目覚め
葉月は腹部に圧し掛かる重みで目が覚めた。周りを見回し、すぐに自分が部屋に寝かされていると自覚したが、自分の布団だとは思わなかった。
数日、天音が寝ていたからなのか布団からいい香りがしたからだ。
窓からの差し込む日差しを見て、今が朝になっていることを確認する。確か霊災を浄化した後、葉月は気を失ったはずだった。それがどうして自分の部屋の布団の中にいるのか。天音が家まで運んでくれたのだろう。
葉月は身体を動かそうとする。
「ぐっ……」
痛みで身体が動かしづらい。
「……葉月さん?」
葉月の腹部で何かがモゾモゾと動く。
「おはよう。天音」
「あっ、はい、おはようございます」
葉月が声をかけると、葉月の腹部からガバっと天音が起き上がる。頬にヨダレの痕が残っていた。
「天音。ヨダレ」
「えっ⁈」
慌ててジャージの袖で口元を拭う。
「すみません。ついつい、うたた寝してしまいました」
「昨日は疲れたもんな」
「はい。そうですね……ではなくてですね! 葉月さん! 身体は大丈夫ですか! 異常はないですか? 揺すっても起きなかったので死んでしまったかと心配しましたよ」
「あぁ。大丈夫。魔力が少なくなりすぎたせいで貧血みたいな感じになったんだと思う」
「それなら良かったです」
ほっとする天音は少し鼻をぐずらせているように見える。
「心配させて悪かったな」
「本当ですよ」
天音の瞳には涙が溜まっていた。
「ありがとな」
「いえ、私はただ安全な所で術式を編んだだけですから……危険だったのは葉月さんだけでしたので……」
下を向いた天音は自身を責めているようにも見えた。
「でも、天音がいなかったら出来なかった。俺にはあの子らを助けられなかったんだ。助けたのは天音だ。それに俺はわがままを言っただけで、天音はそのわがままに答えてくれたんだ」
「……」
「俺だって死ぬのが怖くないわけじゃないんだぞ。でも、天音だから大丈夫だと思ったんだ」
「葉月さんは私のことを信用し過ぎですよ」
クスっと天音が笑みを漏らす。
「そりゃ、自慢の助手だからな」
「そうでしたね」
二人して笑う。
「あっ、お腹空いてないですか?」
「ん? そうだな。空いたな」
「お粥作ったんで、用意しますね」
立ち上がり天音が台所に向かって行った。




