過去
これは過去の記憶。
葉月にとって大切な記憶。
「葉月君」
「何です? 師匠」
病院のベッドの上で、クロエは笑っていた。
「葉月君は魔術師でなく、魔法使いを続けるかな?」
「えぇ。続けますけど」
「そうか……魔術師の世界の中で君の言う魔法使いを続けるのは大変だぞ」
「分かってますよ。でも、素質にあった生き方だけが、幸せで正しい生き方ではないんですよね」
葉月が笑うとクロエも笑う。
「そうだね。でも、魔術の世界は葉月君の思っているほど優しく出来ないからね。この世界で生きていくなら家系や肩書きが必要な時が来るだろうからね」
「それは……」
「そうだよ。だから、葉月君が必要な時にちゃんと前に進む為に、選べる選択肢を増やせるよう、私から最後の贈り物あげよう。君は馬鹿だけど、ちゃんと考えて行動できる子だからね」
そんな事を言い、クロエは一枚の紙を葉月に託した。
本当はここまでするつもり無かったんだけどな~と呟くクロエの顔は、妙に楽しそうだったのを葉月は覚えている。
その二日後にクロエは他界した。
葉月に魔術師としての遺産の全てを残し、魔術協会に葉月が必要だと判断するまで書類を預かるように依頼までして




