葉月と巨犬
十五分。
短いようで長い時間だ。
膨大な魔力がビル内で渦巻き、荒れ狂い、今にも葉月なんて引き裂かれてしまいそうなほどだ。
もう十分はたっただろうか、もしかしたら五分も経っていないかもしれない。
動くたびに汗と血が飛び散る。
服が汗で身体に張り付いて気持ち悪い。
だが、それ以上に襲いくる牙や爪が怖くて仕方ない。いっそ、引き裂かれてしまった方が楽な気さえしてしまう。
「ショートカット」
回避行動の為にコインを弾き数度目の召喚魔術で移動する。四メートルもある巨躯に見合わぬスピードで、鋭い牙が葉月を喰い千切らんとせまる。迫りくる牙を横に飛び回避する。
続けざまに爪が葉月に迫ってくる。今度は手甲で受け流す。
止まらぬ追撃を手甲で防御しつつコインを投げ召喚で逃げる。
「ショートカット」
巨犬の後ろに召喚移動する。
回避しても、回避しても、回避しても、止まることのない猛攻。それでも葉月が動き続けることが出来るのは、右耳に付けたインカムから聞こえる天音の声のおかげだと思う。
まるで唄っているかの様に紡がれる天音の詠唱。
その声が聞こえるだけで頑張ろうって思える。
核の破壊だけなら、本来は終わっているはずであった。効率だけを考えるなら葉月の願いなど断るべきなのだ。ただ、殺したくない。そんな葉月のわがままを天音は受け入れてくれた。
わざわざ組んだ魔術を無駄にしてまで……
だから、葉月はやり切らなければならない。
どうやって動きを止めるかは考えている。
だから、天音の魔術が組みあがるまで葉月は攻撃を一切せず、ただひたすら逃げ続ける。




