姫
民は富、国は栄え、王都には花が咲き乱れる。
ここは私の誇る愛しき国、クルス。
大陸の南に位置したこの国は広大な領土を誇り、作物が一年中実り、温かい。
人も皆優しく、幸福な笑顔がそこかしこに愛が溢れてる。
私はこの素晴らしい国の第一王女、クロエ・アリンソン・クルス。
第一王女、って言っても一番末っ子だけど。
家族は、お兄様が5人。
お母様が5人。
お父様が1人。
一夫多妻制ってやつね。
でも、だからって別に陰謀が渦巻くとか、兄弟仲が険悪とか、王位争いとか、そんなのがあるわけじゃない。
だってみんなとても仲が良いのだもの!
まぁ……、国を守り導いていく以上、他国に侵略は否応なしにしたりするみたいだけど、政治とか、王位継承権を持たない私にはあんまり関係ないかなぁと思う。
私は、みんなが、家族が、国民が、幸せならば、それで良かった。
それで、良かったのに…。
「お、にぃ…さ、ま…」
目の前には真っ白な顔で横たわるお兄様。
お母様が同じの、エヴァンお兄様。
お父様に、北の国の王女様をお妃様にしなさいって言われて、「ちょっくらどんな子か見て来る」って、そう言って笑顔で出かけて行ったお兄様。
無言の帰国なんて、あり得なかった。
信じられなかった。
「ー我が国の王女は、………そうして……、であると……エヴァン王子には……、……国を上げ……敬意を払い……」
…………。
意識の遠くで、お兄様を届けてくれた使者の方が何かを言っている。
でも、全然頭に入ってこない。
分からない。
何が、起きたのか。
そう、当時まだ幼かった私には、何が起きたのか分からなかった。
だから、真実を知りたくて、私はかの国へと足を踏み入れた。
みんなで、幸せな暮らしがしたかった。
愛と優しさに溢れたあの日々を過ごしたかった。
壊れた真実を、知りたかった。