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ダメ魔術師の優しい魔法  作者: 辻流太
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訓練

 喫茶店を出た葉月と天音は魔術協会管理の訓練所、別名を魔術体育館で模擬戦を行っていた。

 初めは霊災を祓う為に策を練っていたが、お互いがどんな戦いをするのか模擬戦を行う事で把握しようと天音が言い出したからだ。

 天音は魔術で作り出した雷撃の槍を握り、葉月は拳から肘までを覆う手甲を装着し、二人は息詰まる攻防を繰り返していた。

「じゃ、そろそろスピード上げますよ」

「なっ⁈」

 バチンと天音の身体から青白い火花が散ると同時に、天音の攻撃スピードが上がる。

 目にも止まらぬ程の天音の槍裁きに、次第に葉月は防戦一方になっていく。

「この速さでも防御出来るんですね」

「まぁ、これぐらいしか出来ないからな。っと」

「うっ……」

 葉月の手から放たれた銀色のコインが天音の眼前を舞う。目を剥く天音。

「ショートカット」

 コインの位置に葉月の右拳が出現した。完璧にとらえたと思ったが、その意表を突いた葉月の攻撃をギリギリのところで、天音は空中にジャンプし躱した。

 天音との間合いが大幅に開き、天音が小声で呪文を詠唱する。

「ふっ~、今のはなかなか危なかったですね。でも、チェックメイトです」

「なっ!」

 空中に飛んだ状態の天音の左手に弓が出現し、右手の雷撃の槍は矢へと変化、弓に矢をつがえていた。葉月の反応速度を超えた速度で放たれた矢が地面を砕く。あまりの威力に足場を失った葉月がバランスを崩した瞬間、天音が新たに作り出した雷撃の槍を葉月の喉元に突きつける事で勝負が決した。

 葉月はそのまま地面に寝転がる。

「ふっは~、まさか、弓まで使うとは思わなかったぞ」

「私の得意な武器は弓ですから」

 葉月の横にチョコンと天音が座る。

 魔術の多彩さ、戦闘中の集中力、接近戦の技術に加え、遠距離攻撃まで出来るのでは葉月には手が負えない。

 初めから分かっていたが、明らかに天音の方が葉月より強い。

「にしても、流石に強いよな」

「当然です。生まれた時から魔術師なんですから。でも、葉月さんの体術も凄かったですよ。特に防御。私も本気で攻めてたんですが、一発も当たらないなんて初めてです。驚きました」

「まぁ、召喚覚えてからは特訓のほとんどを体術、それも防御に費やしたからな。それだけは得意なんだよ」

「体術も師匠に習ってたんですか?」

「いや、体術は久我さんに教えてもらったんだよ」

「久我さんって何者ですか?」

「あの人は三年前まで魔術協会の魔術師やってたんだ」

「へぇ~、そんな人がどうして葉月さんに体術を?」

「俺が自分を召喚した後に師匠が久我さんに頼んでくれたんだよ。魔術に関わる気なら体術でも覚えるしか道はないって」

「久我さんの特訓って怖そうですよね」

「あぁ、気を抜いたら殺されるんじゃないかってくらい追い込まれたから、特に防御は必死に身に着けたな~」

「あははっ……笑えませんね」

「だろ」

 葉月は笑っている。

「これだけ葉月さんが体術出来るなら……葉月さんが前衛やってもらって、私が後衛に徹した方が良さそうですね」

「まぁ、そうだな」

「大丈夫ですよ。絶対、護りますから」

「そうか、よろしく頼む」

「そう言えば聞いてませんでしたが、どうして葉月さんは自身を召喚したのですか? 召喚なんてしなかったら今頃……」

 天音が聞きづらそうに尋ねてくる。

「その時には選択肢がそれしかなかったんだよ」

「何があったんですか?」

「まぁ、ちょっとした事故に巻き込まれて仕方なくってやつだよ」

 葉月が弾いたコインを天音がキャッチする。

 銀色のコインには召喚の魔法陣が刻み込まれていた。

「葉っぱと月の模様を刻んでいるんですね」

「友達が考えた陣なんだ、名前から取ったらしいぞ」

「……」

「ん? どうしたんだ。黙り込んで」

「事故に巻き込まれたのって葉月さんだけですか?」

「いや、その陣を考えた友達と二人」

「やっぱり、自分の為に使用したんじゃないんですよね?」

「……」

「まっ、葉月さんですし、その辺は良しとしましょう。確認ですが、葉月さんの魔術のリスクを教えてくれませんか?」

「リスクか……まずコインに魔力が込めてないとダメだし、コインの模様に傷が入ると使い物にならないし、詠唱中はコインを目視しないといけない。更に召喚後の位置はコインを右手に掴んだ状態って決まってるな。不便なところもあるけど魔術を使えてるからいいやって感じか」

「自身を召喚したら他の魔法が使えなくなるって知ってたんですよね?」

「師匠には注意されてたな。面白いけど将来の可能性を捨てることになるって」

 天音には葉月の師匠の言う面白いの意味がわからなかった。他の魔術が一切使えなくなる。それは魔術師にとって愚行でしかないのだから……

 実際に今の模擬戦で分かった事は、葉月は魔力の流れをコントロールすることによって肉体強化することぐらいしか出来て無かった。

 せっかく一般人から魔術師になったのに……

 それも自分の意思で魔術師を探し出し、魔術師になったにも関わらず。

「はぁ~、やっぱり、葉月さんって変な人ですね」

「そ、そうか?」

 頬の傷を掻く葉月は少し照れ臭そうだった。

「なら、葉月さんは他の魔術はあんまり知らないんではないですか?」

「あ~、そんなに種類は知らないけど……」

「では、葉月さんに私の魔術を見せてあげましょう」

 天音は立ち上がり小さな胸を張る。

「いいのか?」

 葉月は上半身を起こし座り込む。

 天音は呪符を取り出し、魔力を込める。

「いいですよ。約束もしましたし。今日は大サービスです。では、まずはこれからですね。鳳雷乃陣・槍型」

 パンと、両手で呪符を挟み広げる。

 先ほどの模擬戦で見せた雷槍を出現させる。

「槍型?」

「そうです。槍や矢、剣にでもなりますよ。魔力を具現化して形状を変化させているだけなので形は好きに変化出来ます」

「好きに変えれるのか。便利だな。詠唱もしないでいいみたいだし」

「それはですね。これに秘密があるんです」

 天音は嬉しそうに、別の呪符を葉月に渡す。

「あ~、なるほどな」

 葉月は受け取った呪符の裏側を見る。

「裏に詠唱の内容を書くことで省略してるんです。それなりに高等な技術になるんですけど」

 クルクルと槍を回転させながら、剣や斧と変化する。

「ほぉ~」

 葉月が素直に歓声を上げる。

「次が私のメイン武装です。我が血をもって命ずる。我が前の暗雲を祓う者、天を引き裂き光を示せ。魔装・天雷弓」

 左手には弓が握られ、右手には弽を装着されていた。

「えっと、魔装って、召喚魔法か?」

「召喚ではないんですけど、魔装は特殊な武器を血で契約して体に封じているんですよ」

「そんな装備があるんだな」

「それなりに珍しい分類ではありますけど、協力ですよ。葉月さんのは普通の装備ですよね」

「そうだな。丈夫で壊れにくいのだけが取り柄らしいぞ」

「う~ん。何の金属で出来ているのか分かりませんが、良いものなんでしょうね。では次の魔術をお見せしましょう」

 それから天音が次々に使う魔術の多彩さに葉月は興味を示す一方だった。

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