天音のごはん
「なぁ、天音」
台所に向かって話しかけると
「どうしました? 葉月さん」
返事が返ってくる。
「あの子犬ってどうなった?」
「あの子はリリーさんが預かって行きました」
「そっか、なら安心だな」
「そうですね」
「それと、この部屋に他に誰か来たよな?」
「はい。来ましたよ。私の知り合いですけど、よく気づきましたね」
「天音の持ち物っぽくないブランドのバッグがあるだろ」
「あ~、七海のですね」
「七海さんっていうのか?」
「はい。幼馴染なんです」
聞こえる天音の声は楽しそうだ。天音にとって大事な人なのだろう。
お椀とスプーンを両手に持って台所から戻ってくる。ゆっくりと起き上がり、葉月はお粥の入った茶碗を受け取る。
「大丈夫ですか? 辛かったら食べさせてあげますよ」
「だ、大丈夫。自分で食べれる」
凄く魅力的な誘惑だったが、恥ずかしさには勝てなかった。
「ふふっふ、そうですか。では、どうぞ食べてください」
と天音は緊張した面持ちで葉月の様子を眺める。
「……」
「どうしました?」
「いや、凄い臭いがするんだが……」
「高麗ニンジンとかマンドレイクをいれたから香りは仕方ないですよ。でも、栄養抜群ですから元気になります」
「マンドレイクって毒なかったか?」
葉月は心配になり、確認する。
「大丈夫です。しっかり毒抜きしてますので」
「大丈夫なのか……」
「もちろんです」
とびきりいい笑顔で言われると葉月にはどうしようもない。
「そうか……じゃ、いただきます」
覚悟を決め、食らいつく。
「どうですか?」
「……」
高麗ニンジンの独特の味とマンドレイクのよくわからん苦味を塩味で誤魔化そうとした、薬の様な苦い味がした。
「どんどん食べてくださいね」
そんなに嬉しそうな顔で進められると断れない。
それがどんなにまずくても……
そして、全てを完食した葉月の意識は再び途絶えたのだった。




