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ダメ魔術師の優しい魔法  作者: 辻流太
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夕食

 夕飯の準備をした葉月が部屋に入ると、部屋の隅で念仏の様になにかを呟いている天音が座っていた。

 もちろん、すでにジャージを着ている。

「天音。飯出来たけど……」

「……」

 天音からの返事はない。

「前の机取るぞ」

「……」

 空気が重い……

 葉月は部屋の真中に折り畳み式のテーブルを出し、料理を並べる。本日の夕食は目玉焼きを乗せたハンバーグにインスタントのコーンスープ、野菜サラダ、ご飯がテーブルの上に並ぶ。

「飯が出来たぞ。天音食わないのか? さっき腹鳴ってただろ」

「あんなことがあったのに、よく普通に話しかけられますよね」

 ヘビのような目で睨まれた。

「いや~、俺としてもどうしていいかわからないんだが……終わったことはどうしようもないし」

「わかってますよ! 私が悪いんです! お風呂場に着替えを持って行き忘れたうえに、まだ葉月さんが帰って来てないだろうと油断して、はっ、は、ハダカのまま出てきてしまったのですから……もう、お嫁にいけないです」

「なら、俺がもらおうか?」

「なっ、何を言っているんですか!」

 顔を真っ赤にし天音が振り返る。

「冗談だよ。冗談。まぁ、落ち着いたら食えよ。なんなら俺が部屋から出るぞ」

 また、暴走しそうな天音に葉月は落ち着いて対応する。

「……出なくていいです」

「いいのか?」

「いいです」

「なら俺は食べるけど、天音は?」

「……」

「冷めるぞ」

「うー」

 噛みつきそうな目で睨まれる。

「もういいです! 食べます! 食べますよ! もう、やけ食いしてやります」

 顔を真っ赤にして叫び、葉月の正面に座る。

「いただきます」

 と、言うと天音はハンバーグを食べ始める。

「いただきます」

 天音が食べだすのを確認し葉月も食べる。

「葉月さん!」

「ん?」

「今日も美味しいです」

 天音が目を逸らし顔を赤らめながらも褒めてきた。

「そうか」

 葉月の頬が自然と緩む。

「本当に美味しいです。料理を美味しく作る秘訣はあるんですか? 私、料理したことがなくって……」

「あ~、秘訣って言うか慣れだろ」

「慣れですか……」

 なにかを考える天音。

「そう、慣れ」

「なんか希望がない答えですね」

「何事も反復練習だろ。それに頑張れば上手くなるって希望があるだろ?」

「それは……そうですけど」

 納得していないようだ。

「まぁ、でもな。いつもより少し手間は加えてるし、俺の飯が美味いのは天音が美味しそうに食べてくれるからかもな。喜ぶ顔って見てて自分も嬉しくなるだろ」

「それは……そうですね」

 なにか思い出したのか天音は頷き笑う。

「天音も心当たりがあるのか?」

「私も昔はお父様やお母様を喜ばせる為に魔術の訓練を頑張りました」

「それと同じようなもんだろ」

「じゃあ、私はしっかりと食べて喜ばないとですね。葉月さん。おかわりください」

 モグモグと美味しそうに食べながら天音がまた笑う。

「あぁ、沢山食べろよ」

「明日の為にも食べます!」

 それから、天音は炊いてあった米を全て食べつくすまでおかわりを続けたのだった。

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