショートカット」

 魔術を発動させる呪文を詠唱する。

 

 ぐしゃり、という音が響く。葉月の拳が武藤の顔面にめり込んでいた。

 後方に吹き飛ばされた武藤は何が起きたか分からず、打たれた顔面を抑え絶句していたが、すぐに唇の端を思いっきり吊り上げ笑う。

「今のは何だ。何の魔術だぁ? 空間転移か? いや、違うな。それにしては詠唱が短すぎるなぁ」

 倒れたまましばらく武藤は動かなかった。

「はぁ、はぁ……」

 葉月は、肩で息をしている。

 召喚魔法による移動での不意打ちの突きを、全身の筋肉を連動させ魔力で強化した拳で叩き込んだ。ダメージがないはずはない。しかし、武藤は笑いながら顔を上げる。

「そうだ。そうだったな。お前も魔術師だったんだよなぁ。忘れてたぜ。実はなぁ、俺もそうなんだよ……なぁ、今度は俺の番でいいよなぁ」

 不気味に武藤は身体を起こす。

 その身体には今まで以上の魔力が満ち、眼光はさらに鋭く日本刀のようだった。

 武藤は上着を破り捨てる。その身体には刺青が刻まれており、流れる血を刺青に塗りたくる。

 

「さぁ、変化せよ。変異せよ。変成せよ。変動せよ。変質せよ。変貌せよ。変われ。交われ、俺は求める。最強に、最悪に、喰らえ。喰らえ。喰らいつくせ」

 

 呪文の詠唱と共に、身体に塗った血が刺青に染み意味を成す。それが魔法陣だと、葉月にもすぐに理解できた。

 武藤の身体が肥大化していく。筋肉が膨張し、全身を鋼のような体毛が覆い、爪は鋭く伸び、牙を剥きだす。

 獣人。

 人狼。

「……」

 目の前の光景に、葉月の顔が緊張する。

「くっくくくく、くっはははっはぁ」

 変貌を遂げた武藤が吠える。

 身体の調子を確かめるように振るったかぎ爪が触れる物を全てを粉砕する。

「さぁ、第二ラウンド始めるぜ。気を引き締めろ、俺を存分に楽しませろよ」

 武藤の笑い声と共に、二人は再び激突した。

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