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ダメ魔術師の優しい魔法  作者: 辻流太
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お仕事の時間

 山の上にその廃ビルは建っていた。廃ビルの周りには進入禁止の看板が沢山並び、赤錆びた有刺鉄線が張られている。外壁のコンクリートは、所々が大きくひび割れており不気味な雰囲気を醸し出している。

 久我さんから貰った資料によると、閉鎖されたのは十年以上も昔の話。

 そこまでは問題なかったが四年前にこのビルから、何百という様々な犬が死骸で発見された。死骸には多くの傷があり、ナイフや銃弾で出来た傷跡がほとんどだった。犬達はサバイバルゲームの的にされ殺されたみたいだ。殺された犬達の恨みが、ゆっくりゆっくりと時間をかけて地脈を通う魔力を得て霊災となっているのだろう。

「あー、あー、天音聞こえるか?」

『はい。聞こえていますし、視界も良好ですよ』

 右耳に付けたインカムに話かけると、すぐに天音から返事が返ってきた。

「いい場所はあったのか?」

『ありました。その廃ビルから五百メートル離れた所にあった廃ビルの屋上にいます。葉月さんがいるビルまで遮蔽物がほとんどないのでいい感じです』

「それにしても、雰囲気あるな」

『そうですね。汚染された魔力がビル全体を包み込んでいますね。それにビルのあっちこっちから視線も感じますよ』

 葉月の瞳が紅く染まっている。グレムリンウェディング。昨日、天音が見せてくれた視覚共有の呪術だが、解除せずにそのまま今日の依頼で使おうということになったのだ。

「えっ? そうなのか」

『そんなに近くにいて気づいてなかったんですか!』

 はぁ~、と天音はため息をつく。

「あぁ、そういうの得意じゃないんだよな」

 葉月は頬の傷を掻く。

「葉月さんって感知能力も低いんですね」

「それはそうだろ。感知の魔術なんて使えないんだぞ」

『悔しそうに聞こえないのは気のせいですか?』

「まぁ、気にするなって」

 苦笑いする葉月の足は震えていた。

『もしかして葉月さん。怖いんですか』

「ぐっ……」

 図星だった。

『ふっふふ、大丈夫ですよ。葉月さんは私が守りますから』

「いや、別に怖いってわけじゃないけど、頼むな」

『はい。任せてください』

 クスクスと笑う天音の声を聞いていたら、なんだか気が少し楽になった気がした。

 葉月は両手の手甲とポケットのコインを確認し

「じゃ、行くか」

『はい。行きましょう』

 葉月はゆっくりと廃ビルの中に入って行った。

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