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ダメ魔術師の優しい魔法  作者: 辻流太
27/47

強行

 葉月たちを乗せた車は国内屈指の高級ホテルの正面玄関の前に止まった。

 ここに天音がいる。三人に続き葉月も車から降り、目の前のホテルを見上げる。

「七菜ここでいいわよね?」

 七海が横に立つメイドに問う。

「はい。間違いありませんわ。お嬢様。このホテルの最上階の結婚式場ですわ」

「でも、なんで式場?」

 葉月が首を傾げている。

「どうせ零時と同時に結婚式的な事をしたいんでしょ。天音の父親も儀式の最後を見届けに来てるはずだし」

「余裕だね。誰も来ないとでも思ってるのか、それとも負ける訳がないと思っているんだろうぜ。実際、武藤啓悟に挑む同年代の魔術師なんてそんなにいるもんじゃないはずだしね」

 両手を頭の上で組んで楽しそうにリリーが笑う。

「それが分かってるのに、あんた余裕ね」

「だって、ボクが戦うわけじゃないからね。どうなるかはツッキーの頑張り次第なんだぜ」

「リリーさん、あんまプレッシャーかけないでください」

 頬の傷を掻きながら葉月が苦笑いする。

 七海とメイドの七菜を先頭に、葉月とリリーがその後ろに続く。

 恭しく頭を下げるドアガードマンを横目に自動ドアを抜けと、ロビーの天井は高く巨大なシャンデリアが吊るされていた。床には真っ赤な高級絨毯、大理石の柱、絵画が壁に飾られている。

 葉月が泊まりに来ることなどないだろうほど立派な場所。

 七海と七菜は止まることなくフロントの前に立つ。

「ねぇ、ちょっと聞きたいんだけど、草加ってのが結婚式場を押さえてるはずなんだけど、どこから行けばいいのかしら?」

 七海が従業員を威嚇する。

「ダメですわ。お嬢様。人に何かを聞くときには笑顔が基本ですわ」

 七菜は妖艶な笑みを受付に向ける。

「うっさいわね。別に良いでしょ。作り笑いって苦手なのよ。で、どこよ?」

 問い詰める七海に対して一流ホテルの従業員は笑顔で対応する。

「申し訳ございませんが、お客様に関する情報はお答えいたしかねます」

「そりゃ、そうよね。不審者に部屋を教えるような所にウチは泊まりたくないわね」

 七海は当然の答えに納得し

「じゃあ、仕方ないわね。勝手に調べるわ。七菜」

「周り囲まれてしまいましたがどういたします。お嬢様」

「え?」

 従業員が驚いていて周りを見回した時には、フロントは黒服集団に囲まれ銃を向けられていた。

 それも、かなりの数だ。

「七菜は場所の特定をしなさい。ウチがこの連中の相手するわ」

「承知致しましたわ。お嬢様。手加減を忘れないでくださいね」

「分かってるわよ」

「何をする気だ?」

 どんどんと進む二人の会話についていけず、葉月が恐る恐る尋ねる。

「何って、そんなの決まってるじゃない。我が身に纏え水之陣」

 七海の上げた右手に纏わりつくように水が集まる。

 フロントの従業員が血相を変えた瞬間、黒服の男たちが一斉に発砲。大量の破裂音がロビー内に響く。

 しかし、その銃弾が葉月たちの誰一人にも届くことはなかった。全ての銃弾が水に包まれ、葉月たちに当たる寸前で停止している。

「ねぇ。あんたら、少しはウチを楽しませてくれるわよね」

「……」

 歪んだ笑みを浮かべる七海の殺気に、黒服の男達は後ずさる。

「七城の名を持って命ずる。契約の刃よ。顕現せよ。我と共に踊り狂え。舞華」

 不敵な笑みを浮かべ詠唱した七海の手には大鎌が握られていた。

 漆黒の大鎌。存在する、たったそれだけで葉月は鳥肌が立っていた。

 ゆらりと、七海が動き出す。

 瞬く間に3人の黒服が切り倒されていた。

 焦ったように黒服たちが反撃を開始した。機械的に鳴り響く銃声。だが、七海には届かない。

 七海の周りを漂う無数の水球が、一発たりとも彼女の身体に届かせない。

 猛獣が次々に獲物を喰い散らかすように、七海は大鎌を振い走り回る。

 黒服の一人が、手榴弾を投げた。爆音と爆風がロビー内に響き渡る。

 だが、そんな事など関係ない。

「あははははっ、その程度でウチを殺せるとでも思ってんの?」

 七海の猛攻は一切止まらない。

「ひぃっひぃっ、ひいやぁぁぁぁぁぁっ」

 銃声に紛れ、黒服達の悲鳴が聞こえだす。

 収まった時には、黒服は誰一人立っていなかった。大鎌を肩に担ぎ七海が制圧したフロアを見渡し戻ってくる。時間にして一分程度。

「七菜。どう? 分かった?」

「はい。やはり最上階にある式場に天音様はいらっしゃいますわ。最上階に行くにはこのカードキーが必要ですわね」

 フロントの従業員が腰を抜かしている間に、七菜はフロント内に入り込み管理用パソコンを操作し場所を検索していたようだ。

 七菜がエレベーターのカードキーをリリーに渡す。

「よっし、じゃあ、行くとしようぜ。ツッキー」

「了解」

 葉月とリリーはエレベーターに向かって歩き出す。外ではパトカーのサイレンが聞こえていた。

「ウチと七菜でここは対応してあげるから、安心して行って来なさい」

「助かる。七城さん」

「礼はいいわよ。天音を任せるんだから、その、あの、なんて言うか、頑張んなさいよ。失敗したら許さないわよ」

 恥ずかしそうな七海に、葉月は頷きエレベーターに乗り込む。

 先に乗っていたリリーがカードキーをボタンの下に差し込み、三十階のボタンを押す。

 両手に装着した手甲を確認し、葉月は深呼吸した。

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