触覚的殺人
暗い世界に落とされたように視界は黒く、目の周りの盛り上がった皮膚から何かが塞いでいる事が分かった。
台に縛りつけられ、腕を片方づつ固定されているのではないかと思ったが、足が自由で不快なほど腕はよく動く。しかし、力が入った気がしない。
耳栓をされているのか音も聞こえないが、毛を逆撫でする感覚がないのはどうしてか背中を指でなぞられる悪寒があった。
視覚、聴覚、神経がない今、体が自由かどうかもわからずじまいで衰弱を望むしかなく、口を開けて叫ぼうと考えても、のりで固められたように渇いてしまったので声はかすれてしまい、距離も掴めないのはもう受け入れるしかない、そう考えてしまった事を察してか、足裏に鳥のはねみたいな感触があった。
それは一度ではなく、往復してくすぐっているかのようにも取れ、何かがそこにいる事に気づいたのだが、それは小さいか大きいかも分からないから安心は出来ず、疑心暗鬼になって後ろの気配を気にする気持ちにも似ている。
今度は足裏に何かが刺さり、水が流し込まれて膨れ上がるような感覚がし、自分は気がついた。
これは夢であって、海を漂っている感覚なのだと。
体を何かが包み込み、包容されているという感覚が正しくそれを表していて、海が揺れる音が心地いい。
そんな夢は夢で、現実はそんな夢でも割って入ってくるのか機械音が鳴り響いて、自分が夢の中に閉じ込められてしまう事も、三途の川を見ていた事も分かっていた。
そう思ったとき、不意に視界が開けて目の前が黒い液と混ざりあって濁った、汚い血が飛び散る肉片のあとを追うようにして顔に乗り、天井にはぶら下げられた腕が細く、骨の形をハッキリとさせて死臭を漂わせる。
血が腕を伝ったのか、上から落ちてきた血が口に入りこみ、ザラザラとした砂っぽい味がこの場所で何が起こっているのかを知らせているが、自分はそれを見慣れたものだとして、気後れもせずに眺めていたが、次第に血の気が引いていくのが分かった。
言葉通りに。